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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第四十九話【不明の出どころへ】


 次の日の朝、早くにフィリアの部屋へ行って、さっさと出発の準備をさせようと思ったら、今日は行けない、出発は早くても三日後って言われた。

 街の準備がどうしても間に合わないから、時間を置かないと無理だって。

 せっかくやる気になってたのに。せっかく早寝したのに。フィリアのアホ。バカ。デブ。まぬけ。


 でも……街に被害が出たんじゃ意味がない。だから、とりあえずその場は引いた。

 これで無理矢理連れ出したら、そのほうが信用失くすしな。それは困るから、しかたない。


 で、約束の三日が経って、馬車の準備も街の防御も整ったって報告を受けたら……


「行くぞ、フィリア。急げって」


「待ってください、ユーゴ。何もそんなに焦らなくても……」


 さっさと行ってあの林を調べるんだ。って、ずっとそう言ってるのに、フィリアはとろくさいんだよな。いっつもいっつも。


「貴方のことですから、心配はしていません。ですが、あまり浮かれ過ぎてはいけませんよ。良くも悪くも、気分の高揚は普段と違う思考をもたらします。十分に気をつけて……いえ、いつも以上に……」


「わかってるよ、うるさいな。別に浮かれてなんてない」


 そのくせ、なんか知らないけど変な説教みたいなこと言い出すし。急かされたくなかったらさっさと動け。デブ。のろま。アホ。

 でも、フィリアが動かないと馬車も走らないから。だから、荷物準備するのも全部手伝ってやったんだ。手伝って全部終わらせたんだから、さっさと乗れ。アホ。


「はあ。少しだけ不安は残りますが、この機会を逃せば次はいつになるかもわかりません。皆、気を引き締めてください」


 そういうのいいから早く。って、もう何回目かわかんないくらい急かしたら、フィリアはやっと馬車に乗り込んだ。

 これで着くのが遅くなり過ぎて、ロクに調べられないうちに帰る……なんてことになったら……殴りはしないけど、ちょっと怒るからな。


「――先日に伝えた通り、到着後は二手に分かれます。ギルマンとジェッツ、そしてグランダールは私達と同行を頼みます。そして、ヒルとキールはアッシュと共に馬車を街まで避難させてください」


 そして、馬車はゆっくり進み始めた。遅い、もっと速く。って思っても、そこは大荷物を引いた馬の限界があるからしょうがない。

 ここからはどれだけ急かしても早くならないから、しょうがなくフィリアの話にも耳を傾けとくか。

 って言っても、どう行くか、行ったあとどう分かれるか、帰りはどうするかくらいしか話してなかったけど。


 なんにしても、やっと何かが前に進むかもしれないんだ。どんなにとろくさくても、出発した以上は気合入れないとな。




「では、連絡をお待ちしております。陛下、どうかご無事で」


「はい。アッシュも、どうか無事に帰ってください。ヒル、キール。任せましたよ」


 しばらく走って、馬車は目的地に……林じゃなくて、馬車じゃ進めないくらい荒れた場所に到着した。

 ここからは歩いて進まなくちゃならない。俺ひとりだったら走って行くけど……フィリアもいるし、それは無理か。まあ、これはわかってたことだし、しょうがない。


「おい、行くぞ。フィリア。おいってば」


「っ。は、はい。行きましょう」


 しょうがないけど、だからってぼーっと突っ立ってられるのは困る。フィリアが進まなかったらみんな進めないんだから。みんな来なかったら俺も動けないし。


 でも……動き始めはたしかにいつもとろくさいけど、動き出したらブレーキ壊れてるのがフィリアだと思ってたんだけどな。

 なんか、今日はちょっと違う。もうあとは前に進むしかないってなった今も、何かに気を取られてボケっとしてる感じだ。アホ。


 もしかしたら、俺がヤバいところかもしれないなんて言ったせいで、余計な緊張させちゃったのかな。

 まあ、ヤバいかもとは本当に思ってるから、気を抜かれるよりはいいんだけどさ。でも、ぼーっとはするなよ。アホ。デブ。


 そして、またしばらく歩き通して、荒れ地が草に覆われ、林の入口へと突き当たったころ。

 さすがにそろそろだろう……って、そう思ってたものが見えなくて、フィリアじゃないけど……俺もちょっとだけ緊張してきた。


「……なんか、ヤバいなここ。魔獣の気配が一切ない。前に南のほうに行ったときにもあったな、こういうの。あれと同じだ」


 荒れ地にはいないけど、林まで行けば魔獣もいるだろう。って、そう思ってたんだけど。こんなに近づいてなお、その気配を一切感じ取れない。

 これはちょっと……予定外だ。魔獣がいなかったこともそうだけど、それ以上に……


「南……カンビレッジのことですね。確かに、あの街の東側……南東側には魔獣がほとんどいませんでした。もしや、ここも盗賊団によって……」


「いや、違う。盗賊じゃない……人間じゃない。この奥……もっともっと向こうだけど。この林を超えて、もっと向こうに行ったところ。多分、相当ヤバいのがいる」


 奥のほうに何かある。何か……いる? わかんないけど、何かの気配を感じ取ってる気がする。

 いつも魔獣が近くにいるときには、頭が冷たくなったり、背中がピリピリしたり、緊張してるみたいな感じになるんだ。

 でも……今はそうじゃない。そうじゃないけど、腹の奥のほうに重たいものを入れられたような、鈍いストレスがかかり続けてる。


「その存在が理由で、これだけ離れた場所にも魔獣が寄り付かない……と。まさか、そんな話があるでしょうか……」


 わからない。それが魔獣なのか、それとももっと別の何かなのか、それもわからない。

 何もわからないから、フィリアの疑問にも答えられない。答えられないけど……だからこそ、ここから先はなんとかして確かめなくちゃいけない気がする。


「この林を超えた先……となると……地図では渓谷がありますね。もしや、そこでしょうか」


「谷か……うーん。そこまではわかんないけど、でも……絶対になんかいる」


 地形は感知出来ないから、その気配がどこから来るのかまではわからない。でも、深くなってる場所があるなら、そういうとこに潜んでる可能性はあるよな。

 なんとなくだけど、裏ボスとか、隠しキャラとか、序盤は通れなかった先にいること多いから。いや、ゲームじゃないんだけどさ。


「……? 魔獣……じゃないけど、なんかいるな。多分、人だ」


「人……っ?! 盗賊でしょうか。それとも、まさかとは思いますが……もしも街の人ならば保護して連れ帰りましょう。そうでないなら……」


 林の奥のほうにある気配をもっとちゃんと感じ取ろうと探っていると、それよりも手前に別の気配があることに気づいた。

 でもそれは、魔獣が近づいてくるときの感じじゃない。どっちかって言うと、カスタードのとこに行ってるときのフィリアの感じに近い。

 目で見えるとこにいなくてもなんとなく居場所がわかるような、そういう……温度? みたいな……


「……こっち向かってくるな。ちょうどいい、すぐ正体がわかる。危ないやつだったら、そのときは……」


 俺が返り討ちにする。って言うのと、逃げましょう。ってフィリアが言うのが、まったく同じタイミングだった。

 まったく同じタイミングで、フィリアが変なこと言うから。びっくりしてフィリアのほうを向いた。向いたら、フィリアも同じタイミングでこっち見てて……なんだよ、アホ。


「なんで逃げるんだよ! 俺が倒せばいいだろ! 人間なんて、魔獣より絶対弱いんだから!」


「い、いけません! もしもそれが盗賊ならば、そして暴力を振るってしまったならば。手を取り合うなんて話は、二度と聞き入れて貰えなくなるかもしれません。それだけは絶対に避けなくては」


 うっ。アホのくせに、フィリアのくせに、ちょっと……言い返せない。ムカつく。

 でも、そうだな。ゲロ男には無理って言われたけど、まだ和解出来ないと決まったわけじゃないから。なら、その可能性を潰すのはダメだ。


「……でも、どっちにせよ顔は見たほうがいいよな。なら、ここで待ち受けるか」


「そうですね。ジェッツ、グランダール。剣は抜かないように。国軍である貴方達が剣を向ければ、それは国からの攻撃意思と捉えられかねません。可能な限り対話を求めましょう」


 じゃあ、戦わなくてもやれることをしよう。もしも盗賊だったら、ボスと繋がるチャンスに出来るかもしれないし。無視して帰るのはあり得ない。

 そうと決まれば……こっちから向かってもいいけど、どうせ来るから待ってよう。追ってくるやつがいるってなれば逃げるかもしれないし。

 となったら、あんまり警戒し過ぎないほうがいいかな。身構えてるやつがいたら、そこには出にくいだろうから。


「……来る」


 でも……そういう懸念、配慮は、あんまり必要なかったっぽいな。って、姿が見えたときにそう思った。

 正確には、ここに――俺達に向かって全力で迫ってくる姿を見たから、向こうもこっちに用事があるってすぐにわかったんだ。


 そしてきっと、その用事ってのは――


「――フィリア、退がってろ――」


「――オラァア――っ!」


 出てきたのは、俺より小さい子供だった。髪の長い、小さい女の子。

 でも、その手に握られていたのは――そいつが軽々振り回していたのは、フィリアくらいデカい大剣だった。


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