第五十二話【立て直しを図る】
とりあえず調査はいったんやめて、林を出て街に戻ることにした。
本当はもうちょっと奥まで調べたかったし、それが出来ないにしてもほかにやれることがないか探したかった。
でも、そうしなかった。出来なかった。それは……ひとえに、フィリアの危機感が薄過ぎるから……だ。
「カスタードのときもそうだった。フィリアは人を疑わないとか信じるとか、そういうのじゃない。後先を考えてなさ過ぎる。相手が何するのか、何したいのかももっと考えろ。ゲロ男のときもだぞ」
「うぅ……はい……」
このまま進むと、このまま続けると、俺はまだしも、一緒に来たみんなのストレスがヤバい。
ただでさえ気を遣わなくちゃいけない相手なんだ、王様ってのは。それがこうもアホ丸出しじゃ……はあ。
「……正直、俺のことだってそうだぞ。たまたま俺が裏切ってないだけで、フィリアは俺に対して……こんだけ強い力を持ってるやつに対して無警戒過ぎるんだ。もっと警戒して、どうしたら言うことを聞かせられるかとか……」
「ゆ、ユーゴは大丈夫ですよ! 貴方は優しくて素直なかたですから。私を騙して悪行を働くなんて考えられません。大勢の期待を裏切るなんて、あり得ません」
そういうとこだって言ってんだ! って、ついつい声が大きくなったのは、帰りの馬車の中のこと。
迎えを待ってるあいだにもずっと説教してたのに、これっぽっちもわかってないな、このアホ。
で、俺が大きな声出して、フィリアの頭を引っ叩いたから、事情を知らない……林へは行ってないキルとヒールは驚いた顔をしてた。
壁越しに話だけ聞いてた馭者のアッシュもかなり驚いたんだろう。何もないところで馬車が揺れたりもした。
けど、フィリアのアホさ加減を目の当たりにしたギルマン達は、むしろ俺と一緒に頭を抱えてたぞ。ったく……
「盗賊団と話が出来るようになったら、そのときはフィリアは留守番な。お前が出てくと話がごちゃごちゃになる」
「そ、そんなっ。私が……女王である私が責任を持って説得しなければ、相手にも示しが……」
責任を持って静かにしてろ、このアホ。示しも何も、まぬけを示してなんの意味があるんだ。
けど、フィリアは反論を飲み込みつつも、しかしまだ諦めてない様子で、また余計なことを考えてるっぽい。
「……となったら……っ。それまでに、私がもっと常識を身につければ問題ないのですね……? 今日のようなことが起こらないように、世間一般であたりまえのやり取りをこなせるような、立派な王になれば……」
「いや、だからそこからもうおかしくて……」
世間一般であたりまえのやり取りはいらないんだよ、王様なんだから。ちゃんとしてて欲しいんだ、俺は。俺達は。
どうしてもフィリアは……アホでまぬけなのは前提として、王様ってものを間違って認識してる気がする。
偉そうにしろとは言わないけど、偉いなりの態度ってものがあるだろ。
「……陛下。私達もユーゴに賛同します。陛下のやりかたは間違っていません。間違っていませんが、しかし正しいことがよいとは限らないのです。少なくとも、今回はもう少し強引な方法を取ってもよかったでしょう」
「まあ、あれもあれで強引だったけどな。びっくりしたぞ、本当に。せっかく捕まえて話を聞けるかもしれなかったのに、逃がしちゃうんだから」
おお……ついにギルマンからも苦情が。でも、そういうことだ。フィリアのやってることは間違ってないけど、時と場合が絶望的に噛み合ってないんだよ。
少なくとも、あの子供はフィリアの態度に……やたらと対等にこだわる姿勢にイライラしてた気もするし。
「……ユーゴと共に戦っている私が、相手を子供だからというだけで侮るような真似はしたくありませんでした」
で、そんな諌言を受けて、フィリアはしばらく苦い顔で悩んだあとにそう答えた。
たぶん、その答えを考えてる時間じゃなかったと思う。その答えを口にしても大丈夫か……その答えは、王様として本当に貫かなくちゃならない信念かって考えてたんだ。
そして……その信念は、自分にとって捻じ曲げられないものだ……って、そう結論を出したんだろう。
みんなを……俺を見るその目は、まっすぐで……
「……フィリア……それって、俺をあいつと同じくらいのガキだと思ってるってことか?」
「え? あ、あれ? いえ、何もそういうつもりは……」
まっすぐに、ただただ愚直に、アホなんだな。もうダメだ、こいつ。
「いっつもいっつも子供扱いしやがって! 今回のでわかっただろ! フィリアのほうがよっぽどアホでバカでガキだって!」
「な――っ。わ、私は子供では……」
そういうとこだ! って、また怒鳴って、今度は叩かなかったけど、それよりもきついものが……みんなからの同意に等しい視線がフィリアを刺した。
アホ。アホ。どうしようもないレベルのアホ。まぬけ。デブ。どう見ても俺より子供だっただろ。アホ。バカ。
そもそも、侮るとか侮らないとか、そういう話が間違ってるんだっての。フィリアは王様で、侮られちゃいけない立場なんだから。そっちを気にしろ。アホ。
そして、街に戻った俺達は、それぞれが自分の持ち場へと戻った。
とは言っても、持ち場があるのはギルマン達だけ。フィリアは役場へと報告に行ったけど、ずっとそこにいるわけでもない。
そして俺は……あいかわらずやることもなくて、ひとりで先に部屋へと戻ってた。
「……ムカつく」
なんであんなアホにはやることがあって、俺はこんなに暇なんだ。ムカつく。
そりゃ、王様だし、連絡とかはフィリアの仕事で、義務みたいなものだから。それを俺が代わってやることは出来ない。
でも、なんか……こうしてると、あのアホなフィリアよりももっと仕事出来ないやつみたいで……ムカつく。
ムカつく。ムカつく。こうしてるあいだにも、盗賊団はまたランデルを攻撃する準備を進めてるかもしれないのに。
「……」
また、盗賊団が魔獣を街へとけしかけるとしたら。それが出来るようになってしまったら。そのときは……たぶん、俺が戻ってもダメだろうな。
街を守れないって意味じゃなくて、もう二度と街を離れられないような状況を作られる可能性が高い。
それこそ、襲わせる魔獣を小出しにするだけでも、俺は……俺とフィリアは、ランデルに釘づけにされるだろう。
そして、俺達が動けなくなってしまったなら、こうやってヨロクやほかの街との連絡は、手紙や兵士による伝達に限られてしまう。
そうなると……もう、盗賊団を現行犯で捕まえるだとか、ボスの居場所を突き止めて対話をするだとか、そんな理想は叶いっこない。
フィリアはどう思ってるか知らないけど、俺のことがバレてる以上、そういうふうになると思っておくべきだ。
俺だったらそうする。そして……俺よりも賢いやつが裏にいる盗賊団なら、それよりももっと効率よく、確実に、自分達の邪魔になるものを排除するだろう。
「……チャンスは今しかない……なら……」
偶然だし、そもそも確信もない。それでも、たったひとつだけ、目の前の景色が変わった事実はここにある。
あの子供だ。あの馬鹿みたいに強いあいつが何者なのかを知ることが出来れば、全部をいきなり解決は出来なくても、何かが変わる可能性がある。
あんなとこにいたんだ。盗賊とも、盗賊が戦ってるらしい北にある何かとも、どちらとも無関係とは思えない。
そして、もしも無関係だとすれば……それこそ、和解することが出来れば、俺の代わりにランデルを守って貰えるかもしれないし。
それについて相談するために……それと、もうちょっとだけ説教をするために、俺はフィリアの帰りを待つことにした。フィリアの部屋で。
なんて言うか……当たり前に出入りしてるけど、王様の部屋って本来は見張りとか必要だよな。なんでこんな簡単に入っちゃってるんだろ……




