第四十四話【向こうから】
ヨロクの酒場をいくつも回って、あのゲロ男……ジャンセンの情報を集めた。
けど、聞けたのはまだこの街にいるって話だけで、どこに行けば会えるのか、どうすれば話が出来るのかまではわからないまま一日が終わってしまった。
俺としては……正直、見つからないほうがうれしい。見つかったほうが楽かもしれないけど、あんな汚い、うざい、キモいやつとわざわざ話なんてしたくないし。
それに……あいつ、賢くていろんなことを知ってるのは本当だろうけど、いいやつかどうかは……まだわからないから。
だから、出来れば盗賊の情報がぽろっと出てきてくれるほうがうれしいんだけどな。
ゲロ男の情報を探してるあいだにも、あいつを必要としてる本題のほうに進展があれば、もう用はなくなるわけだし。
でも……そんな都合よくはいかないよな。だって、今までだって本気で探して見つかってないんだから。
ゲロ男のほうについても、正直見つかるとは思えない。こっちが探してるって知れば、うまいこと逃げるか隠れるかするだろうし。
自分達は国から雇われた測量士だ……なんて嘘ついてるからな、前に。どう見ても怪しいあいつからすれば、探されて不審に思わないわけがない。
もしかしたら、自分を捕まえに来たのかも……とか、そんなふうに思うくらいの警戒心はあるだろ。
「……時間かけ過ぎるとまずいんだけど……どうするのが正解なんだ、じゃあ」
もしかして、フィリアのボケそのままに、いきなり拠点に乗り込むのが正解……なのか?
そこで、お前らのボスはどこだ。和解したいから話をさせろ。って、言うのか。王様が。
それは……ダメだ、やっぱり。いくらなんでも危ないし、それで話がまとまるわけない。
でも、地道に話を聞いててもな……って、ループしてる思考の中に、近づいてくる足音が入って来た。
フィリア……じゃないな、まだそんな時間じゃない。じゃあ、隣の部屋か、通り過ぎた部屋に用事があるやつ……だろう。
でも……あれ? この宿って、俺達以外にも誰か泊まってるのかな? 王様を泊めるくらいだから、少なくとも国の所有物だと思ってたけど……
「おーい、ユーゴ。起きてるか。まだ寝てるか、子供だもんな。会いに来てやったぞ」
「……? 誰だよ」
誰が子供だ、うざいな。でも……本当に知らない声だ。ギルマン達でもないし、男の声だからフィリアなわけもない。
じゃあ、いったい誰だろ。俺の名前を知ってて、わざわざ会いに来るやつなんて……
「おいおい、起きてるなら早く開けてくれよ。居心地悪いんだ、ここ。ほら、早く」
居心地が悪い? 何言ってんだこいつ。ただの宿に、居心地も何もないだろ。
わけわかんなかったし、あまりにも怪しかったけど、でも……別に、強盗だとしても俺のほうが強いしな。開けて顔でも見てやるか。って、ドアに近づいた。
そして……ノブに手をかけて、ガチャってドアが開く音がしたころになってやっと、その声に聞き覚えがあることに気づいて……
「――よーう、ユーゴ。あいかわらずムッツリ顔してんな」
「……っ⁉ ゲロ男! なんでここに……キモい! 寄るな! 臭い!」
いきなりひでえな。って、肩を落としたそいつは、ドアの向こうに立ってたのは、探しても見つからないだろうなって思ってたゲロ男本人だった。
な、なんでこいつがここに……いや、まさか……
「……もしかして、俺達が探してるって聞いてわざわざ……」
「おう、そうだ。感謝しろよ、俺が直々に顔出すなんて滅多にないんだ。まあ、フィリアちゃんほどの美人に探されて、出て行かねえ男はいねえだろうけどな」
キモ。なんだ、こいつ。でも……そうか。俺達が酒場で探し回ってるって聞いて、わざわざ会いに来た……のか。わざわざ、探して……
「……ん? お? なんだよ、喧嘩売ってんのか、その目。お前、本当に血の気が多いよな。大人しそうな顔してよ」
「うざい。別に、喧嘩なんて売ってない。喧嘩にならないしな、俺とお前じゃ」
俺達はあんなに探し回っても見つけられなかったのに、こいつは同じ時間でこっちの居所を探り当てたのか。
そりゃ、街の外から来た馬車が停まってる場所なんて限られるし、それが国軍の馬車だってバレてるなら候補は簡単に絞れるだろうけどさ。
それにしても、いくらなんでも早過ぎる。こいつ……頭いいだけじゃなくて、情報網もかなり広い。
「……さて。感動の再会はここらへんにしてさ、ちょっと中入れてくんない? 客が来てるんだから、立ち話なんて失礼だと思うだろ、お前でも」
「誰も呼んでない、入ってくんな。お前なんかそこで十分だろ。汚いんだから、近寄るな」
お前なぁ……って、ゲロ男は頭を抱えたけど、部屋になんて入れたくないに決まってるだろ。
でも……入れてくれってしつこいゲロ男のその背中の向こう側に、さっき聞こえた居心地が悪いって言葉の意味は理解した。
ギルマンにグランダール、それにジェッツ。ランデルから一緒に来た兵士五人の中でも、特にデカくて強いやつが並んでゲロ男を見張ってる。
なるほど、この宿にはフィリアもいるからな。当然の措置か。ざまあないな。ずっとそこで肩身狭い思いしてろ。
「……ここには入らせない。でも、用事があるのは本当だ。だから、役場で待ってろ。すぐにフィリア連れてくから」
「おっ、話が早いな。さすが、ちょっとは頭が回る弟くんだ」
うざい、キモい、マジでさっさと死ねばいいのに。誰が弟だ。ムカつく。
でも、フィリアがこいつを探してたのは本当で、ムカつくけど俺もそれが一番手っ取り早いと思ったのも事実。
じゃあ、ここで変に逃がすわけにはいかない。話は絶対に聞くべきだ。
だけど、それはそれとしても、フィリアの居場所を知られるわけにはいかない。
宿まで特定されてていまさらかもしれないけど、ドア開けたら鍛えた兵士がいるかもしれないって状態は最低限維持しないと。
じゃあ、とりあえずここを離れさせるべきだ。そのうえで、こっちから合流しやすい場所……で、こっちの味方が見張ってくれる場所へ行かせよう。
そう思って、とりあえず役場で待つようにって伝えた。あそこなら、変なことすれば一発で捕まるだろうし。
ただ、それだけこっちに有利な条件を押しつけたから、断られるかな……って思ったんだけど。
ゲロ男は満足げに俺のことをバカにして、そのまますぐにどっかへ行ってしまった。こっちが罠にハメるとは思ってない……のか。
「……ムカつく。なんだよ、余裕ぶりやがって」
いや、本当に余裕があるんだろう。少なくとも、何か企んでたとしても簡単に逃げられるって自信があるんだ。
フィリアがアホだから舐められてる……わけでもないだろうし。ムカつくけど、本当に頭いいやつなんだ。キモいくせに。
「はあ。フィリア起こしてくるから、みんなは自分のとこ戻っていいよ。たぶん、一応、今のところは、敵じゃない……と思うから」
敵じゃない。危険じゃない。たぶん。って、そんな説明だけじゃ、誰も納得しないだろう。
けど、自分達が一緒について行けば、それだけ警戒されてしまうってことはみんなもわかってるから。
何かあったらすぐに連絡しろとか、ひとりで無茶するなとか、絶対に陛下を守るんだぞとか、そういうのだけ言ったらみんな外に出て行った。
「……みんな、もう起きてたのか。なんだ、だったら俺も外にいればよかった」
誰も部屋に戻らなかったってことは、やることあったんだな。なんだよ、起こしてくれればいいのに。
まあ、今からは別でやること出来ちゃったから、それはまた今度だ。さっさとフィリア起こして、ゲロ男が逃げる前に役場へ行こう。
ムカつくけど、アイツに話を聞けば手がかりが得られるかもしれない。ムカつくけど。キモいし、出来ればかかわりたくなかったけど。




