第二十八話【話し相手は】
ハルの出身で、甘党らしいギルマン。こいつは、誰よりも先に俺とフィリアの会話に混ざってきた。
たぶん、フィリアよりも大人……だと思う。フィリアの歳を知らないから、たぶんだけど。
次に話に混ざってきた……自己紹介をしたのは、一番デカいジェッツってやつ。フィリアよりもデカくて、たぶん百九十センチくらいあるんじゃないかな。
逆に言うと、ジェッツくらいしかパッと見てすぐにフィリアよりデカいってわかるやつがいない……んだけど。乗り合わせた兵士に限らず。フィリアがデカ過ぎる。
そして、ずっと昔の代から宮に仕えてるらしい、ヒルとキールって兄妹。アッカートって家の名前を聞いたら、フィリアもすぐにわかった顔をしてた。
じゃあ……結構いい家のやつ……なのかな? よくわかんないけど、由緒正しい騎士……みたいな、そういうのかも。
その四人に促されるまでは混ざりにくそうにしてたやつもいた。グランダールって言うらしい。
なんでも、この中では一番剣の腕が立つ……らしいけど、俺がいるからあんまり関係ないな。
で、顔も見えないし話にもロクに混ざれなかったけど、壁の向こう側で馬車馬の手綱を握ってるのがアッシュ。
国軍に所属してる……馭者……ってやつらしい。馬車の操縦士だ。だから、戦う訓練はあんまり受けてないんだって。
護衛の兵士が五人。そして、馬車を運転してる馭者がひとり。合わせて六人、いきなり自己紹介をされたもんだから……ちょっと混ざって覚えたかもしれない。
でも、なんとなくわかった。みんな割といいやつっぽくて、国のためフィリアのために戦うぞって感じがひしひし伝わってきた。
とは言っても、戦うのは俺ひとりで十分だけどさ。だって、俺が一番……この中でって話じゃなくて、この世界で一番強いんだから。
だから、戦うのは任せて欲しい……って、そう言ったら、みんななんか笑顔のまま拍手してた。
たぶん、子供扱いされたな。ムカつく。俺が強いの知ってるくせに、学校の先生みたいな顔しやがって。
でも、まあ、嫌ではない……かな。信用されてるとは思うから。信用してなかったら、もっとムカつい顔するもんな。じゃあ、いいか。
自己紹介が終わってから街に着くあいだ、その五人からそれぞれの故郷について、故郷の食べ物について、いろいろと話をして貰った。
故郷だけじゃない。これから行ってみたい場所とか、なんでそこに行きたいのかとか。とにかく、いろんな話を。
でも……楽しい話を聞いてるだけの時間は続かなくて。馬車が目的地に着けば、護衛は護衛としての役割へと戻る。
そして王様も王様の役割を全うするために役所へ向かって、それで……
「……ま、わかってたけどさ。ムカつく」
戦う以外に役割を持たない俺は、戦わないあいだは暇になる、と。ひとりで先に部屋へ入って、何をするでもなくベッドでゴロゴロするしかない。
王宮だとちょっとはいろんなことも任せて貰えるようになったけど、それはあくまでパールとリリィが見ててくれるから……だし。
外へ出れば、ただの子供にしか見られない。強いとか弱いとかは仕事には関係ないしな。
って、それがわかってても、暇なものは暇だし、それがつらいのは変わらない。
宮には本とか置いて貰ったけど、こうやって外に出るとそれもないから。時間を潰せるものがない。
かと言って俺がひとりで勝手に出歩くと、いざ出番になったときフィリアを困らせかねないし。
やっぱり、戦うことよりも宮で任せて貰う仕事を頑張らないとダメだな。そっちを頑張らないと、子供扱いが変わらない。
「早く帰ってこないかな。どうせ今日はもう戦わないんだろうけど」
このハルの町から出発すると、そこから先にはたくさん魔獣がいるって言ってた。じゃあ……たぶん、今日は戦わないんだろう。
フィリアのことだから、明日以降に備えてしっかり休んでください……とか、そんなこと言うに決まってる。
はあ……暇だし、つまらない。ムカつく。
「ユーゴ、戻りましたよ。ギルマンがジャムを買ってきてくれましたから、お茶にしましょう」
それで、昼寝もままならないまま時間が過ぎて、フィリアが戻ってきた。
ちょっとだけ元気がないような声に聞こえたけど……気のせいかな。気のせいじゃないとしたら、きっとこの町もあんまりよくない状態なんだろうな。
「お茶はいいけど、魔獣はどうなった? ここら辺からはそれなりにいるんだよな?」
だとしたら、俺が戦わないと。俺が戦えば、兵士が戦うよりもずっと早く、ずっと多くの魔獣を倒せる。
そうすれば、この町も、ここから先に進んだヨロクの街も、きっと安全になる。それならフィリアもちょっとは肩の荷が下りるだろ。
でも、フィリアは俺の質問には答えずに、お湯を沸かしてお茶菓子の準備を始めた。
そういうの、王様がやるもんじゃないと思うんだけど……ってのはもうこの際いいとして、だ。
「本当はまた皆と一緒に話をしながらお茶を飲めたらよかったのですが……やはり、どこも人手不足で。彼らには、町の警備隊の手伝いをしていただいています」
「ふーん……ま、なんでもいいけど」
この様子だと、やっぱり今日は戦わなさそうだ。それと、戦って欲しくない……戦いのことは一旦忘れて欲しい、とかも考えてるのかな。
ここに来るまではそんなのなしで楽しく話をしてたから、そういうほうが子供らしい……とか、思われてるのかも。それは……ムカつくけど、まあ……いつも通りか。
でも、やっぱりがっかりはする。フィリアは俺の力を信用してくれてはいるけど、それでも子供として扱うから。
強さは信用や信頼にはあんまり繋がらないのかもな、この様子だと。
「けれど、帰りには仕事も減りますから。今度は皆で一緒にテーブルを囲みましょう」
「……なんでもいいって。お茶にするなら早くしよう。腹減ったよ」
いや……うーん、どうだろ。
なんか、信用とか云々は関係なしに、さっきまで楽しく話をしてたのがいきなりひとりになったから、さみしいだろうな……とか、そんなこと思われてそう。
フィリアってそういうところ本当にアホだから、また間抜けなことばっかり考えてるんだろうな。はあ。
そして、お茶を飲んでちょっと休憩してから、フィリアは俺を連れて町へと出かけた。
カンビレッジでもやってたように、直接話を聞いて情報を集めるらしい。
あいかわらず王様がすることじゃないと思うんだけど……まあ、これはもう言っても聞かないしな。諦めよう。
「ここは……酒場のようですね。私達では少々場違いかもしれませんが、お酒の場でこそ気を許して貰いやすくもあります。入ってみましょう」
「……なんか、楽しそうだな。あんまり好き勝って歩き回ると、またいろいろ言われるぞ」
そうして繁華街を歩き回っているうちに、フィリアは一件のレストラン……とは違うか。居酒屋? みたいな店に目をつけた。
なんとなくだけど、普段は行かない、行けないような場所を見つけて、楽しくなってるだけじゃないか……?
「こんばんは。少しお話しよろしいですか?」
これ、止めたほうがいいよな。ていうか、止めないとパールからの信用を失いかねないよな。
でも、そんなことを考えてるうちにもフィリアはずんずん店の中へ入っていって、酔っ払いのおっさんにのんきに挨拶をする。
危機感とかないのかな……? こんなとこでケンカとかに巻き込まれたらどうしよう……とか……
「おう、なんだなんだ? 見ねえ顔だな、嬢ちゃん。子連れでどうした、こんな場所に」
誰が子供だ。って言うか、親子に見えるほど歳離れてないだろ。まあ……見た目だけの話なら、フィリアはもっと大人に見られても変ではないけどさ。デカいし。
フィリアもフィリアで歳をずっと上に見られたのが気になったのか、ちょっとだけ肩を落として……でも、そのまま話を続けた。
「私達はランデルから来ていまして、交易のためにいろいろと調べて回っているのです。やはり、魔獣の問題は大きいですから」
それで、当たり前のように身分を偽って、酔っ払いから話を聞き出そうとする。
そりゃ、魔獣の被害についてなら、誰に聞いたってそれなりに出てくるだろうけどさ。それにしても、もうちょっと酔っぱらってないやつを選べばいいのに……
「最近、魔獣の様子はどうですか? ランデルのほうでは、まだ馬車が襲われる被害が後を絶ちませんが……」
「魔獣? 魔獣かぁ。それなら、あっちでノビてる若いのに聞くといいぞ。あいつ、結構やり手でな。あっちこっちの街で、商売取りつけながら渡り歩いてんだ」
魔獣の話を振られた酔っぱらいは、なんだか上機嫌に笑いながら、奥のテーブルで酔い潰れてる、髪の長い男を指差して言った。
あっちこっちの街で……ってことは、ここからヨロクのほうへも行ってるのかな。魔獣が多いって聞いたけど。
それとも、魔獣がいない場所を選んで回ってるのかな。いや……今の話題で名前を挙げられるくらいだから、きっと魔獣のいる場所でも商売をしてるんだろう。
だったら、ちょっとは話を聞いてみる価値もあるかな……って、思わなくもないけどさ。
でも、今じゃない。どう考えても今のそいつじゃない。だってそいつ、テーブルに突っ伏して、完全に寝てるもん。せめて酔っぱらってないときに出直そうよ。
「ちょっと気をつけろよ。そいつ、相当なスケベ野郎だからな」
酔っぱらってなくてもダメだ。フィリアはアホだから。アホだし、まぬけだし、デブだし、どんくさいから。そういうやつには近づかないほうがいい。
でも、俺が止めるよりも前にフィリアはその席へ行って、完全に酔い潰れて寝てるそいつの様子を窺い始めた。
や、やめとけって……王様なんだから、そんなのと関わるなよ……




