第二十五話【苦労と知っていても】
北端の街ヨロクを訪れ、盗賊団をおびき出す。カスタードの言った通り、街を栄えさせることによって。
そして、それが成功した暁には、俺とふたりだけで盗賊団のアジトを訪ねたい。フィリアはそんな提案をした。
目的は、盗賊団との和平。北に存在する正体不明の脅威に対して、手を取り合って立ち向かうため……ってところかな。
フィリアらしいと言えばらしいけど……でも、それが実現する可能性はかなり低いように思える。
それでも、フィリアはそれを譲らない。そうすることが自分の……王様の、国の使命だ……って、そんな感じで張り切ってる。
じゃあ、まあ、俺はその手伝いをするしかない。だって俺は、フィリアの言う通りに戦うしか出来ないからな、今は。
で……だ。そんな大きな理想を掲げるに際して、どうしても避けられないことがある。
それは、パールに考えを伝えて、敵のアジトに王様が直接乗り込む……なんて馬鹿げた作戦を許可して貰うこと……だ。
「おはようございます、女王陛下。今朝は珍しいかたもご一緒ですね」
で…………だ。フィリアもそれが難しいとわかってるから……難しいうえに、怒られかねないとわかってるから、俺にも同席してくれって頼んできた。
まあ、それくらいはいいんだけどさ。いいんだけど……あれ、なんか……
「……おい。そういえば、俺は許可がないとここに入れないんじゃなかったのか? あれ、怒ってる顔だろ」
「……っ! い、いえ、決して忘れていたわけではありません。それに、パールはいつも怒ったような顔をしていて……」
なんか忘れてるな。なんか……前に会ったときより、パールの威圧感がすごいな……って、ちょっとビビってたら、重大なことを思い出した。
フィリアが俺を連れて来たこの部屋は、王宮の執務室。つまり、本当にごく一部の人間しか入っちゃいけない、とても厳格な場所だ。
前にここへ来たときも、許可を取るのにずいぶんと時間がかかってた。そもそも、王様でも許可を取らなくちゃならないような場所なんだよ。
なのに……フィリアのこの反応、完全に忘れてたな。
それで……いったい何をやってるんだって怒鳴ることもせずに、パールは静かに……静かに静かに、波ひとつない水面みたいに静かに……怒気を発してる。こ、怖い……
「……はあ。この際です、ユーゴの執務室への出入りを、条件付きで許可しましょう。必ず陛下と同席すること。そして、この部屋に入ったからには、陛下の暴走を咎めること」
約束できるのでしたら、今朝のことは不問といたします。と、パールはそれを、フィリアじゃなくて俺に言った。まるで子供に言い聞かせるみたいに。
前に会ったときは子供扱いせず、この部屋にいるからには……って感じで、ちゃんと責任を求めてくれたのにな。ちょっと後退しちゃった……
でも……これってさ、つまり……
「……だってさ。フィリア、もしかしてお前、いつもこうなのか?」
フィリアは俺よりも更に子供扱いされてる……ってことだよな。フィリアじゃなくて、俺に注意したってことは。
なんか……何かあるたびにアホな部分が浮き彫りになってくな、フィリアは……
しかし、フィリアがどれだけアホでも、パールがフィリアも俺も子供扱いしてても、ここは王宮の執務室。つまり、どうあってもちゃんとしてなくちゃいけない場所だから。
パールもそれ以上は怒ったり叱ったりするつもりもなさそうで、真剣な顔で俺達の言葉を……ここへ俺を連れて来た理由を待っていた。
「……ごほん。許可なくユーゴを連れて来たことは反省します。ですが、どうしても急いで話をしたかったのです。それも、彼と共にでなければならなかったのです」
「話を……ですか。北への遠征に何か妙案でも?」
っと、流石に勘づくのが早い……ってより、察しがいいのかな。
俺を……戦うための力を連れて来たってことは、魔獣との戦いに関係する話に決まってる。それを見抜けないわけないか。
となると……変なこと言ったらまたちゃんと咎められるってことだ。
フィリアもそれはわかってるみたいで、深呼吸をしてちょっとだけ気持ちを落ち着かせてた。そ、そこまで緊張しなくて……相手は身内だろ……
「北への遠征は、やはり限られた人数で行きたいと思います。大軍を率いていては盗賊団も警戒するでしょうし、それに街の民を怖がらせてしまいます」
そのうえで、魔獣を倒し、街を活気付かせ、盗賊団をおびき出す。そして、増員した見張りの力によって、証拠と共に現場を押さえる。
大雑把にまとめればそんなシナリオを、フィリアは堂々とパールに伝えた。変なことは考えてないぞ……って、バレバレの顔で。このアホ……
「はい。そこまではおおよそこれまでの話の通りですね。ということは……そのあとに、何か悪だくみを思いつきましたか?」
うっ。って、ちょっと声漏れちゃってたけど、王様としてそのボロの出やすさはどうなんだ?
それと……仮にも王様が考えた作戦が悪だくみ扱いなのもどうなんだ……
「……現行犯で取り押さえた暁には、私とユーゴだけで砦跡に乗り込みます。逮捕ではなく、対話を求めて。多少は手荒い歓迎も受けるでしょうが、しかしそこはユーゴの力があれば問題ないでしょう」
完全に子供扱いされてるのがわかったうえでも、フィリアはその作戦を……作戦って呼んでいいのかわかんないわがままを、まっすぐにパールへと伝えた。
それで……そんなのを真正面から聞かされれば、流石のパールも参ってしまうみたいで……しばらく固まって、それから……
「……ユーゴ。貴方はこの話をどう思っていますか。陛下に言われて、どうにかして私を説得する手伝いを……と、連れられてきたのでしょうが……」
「……おい、全部お見通しだぞ。どうするんだ」
いくらなんでもボロが出過ぎだろ。全部だぞ、全部。一から十まで全部バレてる。いや、そもそもわかりやす過ぎたかもしれないけどさ。
でも、フィリアはこんな展開も見越していたのか、そもそもバレることは想定済みだったのか、動揺している様子もない。
それもそれでどうなんだよ。バレないように工夫しろよ。もうちょっと……こう……
「……ふう。まあ、いいでしょう。ユーゴ、どうか陛下の身をお守りしてください」
っ⁉ ば、バレて……バレたうえで、どう見てもダメって言いそうな顔で、あっさり許可した……ぞ。い、いったいどうしたんだ……?
「……俺はいいけど……いいのか? フィリアはもっといろいろ反対されるって思ってたみたいだったけど」
「よ、余計なことは言わないでください」
いや、余計なことって……大事なことだろ。王様の暴走を止めるのが仕事なんだから、パールは。
「……ですが……そう、そうです。私は何度も訴え続ける覚悟もしていたのに」
「……何度も棄却されると思ったならやめてください」
うん……そうだよな。フィリアがアホなこと言ってるってわかってて、それを止めるのが仕事だって自負もあって。
それでも……大きな大きなため息をついても、まじめな顔のまま、俺とフィリアを見て小さく頷いた。
「協力を取りつける……と言う目的ならば、その策には筋が通っています。幾人もの武装兵を連れては、とても友好的な態度には映りますまい」
その交渉を女王陛下自ら……という部分にさえ目を瞑れば、そこまで大きな問題のある策ではないかと。って、パールはさっきよりも大きなため息をこぼしてそう言った。
アホなことだと、止めなくちゃいけないことだとわかってても、それでも……フィリアが掲げた理想を実現するなら、そのアホな作戦も必要だと思ってる……のかな。
「盗賊団の協力が本当に得られるのならば、この国は……この国が抱えている問題の大半は、大きく前に進むでしょう」
まあ……そうだな。アホな理想を実現するには、同じくらいアホな作戦を成功させなくちゃ無理……だもんな。
現状、盗賊団は国の敵だ。少なくとも、盗賊団は国を敵と思って行動してると見ていい。公的施設への盗みだけを特別扱いしてる時点で、間違いなく。
その敵を、説得して、手を取り合って、一緒に戦って国をより発展させる……なんて、無理を通さなかったら実現できるわけない。
「これまでにもすでに多くの無茶を見過ごしてきました。そしてそのたびに、私は安堵のため息をついてきたのです。こうなれば、陛下の奔放さに賭けてみる価値もあるかと」
「パール……っ。任せてください。今回も……いえ。今回は、これまで以上の成果を持ち帰って見せます」
で……まあ……だからって、決して褒めてるわけじゃないと思うんだけど。
パールのそんな言葉、態度に対して、フィリアはずいぶんと張り切った様子で成功を宣言する。その……こういうとこだよな……って……
もしかしたら、パールは俺に……って言うより、これからフィリアと関わる全員に、このどうしようもないアホをなんとかして欲しい……って、そう思ってる……のかも。
なんて言うか……不憫だな。とりあえず、この王宮の執務室に来るときは、パールのために頑張る気持ちでいてやろうかな……




