表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/102

第六十一話【一度目】


 周りを見回して、フィリアを見つけた。まだ、うれしそうに俺を見てる、事態を理解出来てないフィリアの姿を見つけた。

 フィリアだけじゃない。何が起こったかわかってなくても、目の前にいた巨大な敵が倒されたことに喜ぶみんなの顔が見えた。


 けど、俺が探していたのはそれじゃなかった。


「ク――ソがぁああ――ッ! なんなんだコイツはァ――ッ!」


「落ち着け! バカ! 来るぞ!」


 来る。そいつが、建物よりもはるかにデカい魔獣よりも、もっと厄介なやつが、襲って来る。

 いや、違う。俺を襲うんじゃない。ここにいる全員を――フィリアにまで、無差別に攻撃し始める。


 俺がいたところにそれは突っ込んできた。俺がそれを跳んで躱すと、アイツは俺がいた場所に――そいつが突っ込んだ場所に大剣を叩きつける。

 けど、それで何かが倒された手応えはなく、アイツは剣を握り締めたままイライラを爆発させた。


 でも、アイツが巨大な剣を振り回しても、俺が先回りをしようとしても、それを倒すには足りない。

 デカい魔獣に壊されたのだろう建物のがれきの中を跳ね回る、取るに足らないハズの小さな魔獣に、俺もアイツも揃って翻弄され続けていた。


「クソ――クソ――クソがぁあ――ッ!」


「落ち着けって! くっ……ああもう、うざいんだよ!」


 デカい魔獣は倒せた。前に倒したときと変わらないくらい簡単に。

 やっぱり、俺が弱くなってるわけじゃない。フィリアがくれた力はまだ発揮されてる。


 なのに、このタヌキ魔獣が倒せない。小さいのに、どう見ても強くなさそうなのに。こんなやつに追いつけなくて、ただ逃げ回るしか出来ないなんて。


「お、落ち着いてください! ふたりとも! それだけ小さな相手ならば、貴方達にとってそう脅威になるものでもないのでしょう! 一度冷静に――焦らずに対処すれば――」


「――引っ込んでろデカ女――ッ! これがンなヌりぃモンに見えてんなら、テメエはさっさとここから消え失せろ!」


 そんな俺達を見てしびれを切らしたのか、フィリアは危機感のない声でまぬけなことを言い出した。

 違う。これは、さっきまで目の前にいたデカい魔獣よりも脅威なんだ。って、そのことに気づいてないんだ。

 俺とアイツが揃って弄ばれてるのを見てもなお、その強さが実感出来てなくて……だから……


「……っ」


 もしかして……それは、俺のこと……なのか?

 目の前にいるこのタヌキ魔獣の強さをちゃんと認められてなくて、倒せるハズだって高をくくってるから、こいつを倒す強さを手に入れられてない……のか?

 焦ってるから進化出来ないんじゃなくて、進化の必要なんてないと思い込んでるから……


「――っ! くっそ……そっち行ったぞ! 気をつけろ!」


「ァア!? 誰に言ってんだクソガキテメエ!」


 また、タヌキ魔獣の突進が俺に向かって飛んで来た。俺がそれを間一髪で避けると、魔獣はわけのわからない跳ねかたをして、今度はアイツのほうへとすっ飛んで行った。

 躱せる。ギリギリだけど、攻撃を食らわないようには出来る。食らわない……ように……


 違う。いや、やっぱりそうなんだ。やっぱり俺は、こいつを見つけたときから一歩も前に進めてない。強くなってない。

 最初の一撃だってちゃんと防げた。ギリギリだったけど、無傷でやり過ごせた。そして今もまだ、ギリギリでなんとかしてる状態が続いてる。


 出来ると思わなかったことが出来るようになった。新しい魔獣を倒すときはいつも、そういう発見が一緒だった。でも、今はそれがない。そのせいで苦戦してるんだ。

 じゃあ、いつもみたいにちゃんと魔獣と向き合って……いつも……みたいに……


 いつも俺は、魔獣を……怖がってたか? 敵わないかもなんて、一度でも思ったことがあったか?

 いいや、ない。そんなことは、本当に最初のころはあったかもしれないけど、本格的に魔獣退治を始めてからは、一度も考えたことなかった。欠片ほども思わなかった。


 じゃあ……今の俺は、いつもと変わらない状態なのに、強くなれてない……のか。

 それって……つまり……もう、俺はこれ以上……っ。


「――ッ! しま――ッ‼︎ グ――げほ――」


「っ! くそ――っ! フィリア! 早く逃げろ! ぼさっとすんな! バカ!」


 余計なこと考えてるあいだに、アイツが魔獣の突進を避けそこなって……いや。避けずに剣で防御して、その勢いに負けて吹っ飛ばされたのが見えた。

 ヤバい。アイツ、かなり強いのに。それでも、あの魔獣の勢いには負けるのか。

 アイツほどじゃなくても、俺だってそんなに重たいわけじゃない。としたら……ほんのちょっと油断したり、疲れたりして、突進を避けられなかったら……っ。


 守れないのか。このまま無差別に突進されて、それをどうにかする方法がないから、目の前にいるフィリアを守れないなんてことがあるのか。

 この世のあらゆるものよりも強いハズだろ、俺は。俺が、この世のあらゆるものの中で一番強いハズだろ。

 それがどうして、こんな小さいタヌキみたいなやつなんかに……っ。


「こんな……こんなことが……っ。皆、避難を。ここにいては巻き込まれます。それに、ユーゴの迷惑にもなってしまいかねません。早く避難を」


 どうする。どうすればいい。どうすれば、この魔獣からフィリアを守れる。それを考えてるところに、フィリアの声が聞こえた。それは、俺に向けた言葉じゃなかった。

 そう……だ。そうだ。さっさと逃がせばいい。このタヌキを俺達が引きつけて、そのあいだにフィリア達が逃げれば解決するじゃないか。


 それからゆっくりこの魔獣を倒せばいい。今はまだ作戦らしい作戦も思いついてないだけで、俺とアイツがいれば、こんな小さい魔獣くらい――


「――ッッ! フィリア――ッッ‼︎」


「――え――」


 魔獣が突進する、その瞬間が見えた。そして、その魔獣が俺のほうを見てないのがわかった。同じように、アイツのほうも見てないのがわかった。わかってしまった。

 その意味を理解したのは、魔獣が飛びかかるときの破裂音が聞こえる直前だった。そのときにだったら、まだ間に合った……ハズだった。

 気づいたのは、音が聞こえてからだった。意味を理解して、それを防げなければどうなるかと、その最悪に気づいたのは――


 魔獣はフィリアのほうへと飛んで行った。まるで大砲みたいに、勢いよく。

 きっと俺とアイツ以外には目で追えなかっただろうそれは、フィリアのすぐ隣にいた大人を吹き飛ばして……吹き飛ばされたその人は、ピクリとも動かなくなっ――――


「――――ッッ! フィリア――ッッ!!」


――魔獣が突進する、その瞬間が見えた。そして、その魔獣がフィリアのほうを見ているのがわかった。わかったから――


「――ユーゴ――」


――剣を振った。俺は、そうなる未来を打ち砕くために――かつてあった終わりを打ち砕くために、躊躇なく剣を振った――


「――ユーゴ……? 貴方……これは……いったい……」


 魔獣が突進する、その瞬間が……見えたと思った。見ていた……見過ごした……と、思った。思っていた。

 気づけば俺の手は、剣を振り下ろしていた。フィリアのすぐ近くにいて……タヌキ魔獣を近寄らせないために、出来るだけ離れて誘導していたハズが、すぐ隣にいて……


 タヌキ魔獣は……目の前に、いた……らしい。そこにはもう、何も残っていなかったけど。何かがあった痕跡が……血の跡だけが、大きな穴の底に残されていた。


 周りを見れば、みんなケガひとつなく俺達の勝利を見届けてくれていた。

 フィリアも、アイツも、俺も、そして……あのタヌキ魔獣に吹き飛ばされた……ハズの……人……も……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ