第四十一話【不気味な勝利と……】
魔獣との戦いは半日以上続いた。本当に、絶望的な数の脅威が街を襲い続けたんだ。
それでも、大きな被害は出なかった。出させなかった。俺が……じゃなくて。きっと、裏で糸を引いてるやつらが。
「フィリア、大体全部終わったぞ。魔獣、ほんとに凄い数だった。だけど、数だけだった。見掛け倒しだった」
そういうわけだから、だらだらと時間はかかったけど、最終的には落ち着いて、俺がいなくても平気なくらいになった。
その頃を見計らって、俺は先に宮へと戻った。戻らされた……か。フィリアに報告をするなら、直接出入り出来る俺のほうが早いだろう、って。
「お疲れさまです、ユーゴ。本当にありがとうございました。各地から貴方の武勇がたくさん届いていますよ。本当に――本当にありがとうございました。おかげでランデルは無事に守られました」
「まだ終わってないだろ、アホ。変なとこで気を抜くな」
それで、執務室に俺が入ると、それを見たフィリアが……フィリアだけじゃなくて、リリィや役人達が、揃って安堵の表情を浮かべたのがわかった。
どいつもこいつも、まだ魔獣は残ってるってのに。まあ、今からまた群れが襲って来ない限りは大丈夫なんだけどさ。
でも……本当は、こうやってなんとかなったことが問題なんだろうな。
「……カスタードの言う通りかもしれない。魔獣、本当に数だけは多かったんだ。だけど、全然手応えはなかった」
街が潰れない程度の攻撃だった……のが、単なる偶然とは思えない。少なくとも、意図がなかったら街にはもっと大きな被害が出てたハズだ。
そもそも、俺がいないとダメそうなくらいの数の魔獣がいたんだ。それに対して、都合よく俺が対処出来たからなんとかなった……って、そういう感覚があった。
そうだ。もしも魔獣が無造作に街を襲っていたら……俺がいるところに固まって攻撃してこなかったら、移動が間に合わずに被害が出てた可能性が高い。
俺が群れの侵攻に間に合ったんじゃなくて、俺がいないところには群れが来なかった……来るとしても、俺の到着が間に合うくらいゆっくりだった。
疑った目で見てるからそう思えるだけかもしれないけど、でも、そうとしか思えないくらい出来過ぎた結果が出てる。
それを伝えれば、フィリアは目を丸くして、頭を抱えてぶつぶつ言い始めた。
本当にそんなことがあるのか……そんなことが出来てしまうのか、って。
それを見て俺も……一緒になって頭を抱えた。
たぶん、俺がいなくても大丈夫だった。被害は出なかった。でも、俺がいないとどうしようもない数が迫ったようにも見えたから。
「最初はマジで無理だと思った。俺がいるところはいいけど、それ以外は無理だって。だから、カスタードの言う通りだと思う」
誰かが俺を……フィリアや兵士じゃなくて、俺個人を……この世のあらゆるものよりも強い力を持つ俺を、そういうものだと理解して見張ってる。
だって俺は今日、いろんなところを走り回ってたんだ。あっちでもこっちでも群れと戦った。
けど……その群れも、全部俺が到着してから現れてた。じゃあもう、それで確定だろ。
「ユーゴの動向を細かに観察し、それを全体に伝え、魔獣の数を制御していた……そんなことが出来る組織なのですね、あの盗賊団は」
出来ちゃうんだろう。少なくとも、俺の強さがあれば、魔獣の行動を制限することは出来ると思った。
たぶん、俺ほどじゃないにしても、とんでもなく強いんだろう、敵は。それに、フィリアじゃ話にならないくらい頭のいいやつがいる。
「……もしかしたら、カスタードのやつが黒幕だったりしないかな……って、そう思ったんだけどさでも、多分それも違う。アイツのコウモリは見当たらなかった」
頭のいいやつとして思い当たるのは、パールとか、それにカスタードだけど……ふたりとも違うと思う。
ただ、ふたりとも俺より賢いだろうから、騙されてるんだとしたら気づけない可能性はある。でも……そういうのじゃない気がする。
「今日はちょっと疲れた。フィリア、明日またカスタードのとこ行くぞ。ちょっと聞きたいことが出来た。次は舟とか……なんか……なんでもいいから、泳がなくて済むようにしとけよ」
「はい、お疲れさまでした。今日はゆっくり休んでください」
カスタードじゃない。パールなわけもない。でも、俺の周りで、めちゃくちゃ賢いやつ。そいつが首謀者と繋がってる……のは、ほぼ間違いない。
でも……一個だけ、気になることがある。それについて、カスタードから話を聞かないことには始まらない。
ムカつくけど、俺だけで考えてもダメだ。フィリアもそこらへんはあんまり役に立たない。あのアホみたいなおっさんが唯一の頼りだ。
そういうわけで、今日はさっさと部屋に戻って寝ることにした。
ご飯は……一応、食べよう。準備してくれてたお菓子とお茶だけ口に入れて……ちょっと腹が膨れたら、一気に眠たく……
次の日の朝、腹が減って目が覚めた。ちゃんとご飯食べてから寝ればよかった……じゃなくて。
「……やっぱり、疲れはしたんだな。寝落ちするくらい、しっかり」
魔獣と戦って疲れる……ってこと、最初はなかったんだよな。剣を振っても、跳び回っても、それで体力が尽きる感じじゃなかった。
まあでも、戦い続ける……ってことはしなかったしな。魔獣が出ても、ちょっとした群れくらいは瞬殺だったし。
ってことは、剣を振るのも、跳び回るのも、一応は体力を使う……のかな。それがほんのわずかだから、今までは気にならなかっただけだとか。
「……」
だとしたら……ちょっと、めんどくさいな。疲れるのが、じゃなくて。
魔獣の行動を意図的に制限出来るなら……その制限を解けば、またあのとんでもない量の魔獣がランデルに攻め入るのだとしたら。
そのたびにこんなに疲れてたんじゃ、遠くの街へは到底行けそうにない。行って帰って戦って、回復の隙もなくもう一回来られたら……どうなるかわからない。
あくまでも行動を制限してるだけで、魔獣を生み出してるわけじゃないのなら、あのとんでもない数が襲い続けるってことはないんだろうけど……
「やりかたを変える必要がある……のかな。なんにしても、このままじゃダメだ」
この世のあらゆるものよりも強い。そんな力に弱点があるとすれば、それはきっと、その力を貰ったのが俺だってこと。
身体を鍛えてたわけでもない。どこで何をすればいいのかの判断が出来るわけでもない。俺がただの子供だってことが、いつか足を引っ張りかねない。
何をすればいいのかはまだわかってないけど、でも、このままでいいわけじゃないことはちゃんと覚えておこう。
今はほかに優先することがあるから、そっちに集中するにしても、だ。いつかは剣術とか習わせて貰わないと。
空腹具合と空の暗さとに考えごとしかすることのなかった明朝からまた時間も経って、俺はフィリアと一緒にまたカスタードの洞窟へと向かっていた。
あいかわらず本来の入り口は塞がったままだから、あの地底湖のあるほうから行かなくちゃならない。
でも、今回はその対策をしてきた。フィリアが。自信満々な顔で、舟を一艘積み込んだんだ。積み込んだ……んだけど……
「……この舟、大丈夫か? なんか……沈まないだろうな」
「だ、大丈夫ですよ……たぶん。蔵にあった古い舟ですが、沈まないことは池で確かめましたから」
なんか、ボロっちぃんだよな、その舟が。仮にも王様を乗せる舟がこんなんでいいのか。って言うか、王様が準備するものがこんなボロいことあるのかよ。
俺のそんな文句に、フィリア自身も苦笑いを浮かべているし、周りの兵士も困った顔で笑ってた。
なんて言うか……みんなも止めろよ。もうちょっと強く。まあ、フィリアは止めても聞かないって、わかってるんだろうけどさ。
それにしても……ううん。まあ、沈まないなら、泳がなくて済むなら、この際ビニールの浮き輪みたいなのでもいいんだけどさ。
でも……もうちょっと……マシなのがよかったな。舟とか、乗る機会なんてそんなにないんだし。せっかくなら……ちぇっ。




