第四十五話【探りを入れる】
散々探したその翌朝に、ゲロ男は自分から俺達に会いに来た。俺達が探してたって話を聞いて、誰にも言ってない居場所を突き止めて。
ムカつくけど、やっぱり情報を集めるならこいつの手を借りるべきなんだろうな。って、それを再実感した気分だ。
けど、いくらなんでも宿で話を聞くわけにはいかない。まだ部屋まではバレてないし、フィリアの居場所は出来るだけ伏せるべきだと思うから。
だから、話はするから役場で合流しよう。って、そういう約束をしてひとまずは出て行って貰った。
正直、それも嫌がられるかなと思った。向こうからすれば、それを受ける理由もないから。
でも、ゲロ男はあっさりと要求を飲んだ。たぶん、ここで食い下がってまでフィリアの部屋を特定することに、意義を見出せなかったんだろう。
そこまでしなくても取るに足らない相手だ……って、そういうことなんだろうな。ムカつく。
そして、客が来たぞってフィリアを叩き起こして役場へ向かえば、そこには大人に囲まれて退屈そうにしているゲロ男の姿があった。
場所が場所だし、怪しさ満点だから、どことなく居心地も悪そうだ。ざまあみろ、クズ。
「ジャンセンさんっ。お客とは貴方のことだったのですね」
「ちょっとぶり、フィリアちゃん。酒場でオヤジに聞いたよ。なんか、俺のこと探してくれてるらしいじゃん」
うれしいねえ。なんて、ゲロ男はにやにや笑ってたけど……周りはみんな白目でそいつを見てる。
まあ、みんなはフィリアが王様だって知ってるからな。こんな態度のキモいクズなんて、とてもまともなやつには見えてないだろう。
「ええと……ここではなんですから、場所を変えましょう。また以前の酒場で構いませんか?」
「おう、いいよ。こういうとこ、俺も苦手だしさ。堅っ苦しい顔ばっかで頭が痛くなるぜ」
けど、それで困るのはこっちだ。今は王様としてじゃない、フィリアとして話を聞き出す必要があるから。
だから、フィリアもすぐに移動を切り出した。前みたいに酒場で話をしようって。
「ユーゴ、ついて来てください。他の護衛は必要ありません。この方は信用出来る人物です。この街で起こっていることを教えていただければと、私のほうから探していたのです」
そんなフィリアに、ゲロ男はずいぶんと上機嫌な様子で視線を送っていた。
またキモいこと考えてんのかな……って思うけど、でも……それだけじゃないんだろうとも警戒しなくちゃな。
こいつは俺達よりも多くのことを知ってる。カスタードに負けないくらいの情報網を持ってる。そう思っておかないと。
「それにしても……むふふ。フィリアちゃん、もしかして俺に惚れちゃった? わざわざ街中探し回ってくれるなんてさ。男としては、これで盛り上がらないわけにはいかないんだけど」
「ええと……その、またいろいろとお話を伺いたくて……」
警戒しないと……いけないんだよな? なんか……ただのキモいやつにしか見えなくなってきた。
けど、勝手に盛り上がって勝手にキモいこと言って……それで、フィリアの返事を聞いたら、すぐに大きなため息をつく。
その姿を見てると……なんか知らないけど、気分がいいな。
「……ま、そんなこったろうとは思ってたけどさ。でも、ただじゃ話さないぜ。今日は昼間っから飲みたい気分なんだ。ゆっくり……こう……あの……マジでゆっくり、のんびりつき合って貰っていいですか」
「ど、どうして突然敬語に……ごほん。はい、お供させていただきます」
気分はいいけど、それで何かが解決するわけじゃない。フィリアがのんきなのはもうどうしようもないから、俺がちゃんと警戒しとかなくちゃ。
でも、ゲロ男は心底楽しそうに笑ってて、子供が急かすみたいに酒場まで案内してくれた。
「おーい、オヤジー。朝っぱらから客が来たぞー」
「ああ? なんだ、お前か。いいご身分なこったな。っと、そっちの姉ちゃんもかい。意外だね、もっと真面目でまともそうな子だと思ってたのに」
こんなクズと同じにするな……って文句はあったけど、それは一旦飲み込んだ。ゲロ男が上機嫌に、俺が遊びかたを教えてやってる……とかなんとか言ってるから。
変に冷静にさせるより、このまま調子に乗せといたほうが話を聞き出しやすそうだし。
「おやじ、ミルクも頼む。ほら、ユーゴ。お前も座れって。あいかわらずかわいくねえなあ、お前は」
「ふんっ。俺はまだお前のこと信用してないからな。クズのニオイがする」
でも、話しかけられると反射的にきつい言葉が出るし、距離も取りたくなる。だって、本気の本気でキモいからな、こいつ。
フィリアはそれを注意するけど……お前もお前でなんでそんなにのんきなんだ。もうちょっと警戒……はあ。
まあ、フィリアはこれでいいか。おかげで向こうにも警戒されなさそうだし。
「ま、腹が減ったらこっち来るだろ。それじゃ、再会を祝して――カンパーイ!」
「乾杯。相変わらずお元気ですね、ジャンセンさんは」
え? うるさいってこと? って、ゲロ男はもう顔を赤くしてそんなことを言ったけど……冗談のつもりか知らないけど、ちゃんとうるさいぞ、このクズ。
でも、もう酔っぱらい始めてるのはわかったから……一応、こっちにとっては都合がいいのか?
「にしても、まーじで嬉しいなあ。あんまりかっこいいとこ見せられてなかったと思ったけど、意外とツボに来ちゃった? フィリアちゃん、しっかりしてそうだしさ。もしかして、頼りない男のほうがタイプだったりする?」
「……? ええと……」
気持ちわる。なんだこいつ。ひとりで盛り上がって、冗談だよとか言って勝手に笑って……めちゃくちゃ気持ち悪いし、うざいな。
ただ、前もこんな状態のくせにこっちの正体を半分暴いてきたんだよな。どこまでちゃんとしててどこまで本当にクズなのかわかんないやつだ。
「いやでも、マジで他の男にはやんないほうがいいよ、そういうの。フィリアちゃん美人だし、エロい身体してるし、いい匂いだし……って、こういうの本気で言い寄ってくるやつも多いだろうからさ」
わかんない……やつ……本当にただキモいだけのクズな気がしてきた。
さっきからなんかずっとキモいこと言ってて、フィリアはずっと置いてけぼりで、それで……そんなフィリアを見て、ゲロ男は俺のほうを見る。こっち見んな。
まあ……こっち見てる意図はわかるけど。わかるから余計にキモい。クズ。死んだらいいのに。
けど……死んでも誰も困らないようなゴミクズだとしても、なんて言うか……ちょっとだけ哀れに思えなくもない。
ずっとキモいこと言われ続けてるのに、フィリアはフィリアで全然理解出来てなさそうで、アホふたりの話が全部すれ違ってる気がする。
「……うん。まあその……フィリアちゃんに嫌なことしたがる男も多いよ。って、そういう話。基本的に女の子が嫌がることするの好きなんだよ、男って」
すれ違って、どうやっても伝わらなくて……で、しょうがないから諦めたって顔で、ゲロ男は頭を抱えた。
こいつがキモいのは間違いないんだけど、フィリアの……その……アホさ加減も、それはそれで……
「……貴方と話をしていると、己の無知を思い知らされます。学問を修め、知識をどれだけ蓄えても、当たり前の常識が欠如している。これではとても、賢い人間とは呼べません」
それで……フィリアはなんか真面目な顔で真面目な話をし始めた。誰もそんなちゃんとした話してなかったと思うんだけど……
ううん……本当に何も伝わってない……んだよな? なんか、意図的に躱してる……んだとしたら、それはそれで……ゲロ男がかわいそうになってきた。
いや、意図してなくてもちょっとかわいそうだな。いや、キモいからいいんだけどさ、かわいそうなくらいで。
「っと、なんか変な話ばっかしちゃったね。俺を探してたわけだから、何かしらの情報が欲しいわけだよね。前回は魔獣だった。んじゃあ、今回はどんな厄介ごとを知りたいのかな?」
「はい。今日は、その……現在この国に多発している、盗賊被害について調べていて……」
それで、キモい話をしてても何も得がないって気づいたのか、ゲロ男はやっと本題に入ろうと……入らせようとした。
でも、フィリアがそれで話題をすんなり変えたからか、ちょっと……かなり、がっかりした顔してる。でもまあ、それはどうでもよくて。
「……盗賊団の首魁がどこにいるか……ね」
けど、本題を聞かされればすぐ、ゲロ男も真面目な顔になってフィリアと向かい合う。
向かい合って……けど、フィリアだけを見てるわけじゃなさそうだ。俺の様子もうかがってて……俺が警戒してることを気にしてる……のか?
それからほんのちょっとだけ間があって、ゲロ男は反対に質問を投げ返した。
それを……盗賊団の首魁がどこにいるかを、どうして俺に聞こうと思ったのか、って。
そのときの目は……やっぱり、フィリアを見てるけど、フィリアじゃないほかの何かを映してるような気がした。




