第六十四話【もう一度立ち返って】
魔獣の襲撃から一日で街はある程度の機能を取り戻し、馬車を走らせることも出来るようになった。
あんなにたくさんの魔獣が現れたのに、それが襲ってきたのに、みんなめげずに復興作業をしてたのは……正直、ちょっと……怖かった。
ヨロクでは……魔獣の多い地域では、こういうことも普通なのかな……って、そう思ったら、俺だけ宮でダラダラしてるのが悪いことに思えて。
そんなことを思ったから……じゃないけど、帰りはいつもよりちょっとだけやる気があって、道中の魔獣退治にも集中出来た。
昨日あんなに倒したのにまだまだ数が多かったのは不安だけど……でも、それを俺が減らしたと思ったら、ちょっとは気も楽になる。
そうして、ハル、マチュシーを経由して、馬車はランデルへと戻り……
「よく来たのであーる! ふたりとも息災そうでなによりであーる!」
「こんにちは、バスカーク伯爵。ヨロクより戻りましたので、挨拶に伺いました」
宮へ着くや否や、また別の馬車を動かして、カスタードのところを訪ねていた。
「協力していただいて貰ってなんの礼もなしというのも不躾ですので、今日は手土産を持って参りました。好みに合うと良いのですが」
「うむ、苦しゅうないのであーる。ユーゴ、そちもフィリア嬢を見習うのであーる。大人として、目上の者をきちんと敬い、それを形にするのであーる」
来たけど……なんか、こんな旅行帰りみたいなやりとりしてていいのか……? フィリアもカスタードも基本的にアホなのはわかってたけど、もうちょっと危機感とかあれよ。
「むむっ! プッディング! これはこれは、カスタードプッディングであーる! フィリア嬢はほんっとうによく出来た娘であーる!」
うるさいなこいつ、お土産のプリンではしゃぎ過ぎだろ。子供じゃあるまいし。
まあ、ヨロクであんなことがあったなんて知らないだろうから、こいつがはしゃいでるぶんにはわかるんだけどさ。
問題はフィリアだ。なんでこんなときに、のんきに手土産なんて買ってんだ。なんかいつもと道が違うなって思ったら、こんなときに何をアホなことを……
「カスタード、今日もまた聞きたいことがある。プリンやったんだから、情報を寄こせ」
「ゆ、ユーゴっ。いけません、そんな乱暴な言いかたをしては」
ああもう、さっさと本題に入らないと。誰かが仕切らなきゃずっとこのままだ。
そう思って話を切り出したのに、カスタードはなんか地団太踏んでキレてるし……ぷっ。真面目な話しようとしてるんだから、おもしろいことするなよ。
「……ふふ。はっ!? す、すみません、決してバカにする意図で笑ったつもりでは……」
「いや、バカにしていいだろこんなやつ。少なくとも、俺はずっとバカだと思ってる」
で、カスタードが変なことするから、フィリアまでちょっと笑っちゃって……まあ、もういいや、これはこれで。気抜けるけど、ちょっと安心もするし。
不敬であーる! って、カスタードがひと通りキレたのを確認したら……
「むぉっほん。そちの無礼と世間知らずには、呆れて何も言えんのであーる。しかーし。手土産も挨拶も欠かさないフィリア嬢の献身に免じて、今日のところは質問を許可するのであーる」
「あ、ありがとうござい……ふふっ……ございます……ふっ……くっ……」
なんだかんだでちゃんとまじめな話に入ってくれるからな、カスタードは。まあ……フィリアがまだ遊び気分で笑い堪えてるから、ちょっと白けた目で見られてるけど。
これについては、なんかするたびにお笑いみたいになるカスタードが悪い。
「こほん。その……また、人を調べて欲しいというのがひとつ。そしてもうひとつは……説明が難しいのですが……北方にあるという、盗賊団とは別の脅威。それについて、何か情報を得られないかと……」
「人を調べる。そして、組織を調べる……であるか。それは……ふむ」
と、まぬけなやり取りも終わって、やっとまともな話が始まった。
でも、フィリアの頼みに、カスタードはちょっと難しい顔をする。それは、出来るかわからない……って悩みかたじゃないな、たぶん。
「フィリア嬢の口ぶりから思うに、そのふたつには関係性がない……或いは、まだそれを認められていないということであーる。ならば、やはり時間がかかってしまうのであーる。それでもよいのであーる?」
「はい、それはもちろん。引き受けていただけるのであれば、報酬は前払いで準備させていただきます」
出来るかどうかじゃなくて、それを調べる意味に悩んでたのかな。たぶんだけど。
でも、それに意味が……意義があると思って、簡単じゃないけど受けてやろうって決めた……と。
そんなカスタードに、フィリアはふたつの調べ物のうち、今回新しく判明したものについて説明し始める。
調べて欲しいのは、あのマリアノって子供。ヨロクの北の林ではいきなり襲いかかってきたのに、街では一緒に魔獣を倒してくれたアイツ。
敵か味方かハッキリしないやつ……だとは思うけど、それで矛盾が生じない立ち位置が一応は存在するんだ。って、帰りの馬車でも確認してたことを伝える。
アイツは……マリアノは、盗賊団の一員じゃないか、って。
「……ふーむ。なるほど、理解したのであーる。確かに、盗賊団との繋がりを持っていても不思議ではないのであーる」
俺達とは敵対関係にあるけど、街が潰れると困る立場だって、最初はカスタードが言い出したことだしな。さすがに理解が早い。
ただこれは、どちらかと言うと盗賊団だったら都合がいい……って話なんだけどさ。
盗賊団とは和解するのが目的だから。なら、ここで繋がりを持てたのは大きい意味を持つだろう……って。
「そして、北にあるもうひとつの脅威について……ですが……」
「わかっているのであーる。現状では、我輩も以前に話した以上の情報は持っていないのであーる。また、調査してみるのであーる」
で、もうひとつの話については、前からの引き続きの調査……だから。詳しく説明されなくてもわかってるか。
盗賊団と衝突してるらしい、ヨロクより北にある何か。今はなんの手がかりもないけど、盗賊との和解が成立したら、次に戦うことになるし。情報は集めとかないとな。
「では、その……報酬の件なのですが。前払いで六割、成功報酬を四割として、私が準備出来る金額は……」
「前にも言った通り、金など要らんのであーる。しかし、報酬もなしにとなれば、責任の薄い仕事になってしまいかねないのであーる。ならば……ふーむ。よし、決めたのであーる」
そして、話がまとまると今度は報酬の交渉に入って……まあ、交渉も何もって感じなんだけどさ。
今回も前と同じように、ふたりで手伝いをしろ……って、カスタードはまぬけな顔でそう言った。
ここを屋敷だと思ってるのはカスタードだけで、掃除もクソも、風が吹いたらすぐに砂まみれになるんだぞ……? それ、本当に報酬になってるか……?
「……ありがとうございます、伯爵。しかし、いつまでもそれでは申し訳が立ちません。こちらで住む場所も新たに準備しますから、一緒に宮で働いてはいただけませんか」
本人がいいならいいか。って、俺はそう思ったんだけど。それじゃ気が引けるのか、フィリアは別の提案をする。一緒に宮で働かないかって。
そうすれば、正当な報酬も払えるし、カスタードの能力を存分に発揮して貰えるだろうから、って。
まあ、いちいちこんなとこ来るの大変だしな。カスタードも暮らすのに不便そうだし、交換条件としては悪くないのかな。
それでもカスタードは、それは難しいのであーる。と、頭を下げて断った。どうしてもここで暮らしたいのか……変なやつ……
「では、前払いの分……我輩の屋敷の六割を綺麗にして貰うのであーる。おや、しかし……ふむ。今中途半端に掃除されても、次の報酬までに時間が空いてしまっては意味がないのであーる?」
「あ、あはは……そうですね。では、こうしましょう。前払いの報酬は、この屋敷の清掃。成功報酬はまた別のお手伝いをするということで」
おい、それだとやること増えてるだろ。わざわざ余計な仕事引き受けるなよ。
まあ……カスタードの情報がないと結構困るし、意味があるかわかんない掃除だけでそれを貰ってるのは……ちょっと申し訳ないから。別にいいけどさ。
「むっふ。では、また成功報酬については考えておくのであーる。ユーゴ、我輩の屋敷をぴっかぴかにするのであーる。フィリア嬢も、精を出すのであーる」
「ちぇっ。フィリア、帰ったら俺にもなんか報酬くれよな。不当な労働だぞ、これ」
別にいいけど、意味があるかわかんない掃除は普通にめんどくさいんだよな。掃除をなしにして、別の報酬をふたつ要求してくれればいいのに。
そんなわけだから、ちょっとだけフィリアに文句言ったら……心底申し訳なさそうな顔をされてしまった。
そ、そんな顔するなよ。不当だとか、報酬ちゃんとくれとか、本気で思ってないから……
そうしてふたりでまた洞窟をきれいに掃除して、やたら機嫌のいいカスタードに見送られて宮へと戻った。
一応、こっちでやることが終わったらまたヨロクへ戻る予定らしい。盗賊団について、なんの情報を得られないままだったから。
それには賛成だけど……ただ、盗賊よりも、もっと別のことが気になってるんだよな、俺は。
結局、あのとき何が起こったんだろう。なんか……覚えてることと実際にあったことがちょっとずつ食い違ってるの……気持ち悪いって言うか……




