第五十七話【突破しろ】
速い。昨日までより、さっきまでより、今よりもさらに、次の一歩は速い。
時間を取ってちゃんとイメージしたからなのか、それともフィリア達の無事を確認したからなのか、俺の力はまた一秒ごとに進化し始めた。
やれる。これなら、向かってくるわけじゃない魔獣を追いかけて倒せる。
こうなってみれば苦戦してた理由もハッキリして、いつもは襲いかかってくるのを迎え撃ってばかりいたから、追いかけて倒す強さはあんまり成長してなかったんだなって。
そして同時に、逃げる魔獣を追いかける必要性を理解して、そのイメージを固めた今は、もうこんなことで苦戦しない。
「……じゃあ、アイツはもっと早いうちから……いや、違うか。そもそも、弱いやつでも、危なくないやつでも、追いかけて倒す必要があったんだな」
林で会ったあの子供。さっき助けに来てくれたアイツ。俺よりもこの状況に対処出来てると思ったアイツは、とっくにそういう強さを身につけてたんだな。
それがわかれば、俺もそれに続くだけだ。そして、単純な強さなら俺のほうが圧倒的に上だから。すぐに追い抜いて、街に入った魔獣を全部倒してやる。
「はぁああ――っ! こっちだ! こっち向け! くそ、向かないな、やっぱり。こいつら、いったい何を……」
それでも、バラバラに走り回る魔獣を追いかけるのは手間だ。そのおかげで大きな被害は出てなさそうだから、そこは助かるんだけどさ。
でも、こいつらが向かう先がわからないままなのが不安だ。いったい何を求めて集まったんだ、この魔獣は。
役場からまた街の中心へ向かって進み続けてるけど、もうどこもかしこも戦いの跡ばっかりで、なのにそのどこにも魔獣が食い散らかしたような形跡はない。
アイツも……さっき会った場所をずっと過ぎても姿が見えないから、もう魔獣が集まる場所に到着してたりするんだろうか。
逃げる魔獣を倒す力を手に入れるためだったとはいえ、一度後退したのはちょっと間違いだったかも。
もしもどこかに集まって何かしようとしてるなら、それに間に合うかはわからなくなってきた。
「……っ! あっち……は……入ってきたほうか? いや、もうちょっと遠回りしたとこか。青色の煙は……」
けど、どうも悪い展開には陥ってなさそうだ。って、そう思わせるのは、空に青い煙が立ち上ったから。
たぶんあれは、いい意味の信号……だと思う。今いる場所から東のほう……街全体で見れば、たぶん南東側のあたり。そこから、なんらかの合図が打ち上げられてる。
あっちは魔獣の気配がそんなに濃くないから、緊急事態を報せるものじゃないと思う。教えて貰ってないから確実じゃないけど。
それに、さっきジェッツとグランダールと別れて行動しようとしたとき、ふたりが上げた信号は赤だった。
たぶんそれは、緊急を報せるものだったと思う。俺と離れてたったふたりになるから、誰か合流してくれ。とか、そういう意味の。
こんな状況でふたりでも平気だなんて見栄張る意味ないし、それしたら周りも困るってふたりはわかってるから。なら、そういう意味で間違いない。
そういう前提で考えるなら……こっちは大丈夫そうだって合図かもしれない。
そうと決まったわけじゃないから気は抜けないけど、緊急事態以外の信号が出せるくらいの状況ではあるとは思っていいんだろう。
「よし、だったら俺も――」
みんな……この街に暮らしてるみんな、頑張ってるんだな。それこそ、酒屋の酔っぱらいの中にも兵士がいたかもしれない。どっかで見たやつが戦ってるかもしれないんだ。
それを考えると肩に力も入ったけど、ちゃんと落ち着いて、出来るだけ人がいないほうへ追い込んでから魔獣をまとめて斬り倒す。
そうしてしばらく進めば、街の兵士がひと固まりになって戦ってる姿も見えてきた。
十人もいないくらいの部隊で、走り回る魔獣の進行方向に立ちはだかって迎え撃ってる。けど、ちょっと押されてそうだ。手伝わないと。
「おらぁあっ! ここ、数減らしたらあとは任せていいか? こいつら、どっかに向かって集まってるっぽい。そこを叩いて来るから、建物を守って欲しい」
「き、君は……そうか、陛下と共にランデルから来た……っ。こんな子供を連れてどうしたことかと思ったが、よもや……ありがたい、先は任せる」
誰が子供だ。って、つっこんでる場合じゃないな。
任せるって言ってくれたその人の顔には、かなり濃い疲労の色が窺えた。結構長いことこうして耐えてるんだろう。間に合ってよかった。
魔獣によって大きな被害が出てるわけじゃない。でもそれは、何もせずに待っていれば無事にやり過ごせるって意味でもない。
意図的に攻撃してくることがないだけで、デカいやつが走り回って、ぶつかりあって、それでたまたま民家に突っ込むことだってある。
しかも、魔獣の数はとんでもないことになってるから。そのたまたまの回数はかなりのものになってるハズ。
だから、みんなで壁を作って、住民が避難した場所とか、重要な施設を守ってるんだろう。
「早く……速く……ッ。もっと速くなれ、もっと強く――っ」
かなりの数の魔獣の突進を受け止めてるんだ。みんなもう、限界が近いハズ。
急げ急げ。とにかく、魔獣が向かうほうへ急げ。魔獣の気配が濃いほうへ、もっと速く走れ。
こうなると、目の前を走る魔獣はほっといて、先回りして全部倒すほうが手っ取り早い。
そういう思考に切り替えて、一度剣を鞘に納め、魔獣の上を跳び越えるようにして駆け抜ける。
そうしてさっきまでよりずっとずっと速く進めば、次第に魔獣が群がってる場所も見えて……そこは街の西側の、前に来たときには何もなかったと思った……けど……
「――オラァアア――ッ! くたばれクソどもがァ――ッ!」
「――ッ! アイツ、こんなとこに……」
何もないハズの場所に魔獣が集まってる――足止めを食らってる理由は、そこで一本の大剣が大暴れしているからだった。
そしてその根元には、魔獣の群れに隠されてあんまり見えないけど、やっぱりアイツの姿があって、フィリアに怒鳴ってるときと変わらない顔で魔獣を叩き伏せていた。
「――はぁあっ! おい! お前! こいつら、ここに集まってたのか⁉ ここに何があるんだ⁉」
「――ァア――っ⁈ テメエ、クソガキ! 今更来やがったのか!」
うざ。今そんな話してない。ムカつく。俺はやることあったんだ。お前と違ってちゃんとしてるんだ。ちょっと早く着いたくらいで偉そうにすんな……って、そうじゃない。
そして、そんな変なとこで張り合ってる場合じゃないのはアイツもとっくに理解してて、ブチギレた顔のまま、剣を振り回したまま意識をこっちへ向けたのがわかった。
「――ここじゃねえ! こいつら、北へ行こうとしてやがる! オレが戦い始めたからここに溜まってるだけで、止まろうとする気配はねえ!」
「ここじゃない……か。だったら、ここにいるのさっさと蹴散らしてそっちへ行くぞ!」
指図すんじゃねえ! ってまたキレられたけど、別にお前が来ないなら俺ひとりで行くからいいよ。
でも、ここに魔獣を押し留めてくれたのは……ナイスだ。たぶん。北にある目的が何か知らないけど、とりあえず足止めは出来てるんだから。
「――ぶっ飛ばすイメージ……周りにあるもの、まとめて薙ぎ払うような……」
こいつは強い。こいつなら、たぶん、めちゃくちゃやっても巻き込まれないようにするハズ。最悪、巻き込んでもまあ別にいいや。ムカつくし。
としたら、ここで俺がするべきは……この場所に足止めされた大量の魔獣を、一撃で全部倒すことだ。
「――はぁああ――ッッ!」
「――っ! テメエ――」
アイツがやってたように、全身を使って剣を振り回す。アイツのほど重たい剣じゃないけど、それは今は関係ない。
イメージだ。この力は、イメージした強さを手に入れるものだ。なら、よりハッキリ想像出来る、目の前で見た強さをもとにすれば――
「――ぶっ飛べ――ッ!」
脚から力を伝えて、腰を先に回して、遅れて動いた腕が身体に巻きつくようなイメージで振り抜く。
見て、知って、イメージしてたそいつの技をなんとなく真似して放った一撃は、そこに集まった魔獣だけを吹き飛ばして、北へ――魔獣の目的地への道を切り拓いた。
やっぱりそうだ。この力は――フィリアに貰った強さは、俺次第でどれだけでも進化する。
仕組みさえわかれば、もう苦戦なんてしない。俺が全部倒すんだ。そして、みんな守るんだ。




