第六十二話【繋がる】
「……?」
あれ……? 今……何が起こったんだ……?
タヌキ魔獣に苦戦してて……攻撃を防いだり避けるので精いっぱいで、全然倒せなくて……
アイツも俺と同じで、だから誰もタヌキ魔獣に攻撃を当てられなくて……
北で見つけたんだ、タヌキ魔獣を。それで……えっと……街の真ん中にデカい気配が現れたから、そっちにも行かなくちゃってなって……
でも、タヌキ魔獣もほっとけないから、うまいこと誘導して……
ああ、そうだ。フィリアだ。街の中心部に、役場に、フィリアがいたから。だから、急いで戻らないと……って。
戻って……それで……デカい魔獣がいて、それは簡単に倒せて……
「…………あれ……?」
倒せて……倒しても、まだ終わりじゃなくて。タヌキ魔獣がいるから、それをどうにかしないと被害が出る……って、思って……
なのに、倒せなくて。俺でも、アイツでも、あんな小さい魔獣一頭を倒せなくて、それ……で……
油断……してなかったのに。タヌキの攻撃が……俺でも、アイツでもないほうに向いたのがわかって……
「ユー……ゴ……」
ああ、そうだ。それで……なんでかわからないけど、倒せてたんだ。何をしたのかわからないけど、どうやったのかも覚えてないけど、たぶん、俺が倒したんだ。
だから、フィリアが俺を見て……俺を呼んで、困り果てた顔をしてる……のは……えっと……
「……ンだそれ……ッ。テメエ、クソガキ……今まで手ぇ抜いてやがったのか」
まだ事情を呑み込めてないのに、アイツがちょっと……かなり、怒った顔で詰め寄ってくるのが見えた。
手を抜いてたのか。倒せたのに、今の今まで倒さずに遊んでたのか、って。こんなに被害が出るまで、黙って見てたの……か……って……
「……あれ……」
被害……が……出る……出て……? 北……で、タヌキ魔獣と遭遇して、それ……から……
被害……出てない……よな? えっと……たしか、そこにいた兵士も、みんな無事だった……と思った。
それに、ここまで誘導してからも……攻撃されそうにはなったけど、結果としては間に合った……間に合ってた……から。だから、被害は出てない……?
ああ、いや、そうか。俺がタヌキ魔獣に苦戦してるあいだ、ほかの場所を守れなかったから。じゃあ、そこで被害が出てる可能性はあって……
「……あ……れ……? なん……だ……? なんだ、これ……」
でも、じゃあ、これは……なんだっけ。頭の中にちょっとだけ残ってる……残ってる? 残ってるように感じる……のは、それがもう終わったこと……結果ってこと、だよな。
でも……いや、そんなわけない。だって、タヌキ魔獣は目の前で死んでて、周りには怪我人ひとりいなくて……
だから……だから……
「……なんだ……っ。なんだ……これ……っ」
フィリアの隣にいた人。フィリアの隣にいる人。フィリアの隣に立ってた人。フィリアの隣で、今、俺を見てる人。
その人が、名前も知らない役場の大人が、タヌキ魔獣に吹っ飛ばされて……動かなくなって……?
でも……生きてる……? どこも怪我してなさそうだし、間一髪で攻撃を避けたって感じでも……なくて……
「――っ。うっ……ぐ……」
頭が痛い。いきなり、割れるように頭が痛くなった。痛く……なった……んだよな? ずっと痛かったのを、今になって知った……のか?
わからない。何かが変なのに、それが何かもわからなくて、頭が痛い理由もわからなくて、なんでこんな……気持ち悪い感じがするのかもわからなくて……
「――ユーゴ――っ! ユーゴ! しっかりしてください!」
「クソガキ――っ! チッ……まさか、手抜きじゃなくて……」
なんだ。なんだ、これ。いきなり立ってられなくなって、その場にしゃがみこんで、しゃがんでもいられなくて、両手をついて、なのに四つん這いでもいられなくて……
気づいたらがれきの上で横になってた。ごつごつするし、バランスも悪い。でも、そこに寝転んでるほうがまだ楽だったから。
これは……俺は……どうなったんだ。どうなってるんだ。
タヌキ魔獣は倒した……んだよな? 倒して……気が抜けた? でも、まだ倒さなくちゃならない魔獣はいっぱいいる。なら、寝てる場合じゃ……
「――フィリア――」
声が聞こえた。俺の声だ。俺の……声だよな? 今、俺が、フィリアを呼んだ……よな?
頭が痛いから、苦しいから、つらいから、なんとかしてくれ……って、頼んだ……のか。それは……ダサいな。呼ばなきゃよかった。
でも……俺、声……出ないぞ……? やっぱいい。って言おうと思ったのに。声、出せなくて……
フィリアが真っ青な顔で俺を見てる。マリアノも、いつもみたいにイライラしてるけど、ちょっと心配そうな顔で…………?
マリアノ……? マリアノ……って、誰だ? ああ、アイツか。林で会った、さっきも一緒に戦った、ちびのくせにデカい剣を振り回す…………
あれ……? 俺……なんで、アイツの名前、知って――――
ユーゴ。って、フィリアが俺を呼ぶ声が聞こえた。一回じゃない。何回も、何回も、何回も何回も、ずっと。延々と、呼ばれて……
「……う……ここ……は……」
気づいたら目を瞑ってたらしい。意識が切れてた……のか。頭が痛くて……? そんなにボロボロだったのか、俺。
「ユーゴ――っ。よかった……気がついたのですね」
「……フィリア……? 俺……」
それで……ここは、部屋の中……宿……かな。ヨロクに来てからずっと泊ってた宿の部屋。天井に見覚えがあるし、たぶんそう。
そこで、フィリアが俺の看病をしてくれてた……のか。いや、病気じゃないから看病とは言わないか。病気……
「……病気……じゃ、ないよな……?」
「ユーゴ……? どうかしましたか? どこかまだ痛むところがありますか? 気分が優れないとか……」
不意に襲った不安をぽろっと口にしちゃったせいで、フィリアがまた青い顔で……ち、近いっ。そんなに心配しなくていい。アホ。デブ。
でも……痛いところは……ないし、気持ち悪いとかもない。じゃあ、えっと……大丈夫、だよな。
「――違うっ! 寝てる場合じゃない! 魔獣……あのタヌキ魔獣は……倒したんだっけ。でも、まだ街の外から魔獣が――」
大丈夫じゃない! って、思い出したのは、まだこの街に魔獣が押し寄せてる最中だってこと。
こんなとこで寝てる場合じゃない。俺が戦わないと。俺しかいないんだ、あんな数の魔獣を倒せるのは。だったら、俺が……
「落ち着いてください。大丈夫です。砦のほころびは補修し、今は魔獣の侵入する経路もありません。街の中についても、貴方の奮闘のおかげで落ち着きを取り戻しています」
あとは街の兵士に任せても大丈夫だ。って、フィリアはそう言うと、俺の手を握って、もう一度横になるようにと促した。
そっか……あのデカいのとタヌキ魔獣を倒すまでに、ほかの魔獣も結構倒したもんな。
侵入経路を塞げたなら、じゃあ……あとはもう雑魚魔獣がいるだけ……か。
「……それに、あの少女の助力もありましたから。連携してくれるわけではありませんでしたが、彼女が単独で倒してくださった魔獣の数は、貴方が倒したものに匹敵したでしょう」
「……そっか、アイツもいたもんな。アイツ、とりあえずは悪いやつじゃなさそう……だよな。それは……よかった」
なら……もう、俺の出番はない……か。そっか。
いつもだったら、それでも俺が戦ったほうが早いって思うのに。ううん、違う。今も、俺が戦ったほうが早いし、安全だって、思ってる。
でも……さっきかなりしんどかったからか、今回はみんなに任せたほうがいいかって思ってる。思えてる。
前の俺だったら、全部俺が倒すって言ってたと思う。それで、マリアノと喧嘩になって……
「……? マリアノ? あれ……フィリア。アイツ……あの子供。いつのまに名乗ってたっけ」
「え……? マリアノ……と、おっしゃるのですか? 林で出会って、今回は共に街を守ってくださった彼女……大剣の少女のこと……ですよね?」
あれ……? フィリアは知らない……? じゃあ……一緒に魔獣と戦ってるときに聞いた……? いや、でも、自己紹介とかしてる暇なかったよな。
だったら、誰かがアイツを呼んでるのを聞いた……とか。それもないよな。だって、アイツの仲間はどこにもいなかったんだから。
「……あれ……? 俺……なんでアイツの名前知ってるんだろ……」
名札とか着けてないよな、小学生でもあるまいし。いや、背格好は小学生みたいなもんだったけどさ。
「大きな危機に見舞われましたから、貴方も、それにマリアノという少女も、混乱状態にあったのでしょう。それこそ、交わした言葉の仔細も朧になるほど」
「……話はしてたけど、それどころじゃなくてちゃんと覚えてなかった……か。なんか……アホになったって言われたみたいでムカつくな」
そんなつもりは……って、フィリアは慌てたけど……まあ、そうか。聞いてなきゃ知らないし、そういうやり取りがどっかであったんだろうな。
なんにしても、とりあえずはこれで街も守られた……ってことでいいんだよな。なら、多少のもやもやくらいは大目に見るか。
でも……なんだったんだろうな。なんか、変な……マリアノって名前もそうだけどさ。変な記憶……って言うか、変なイメージが頭の中に残ってる感じ。
誰も怪我してなかった……もんな。なのに……なんでか知らないけど、周りで人が死んじゃう……死んじゃったような気がして。
誰も……怪我すらしてなかった……よな? 本当に……本当に、みんな無事……だった、もんな……?




