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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第三十七話【一旦解決】


 街の中心部に向かいながら魔獣を倒し続ける。それが、今していることで、今し続けるべきことで、俺にしか出来ないこと。


 馬車はもう音も聞こえないくらい遠くに置き去りにしてきた。だからこそ、ほんのわずかな魔獣すらも残せない。

 残せば、たった五人の護衛に守られたあの小さな馬車が襲われることになる。小さな馬車に乗った、この国の王様が。


 倒す。倒す。倒す。目の前にいる敵を、全部倒す。目の前にいないのも、こっちに来るやつは全部倒す。そのうえで間に合わせる。


「――うぉおおお――っ!」


 剣を振るえばそれだけで魔獣の身体が真っ二つになる。特別な技術とか、剣の腕前とか、そういうものは関係なく。俺が振った剣は、触れたものを全部切り裂くんだ。

 俺だけが、こんなにも簡単に魔獣を倒せてしまう。俺だけが、魔獣の群れを蹴散らしてやれる。

 急げ。急げ。急げ。まだ、魔獣の数は減ってない。まだまだ、ここから先に進めば進むだけ数が増えて……


「……? なんだ、こいつら……? 街の外……から、来たんだよな……?」


 ここから先に進めば進むだけ魔獣の数が増える……のは、おかしくないか……?

 だってそうだ。ここから先は、街に戻る道なんだ。街の中心に……魔獣から一番離れた場所に向かってる最中なんだ。

 それがどうして、今のほうが魔獣の数が少ないんだ。魔獣が街の外から攻め込んできたんだとしたら、どうしてここには被害が出てないんだ。


「……まさか、街の中から……地下とかから出てきた……? いや、でも、だとしたら……」


 地下から攻められるなら、今までどうして襲われなかったんだ。どうして、街が安全に機能してたんだ。

 ダメだ、考えたってわかんない。そもそも、考えてる時間もない。とにかく急がないと、手遅れになったら答えが出たって全部無駄になる。


「宮だ。宮へ行って、パールに話を聞けばいい。パールならどうなってるかも把握してるハズ」


 魔獣を倒す。馬車に魔獣が寄らないようにする。フィリアを守るのが最優先で、それ以外の人も誰ひとり死なせないのが絶対条件。

 出来る。俺なら出来る。出来るだけの強さを貰ってる。だから、やる。やらなくちゃ。絶対に。



 魔獣を倒しながら突き進み続けてしばらくすると、妙なことに、魔獣の数がいきなり減ったような気になった。

 いや、気になったんじゃなくて、本当に減った。街の中心部には……宮のあたりには、ほとんど攻め込まれてなかった……のか?


「やっぱり、街の外から来てた……ここまでに見たやつが群れで、そこから飛び出したやつだけが街中に入ってた……のか……?」


 状況は……まったくわからない。ただ、俺が戻らなかったとしても、街はきっと魔獣を退けただろうとは思う。そのくらいの数しか街には入り込んでなかった。

 でも、俺が戻らなかったら、もしかしたら大きな被害が出てたかもしれない。それだけの戦いのあとがそこらに残されていた。


「……まずは話を聞こう。報告とか、全部受けてるハズだもんな」


 なんにしても、パールから話を聞かないことには始まらない、か。


 魔獣の気配は感じ取れるけど、人はそうもいかない。とすると、俺が次に向かうべき場所がわからない。

 街には兵士がいる。ちゃんと戦える組織がある。なら、そいつらが手を回せてない場所をなんとかするべきだ。

 そういうの、パールなら指示してくれる、教えてくれるハズだから。


「パール。リリィ。戻ったぞ。まだ戦いに出るから、今どうなってるか教えてくれ」


 そして宮まで戻った俺は、そのままいつもの執務室へと向かった。

 そこには普段見かけない役人も大勢いて、泥だらけで剣を握ったままの俺を見てぎょっとしてたけど……でも、そんなのはどうでもいい。ダメならあとで謝ればいいし。


「っ! ユーゴ、戻っていたのですね。ということは……陛下もお戻りになられたのですか」


「フィリアはまだ。魔獣の数がヤバそうだったから俺だけ先に戻ってきた。ここに来るまでの魔獣はほとんど倒したから、五人でもちゃんとフィリアを守れるハズ」


 知らない大人のことはどうでもいいけど、フィリアの安否についてはちゃんと報告しないとな。

 ただ……たった五人の護衛しか連れてないことを知ってるから、リリィはすごく青ざめた顔をしてた。やっぱり、俺も一緒にいるべきだったかな。

 けど、パールはしばらく苦い顔で考え込んだあとに、俺の前まで来てくれた。


「貴方が陛下から離れるほどの事態だと認識している……と、そう受け取ってよいのですね。では、貴方がここへ……宮へ戻ったのは……」


「うん、そう。街では兵士が戦ってるから、その手が間に合ってないとこを教えて欲しい。それか、兵士がいても押し切られそうなとこ。俺が行けば全部解決出来る」


 俺の前に来て、俺の目を見て、俺の話を聞いて、力強く頷いてくれた。なんとなくだけど、頼りにされてる……って思ってもよさそうだ。


 そして、俺の頼みを聞いてすぐ、パールは地図を床に広げながら指示を出してくれた。

 こっちは魔獣の数が多い。こっちは兵士の数が少ない。だから、どこからどこへ行くべきかって、順番までちゃんと教えてくれる。

 やっぱりここへ来てよかった、アテにして正解だった。フィリアは現場の指示で動けって言ったけど、これなら俺でもやれそうだ。


「……わかった。じゃあ、すぐに……っと、そうだ。たぶん、フィリアもここに戻ると思う。で……戻って、パニックでアホなこと言うと思う。だから……」


 指示を貰って、やるべきことを把握したら、すぐにまた宮を出て……って、思ったけど。

 たぶん、フィリアもここへ来るハズ。状況を把握するにはパールに聞くのが一番早いって、フィリアのほうがわかってるから。

 で……そのうえで、パニックになってアホなことばっかり言うと思うから、伝言だけ頼んでおこう。


「フィリアに言っといて。言われたとおりにやるから、フィリアはフィリアがやるべきことに集中しろって。慌てて忘れてるだろうし、子供扱いするだろうからな」


「……はい。たしかに承りました」


 パールはそれだけの返事をすると、すぐに俺に背を向けてまた役人との……会議かな? とにかく、今すべきことに戻った。

 なんて言うか……信用されてる、頼ってくれてるのがわかるって、いいな。フィリアもリリィも子供扱いするけど、パールはそういうのちゃんとしてくれる。


「……っ。よし」


 これなら、期待に応えようって思える。フィリアもあのくらいかっこよかったらいいのに。王様なんだから。


 そして、今度こそ宮を飛び出して、指示されたとおりに要所へと向かった。

 どこも魔獣に押されてて大変そうだったけど……でも、思ってたほどじゃない。思ったほどじゃない……のなら……?



 街に出た魔獣は全部倒した。たぶん、全部。気配もないし、もう戦いの音も聞こえないから。だから、全部解決した……と思う。

 被害は……出てないとは言えない。建物もいくつか壊れてるし、怪我人だって出てる。

 食われて死んじゃった……みたいな話は、俺が見た範囲では聞かなかったけど……どうなんだろう。


 でも、なんにしてもこれで問題は解決した。した……からこそ、状況の異常さ、異質さが浮き彫りになった気分だ。


「――フィリア、戻ってるか」


「っ! ユーゴ!」


 浮き彫りになった気持ち悪さについて、ちゃんと報告して、相談するために。俺はまた急いで宮へと戻った。

 そして執務室へと入れば、今度はフィリアの姿もあって、リリィももう青い顔はしてなかった。


 よかった。フィリアも無事だった。大丈夫なようにはしたし、確信もあったけど。でも、ちゃんとこの目で見るまではちょっと不安だったんだよな。

 けど、今はその安心はいらない。そんなこと言ってる場合じゃないから。


「魔獣、なんか変だ。カスタードのとこ行くぞ、あいつならなんか知ってるかもしれない」


 フィリアもリリィも、パールまで、みんなほっとした顔で出迎えてくれた。けど、ほっとしてる場合じゃないって教えないと。


 浮かび上がった気持ち悪さは、問題があまりにも簡単に解決し過ぎたことだ。


 カスタードは手紙を寄越したんだ。宮じゃなくて、ヨロクに。まずその点が気持ち悪い。


 あいつはフィリアが王様だってことを知らない。本当に知ってるか知らないかは別として、教えられてない。それでも、フィリアが王宮にいることを知ってた。

 カスタードの情報網は侮れない。あいつの調査能力は本物だ。これはもう疑う余地もない。あんな変なおっさんのくせに。


 でも、そのカスタードが、わざわざ遠い街まで、宮を経由せずに手紙を寄越したんだ。なら、とんでもなく大きな問題が起こったと見て間違いない。

 フィリアも俺もそう思ったから、こんな無理矢理な日程で戻ったんだ。


 けど、蓋を開ければ、魔獣の数は多かったけど、どうしようもないような被害は出てなかった……ように思える。

 俺が戻ったから被害が減った……のはあるけど、でも、俺がいなくても解決は出来たハズ。


 たぶん、このくらいの被害は、ランデルじゃなければどこでも出てるんだと思う。ヨロクとか、カンビレッジとか。遠くて魔獣が多い街は特に。

 としたら、カスタードがあんなに騒ぎ立てるわけない。普通にあり得ることが、比較的安全な場所でも起こっただけなら、至急戻れなんて連絡をするわけがない。


「別に強くない、大して危なくもない。なのに、わざわざ手紙寄越したんだ。じゃあ、なんかもっとヤバい事情があるって、それをあいつは知ってんのかもしれない」


「っ! もっと……さらに別の……っ。わかりました、すぐに――」


 あの魔獣は表向きの被害だけで、水面下でもっとヤバいことが起こってるに違いない。そう思って、俺はフィリアと一緒にカスタードのところへ……行こうとした。

 したけど……フィリアの首根っこをパールが掴んで止めたから……あのさ、猫とか犬じゃないんだから……


「陛下。僭越ながら申し上げます。陛下もユーゴも、今日は休まれるべきかと」


 で、そんなまぬけな絵面なのに、パールはまじめな顔で俺達に休めって提案した。いや……命令……かも。

 強行日程で悪天候の中を戻ったんだから、フィリアも俺も疲れてるハズだから、って。


「……それは……そう……ですね。ユーゴ、また明日の朝早くに出発しましょう。不服かも知れませんが、今日はゆっくり……」


「ん、わかった。明日、ちゃんと起きろよ」


 俺は……平気だ。まだまだ動けるし、戦える。でも……フィリアはそうじゃない。

 なら、パールの言う通りにしよう。たぶん、フィリアは行くぞって言ったら本当に行くから、休めるときに休ませないと。


 となったら、俺がいつまでもうろうろしてちゃダメだな。俺が休めば、本当に明日の朝早くに出発するって思うから。そしたら、フィリアも休むし、周りも休ませるだろ。

 そういうわけで、俺はさっさと部屋に戻った。泥だらけになった服を着替えて、部屋にあったお菓子をちょっとつまんで、それからベッドで横になって……


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