第四十三話【人探し】
カスタードのところへ行ったその日の内に、フィリアはまたヨロクへと出発することを決めた。
そして、次の日にはもうランデルを出て、馬車はマチュシーへと向かった。
カスタードの意見を鑑みて、そして俺とフィリアが体感したものをもとにして、とにかく今は時間を惜しむべきだ……って、そう結論を出したんだ。
たぶん、魔獣を抑え込んだり、それを緩めたりって、連続してはやるのは簡単じゃないハズ。だから、今が好機なんだって。
ただ、同行してくれるギルマン達はすごく不安そうな顔をしていた。俺達が……俺が、ランデルを離れても大丈夫か、って。
また、あの街を魔獣が襲うかもしれない。そして、次には戻るのが間に合わないかもしれない。
そういう不安は……正直、俺の中にもあったし、フィリアだって感じてないわけない。
それでも、今は進むべきだって思う。少なくとも、ランデルが心配だからって俺がずっとそこに留まってたら、北の問題は何ひとつ解決しないんだから。
むしろ、今しかないんだ。これでまたランデルに魔獣の群れをけしかける準備が出来ちゃったら、そのあとにはもう動こうにも動けなくなるんだから。
不安はある。問題も多い。それに、裏目だってあり得るだろう。
それでも馬車は最速で北へと進み、マチュシー、ハルのふたつの街を経由して、そしてヨロクの街へと辿り着いた。
「……? フィリア? な、なんだよ、じろじろ見んなよ」
「いえ、その……ユーゴ、また強くなりましたか? 以前はもう少し疲れた様子があったのに……」
ヨロクに到着してすぐ、馬車に戻った俺を出迎えたフィリアは、目を丸くしながらまたアホなことを言い始めた。
そりゃ、強くなるだろ。ランデルでとんでもない数の魔獣を倒したんだし。まあ、あれで経験値が入るかどうかはわからないけど。
「強く……は、どうかしらないけど。別に、前だって疲れてなかったし。あと、今日は普通に魔獣が少なかったからな。前よりは……ってだけだけど」
「魔獣が少なかった……ですか。この数日で二度も通りましたからね」
でも、それはそれとして、だ。
ハルからヨロクにかけては魔獣が多い……のは、変わってないんだけど。でも、その数はずいぶんと減った気がする。
これが、俺がいっぱい倒したからなのか、それともまたランデルみたいに別の何かが抑制してるからなのかは……正直、考えてもわかりっこない。
「ヨロクが平和に近付いたのか、それともユーゴがまた強くなったのか。どちらにしても、喜ばしい話ではありませんか」
「まあな。それより、これからどうする。前みたいに聞き込みして、それで盗賊団が現れるのを待つ……のは、もう無理っぽいんだよな?」
さて。魔獣の問題も無視は出来ないけど、今はそれより優先するべきことがある。そっちを考えないと。
前までの作戦は、見張りを増やして、盗賊行為の現行犯で捕まえる。そして、明確な証拠を突きつけて逮捕するってものだった。
逮捕したあとには和解を目指す予定だったけど、そこについては今はどっちでもいい。なんにしても、フィリア次第だし。
問題なのは、今回はそういう悠長なことやってる時間がないってことだ。
現行犯で捕まえたくても、俺達がここへ来てることを知っててわざわざ尻尾を出すわけもない。
そして、待ってるあいだにまたランデルを襲う準備が整ってしまえば、何も出来ないまま大急ぎで戻るしかなくなっちゃうんだから。
「今度はこちらから動きます。と言っても、少し休む必要はありますが」
それはフィリアももちろん承知の上。だからこそ、前とは違う方法でぶつかる準備をしてきたんだろう。
「武器に食料に、とにかく装備を整えることが最優先。準備が出来たら、ここから北へ向かって――盗賊団が利用している砦跡へと向かって、そして直接乗り込みます」
話し合いをするだけならば、何も待つ必要はありませんから。って、フィリアはそう言って、どこか自信ありげに鼻息を荒げた。
なんか……そういう姿を見ると途端に心配になるな、フィリアって……
「……話し合い、か。それが出来るならいいけどな」
「絶対に出来ます。だって彼らは、何かを守るために盗んでいるのですから」
守るために……か。それはわかるけど、でも……フィリアのその自信の根拠はわからないんだよな。
カスタードは言ってた。俺はちょっと慎重過ぎるって。フィリアみたいに楽観的な視点も持つべきだって。
でも……それがこれを指すんだとしたら、とてもじゃないけど……楽観的なんじゃなくて、ただ無策なだけにしか見えない。本当にいいのか、これで。
って、そうは思っても、文句言ったってしょうがないからな。結局、国としてやるべきことについては、フィリアしか決定権を持ってないわけだし。
じゃあせめて、フィリアが失敗しないように支えたり、失敗したあとになんとかする手伝いをしてやるか。
ただ、まだもうしばらく俺に出番はないんだろう。とりあえず今は、盗賊団の情報を集めないと。
直接乗り込む……とは言ってたけど、すぐ近くの砦跡にとりあえずで向かったって意味はない。ちゃんと話をつけられるボスのところへ行かなくちゃ。
としたら、そいつがどこにいるのかを知る必要がある。それをどうやって調べるか……なんだけどさ、問題は。ううん……
「……はあ。こればかりはなんともなりませんね。こうなったら、一番近い砦に乗り込み、交渉の意思があるのだと伝え、首魁のもとに案内して貰うしか……」
「……それ、マジでやったらまぬけ過ぎるからな」
カスタードでも調べられなかったものを、俺達でどうにかしなくちゃならない。となると、単純な手段じゃ解決出来ない。
かと言っても、フィリアが言ったみたいに直接乗り込んで……ってのは、いくらなんでも危な過ぎる。
ただでさえ敵対してる組織なのに、和解が目的だから、戦っちゃいけないなんてルールまで決めてるんだし。
となったら、ボスがいるかもわからないとこへ手当たり次第に……ってのは、いくらなんでも無茶だろ。
じゃあ……やっぱり、街で情報を集めるしかない……んだよな。でも、被害についての話は前にいっぱい聞いて、それでも手がかりにならなかったから……
「……また、酒場を訪れてみましょうか」
「お前……まさかとは思うけど、あのゲロ男に期待してんじゃないだろうな……?」
そんな汚い言葉を使ってはダメですよ。なんて注意されたけど、実際にあいつはゲロ男だっただろ……じゃなくて。
前にもこの街で魔獣についていろいろ教えてくれたやつ。名前は……ジャンセンだっけ。
たしかにあいつなら、ほかの誰かに聞くよりは手がかりに迫れるかもしれないけど……
「あのときジャンセンさんは、ヨロクよりも北の特産品も仕入れていると言っていました。そしてそれは、軍と繋がる私達には打ち明けられない手段によるものだ、と」
それにはきっと、盗賊が関わっている筈だ。と、フィリアは神妙な面持ちでそう続ける。
魔獣を避けられる都合のいいルートは知らない。けど、魔獣を押し退けながら無理矢理進む方法は確保してある。って、あのときゲロ男が言ってたことを引用しながら。
なるほど。冷静に考えたら、盗賊団が後ろ盾になって活動を支援してる可能性もあるのか。
盗品を売りさばく手伝いをしてる……んじゃなくて、魔獣を倒す戦力として金で雇ってるなんてのは、十分あり得ることだろう。
もしそういう繋がりがあるのなら、それはきっと下っ端じゃなくて、ボスか、それなりの地位のやつと交渉して取りつけてるだろうから、居場所を知ってる可能性もある、と。
「それに、あの人物からはすごく優しい心を感じました。他人を思いやる心、善意を慈しむ心を。ならば、事情を知れば協力してくれるかもしれません」
まあ、言わんとすることはわかる。わかるけど……どうだろ。それが実現出来るかは別の話だろ。だって……
「……それで、女王だって打ち明けるのか? それはさすがに……」
あいつは商人で、商売で生きていて、その商売を成り立たせるのに盗賊の力が必要なんだとしたら。その繋がりを売り渡すようなことは絶対にしない、出来ないだろう。
ましてや、フィリアは王様だ。その素性を打ち明ければ、盗賊団が出てくるわけもない。
打ち明けなかったとしても、素性の知れないやつを紹介して貰えるわけがない。そんなのは俺にもわかる。
俺達も商人だったら……あるいは、国軍とは関係ない職種の人間だったなら、協力関係を結べたかもしれないけどさ。
でも、そうはならない。絶対に。フィリアもそれはわかってる。わかってても……なんだろうけどさ。
「王という立場こそ知らずとも、国側の人間だとは知られてしまっているのですから。やはり簡単ではないでしょうが、しかし不可能だとも思いません」
「……ま、フィリアがそうしたいならすればいい。俺はそこには何もする気ないし、出来ないし。戦う時が来たら、そんときが俺の出番だ」
難しいってわかってても、ゲロ男を頼るのが一番手っ取り早そうだ……って話なら、ムカつくけど俺もそう思うしな。
本当に盗賊と繋がってるかはわからないけど、いろんな街で商売してるなら、その情報を一切手にしてないなんてことはあり得ないだろうし。
そういうわけで、フィリアは急いで身支度を済ませて、俺を引っ張るように街へと繰り出した。
前にゲロ男と再会した酒場へ行って、それ以外の店にも顔を出して、あいつがどこにいるかと聞き込みをするために。




