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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第二十話【怖い】


 北には魔獣とはまた更に別の問題が潜んでいる可能性がある。だから、今はまず南側から国土を解放するべきだ。それが、カスタードの提案した作戦。

 課題は順を追って解消すべきという、単純で、当然の考えかた。パールもリリィもそれに賛同したし、俺もそれが正しいと思った。


 でも、フィリアが選んだのは、だからこそ北の問題から着手する……という方針だった。


 難しいことはわかっている。その奥から出てくる得体の知れないものにまで対処する国力があるわけでないことも承知の上。

 それでもフィリアは、その得体の知れないものと戦う盗賊団を放ってはおけない、と。国に仇なす組織を助けるために、北から解放することを決めた。


 パールはいい顔をしなかった。当然、もっとリスクの低い方法を取るべきだと訴えた。

 けれど、北で戦う盗賊団と手を組むことが出来れば、南を解放するよりもずっとずっと大きな力を手に入れられるってフィリアの言葉に、ちょっとだけ揺らいでいた。

 ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだ。パールは大人で、フィリアよりもずっとしっかりしてるから、そのくらいの揺らぎでは意見を変えなかっただろう。本当なら。


 だけど、フィリアには俺がいる。今のこの国には、魔獣なんて、盗賊団なんて、正体不明の敵なんて簡単に蹴散らせる強さがある。

 だから……だけじゃないんだろうけど。パールはフィリアの意見を飲んで、その方針を認めてくれた。


 北へ向かう。そして、盗賊団と協力関係を結ぶ。そのうえで、切り捨ててしまったすべての街を取り戻し、そこに巣食う脅威を排除する。

 フィリアは、王様は、この国は、そんな大き過ぎる目標を打ち立てた。打ち立てて、それに向かって進み始めたんだ。


 そして……その方針を決めて数日後のこと。

 俺はフィリアに連れられて、またしても馬車に乗せられていた。目的地は……


「……結局どこにむかってるんだよ、これは」


 目的地は……どこだ? とりあえず、窓から見える影は前に伸びてるから……西、あるいは南西の方角に進んでる気がするけど。


「これから、カンビレッジを目指します。一日では辿り着けませんので、いくつかの街を経由しながら」


「カンビレッジ……って、結局カスタードに言われた通りにするのかよ。じゃあこのあいだの話はなんだったんだ」


 カンビレッジって、南の一番端の街だろ。北に行くって、カスタードの方針とは違うことをするって、そういう話はどこへ行ったんだ。

 俺がそう問い詰めればフィリアは苦い顔をして、うーんとうなって言葉を考え始めた。つっこまれるのはわかってただろ、先に考えとけよ……


「……そうですね。表面だけを捉えるのならば、伯爵の方針に従っているのと変わらないかもしれません。ですが、そうではなく」


 そうでないならどうなんだ。と、俺がさらに追及するのがわかったのか、フィリアはわざとらしい咳払いひとつを挟んで、何か言われる前にまた話を続けた。


「南ではなく、北の問題を最優先に考える。それは間違いありません。けれど、北を解決するにも時間はかかってしまいます」


 そのあいだ、南の盗賊被害を無視し続けるのは、それもまた国として正しくない姿です。と、フィリアはそう言うと、馬車の外へと目を向けた。

 別に何があるわけでもないんだろう。ただ、進む先にある街を……南の街を思い浮かべてるのかもしれない。


「まず、現状を把握する。そのうえで、南に必要な武力を割く。北への遠征には、貴方という切り札がありますから」


 切り札……か。その言葉は……前ならもっと喜んだけど、今はちょっと……喜べないな。

 要するに、俺がいるところでしか解放作戦を進められない……って意味だ。被害が出てるってわかった以上、それを喜ぶのは違う。


 でも、フィリアの主張は理解した。解放を進めるスピードよりも、解放しているあいだに出る被害を抑えることを優先したんだな。

 なら……まあ、いいか。間違ってないもんな、それも。馬車があんまり速くない以上、俺が北まで行くのにも時間はかかるし。


「……なんでもいいけど、早く強いやつと戦わせてくれよな。最近は魔獣とすらロクに戦ってないんだから」


 理解はした。納得もした。でも、実感はしてない。

 戦うよりも被害を抑えることを優先するのは間違ってないだろうけど、それをやってるあいだ、俺はそれらしい手応えを感じられないんだ。

 魔獣を倒せば、危ないやつを減らせば、それだけ貢献したって気になるんだけど。


 そういう意味で、もっと強いやつと……もっと大勢を守ったって気になれるやつと早く戦いたいんだよな。


「ユーゴはそればかりですね。強い敵が現れるのは、怖いとは思わないのですか? 確かに、貴方以上の強さを持つ魔獣……とは、とても考えつきませんが……」


「怖くなんかない。なんだってそうだろ、簡単なのはつまらない。それに、あんまり弱いと、倒してて気分悪くなるしさ」


 雑魚ばっか倒しててもつまらないし、評価が上がる感じもない。子供扱いをやめさせるには、やっぱり強いやつを倒すしかないだろう。

 そのためにも、北へ行くのは都合がよかったんだけどな、俺も。なのに、結局はこんな遠回りを……



 それからしばらく走って、昼過ぎくらいに馬車は止まった。ここが今日の目的地で、バンガムって街らしい。前に一度行ったバリスよりも手前の街なんだって。


 いや、じゃあ、全然進んでないじゃんか。もっと進めよ。目的地近過ぎるだろ。って、文句を言ったら、フィリアは困った顔で首を横に振った。

 ここからカンビレッジまではちょっと遠くて、今からだと到着は夜中になってしまう。馬車の安全を確保するためにも、それは出来ない、って。


 そのうえで、ここからカンビレッジまでのあいだに、フィリアが……王様が泊まれるような大きな街がないんだって。

 いきなり王様が押しかけたら、たしかに……街の人からは大迷惑だよな。じゃあ……まあ、しょうがないか。


「ユーゴ。宿の手配が出来次第、街の外へ出ましょう。比較的安全な街ではありますが、だからと言って魔獣が完全に出ないというわけでもありません」


 っと。なんだ、そういうことなら早く言えよ。てっきり、もう今日は何もすることなんてないのかと思った。

 ここら辺の魔獣は前にも倒してるし、強くないのも知ってる。だけど、それでも倒せばちょっとは街が助かる。街を助けたなら、俺も子供扱いされなくなるだろう。


 そうと決まったらさっさと行こう。宿の手配なんて、別にフィリアがやることじゃないだろ。

 だったら、それは一緒に来た兵士に任せて、ちょっとでも多くの……いや。ここらにいる魔獣は全部倒しちゃおう。


 馬車から出て、フィリアがついて来るのを待って、そんなフィリアを止める兵士が説得されるのを見届けてから、街の外へと向かった。

 やっぱり、信用なんて全然ないな。アイツと一緒だったら大丈夫だろう……くらいには思われるようにならないと。

 まだまだ、兵士や大人達の中には、魔獣は危なくて怖い敵だって認識がこびりついたままなんだ。


「……怖いって話なら、フィリアは怖くないのか? 別に、フィリアは強くもなんともないんだし」


「私ですか? 私は……そうですね……」


 ふと、さっきのフィリアとのやりとりを……魔獣は怖くないのか? なんて問いを思い出して、せっかくだからと投げ返してみる。

 だって、フィリアはこれっぽっちも強くない。それこそ、兵士よりずっとずっと弱いんだ。


 なのに、フィリアは結構平気そうな顔で俺について来る。魔獣が現れてもパニックにならないし、あっちに何頭いるとかわざわざ教えてくれるくらいだ。

 俺の強さを知ってるから……にしても、ちょっと怖がらなさ過ぎな気もするよな。


「私は……怖がっている場合ではないから。私よりももっと怖い思いをしている人々がいるから。私は、そういう人々を守らなければならないから」


 そんな義務感が、恐怖心を麻痺させているのでしょう。って、そう言ったフィリアの顔は、ちょっと困ってたけど、でも、笑ってた。

 きっとおかしいんだ。って、自覚してるんだろう。自覚があったうえで、それを都合がいいって思ってるんだろうな。

 なんて言うか、やっぱり……


「やっぱり、フィリアも変だな」


 なんか、この世界で俺の周りにいる人、みんな変だよな。リリィも、王様にこれっぽっちも遠慮しないし。カスタードとか、存在そのものが変だし。

 変なやつ以外の意味なんてなかったけど、フィリアはその変って言葉に首をかしげて、あれこれ考えて……また、変なとこに着地しそうだな、これ……


「……そう考えると、私はひどく無責任な大人なのかもしれませんね。いいえ、しれないではなく、そうなのでしょう。恐ろしいとわかっているのに、ユーゴには戦えと命じてばかりいる」


 うわっ、思ったより変なとこに着地した。いったい何考えてたんだ、今の時間。


「……か、考え始めたら恐ろしくなってきました。私は何をさせているのでしょう。国民を守る、弱きものを救うと言いながら、子供であるユーゴにばかり危ないことを……」


「と、突然どうしたんだよ、おい。やっぱり変だな、フィリアは」


 なんか知らないけど、勝手に悩んで、考え込んで、顔を青くして、わなわな震え始めて……変だし、忙しいやつだな……

 でも、まあ、なんて言うか……その変なやつの発想だからこそ、俺もここに来られたのか。なんか……ムカつくな、それ……


「……はあ。そのために呼んだんだろ。その、変な魔術で。そのために、それが出来るように、俺には特別な力があるんだろ。だったら、俺が戦うのは当たり前だろ」


 まともなやつだったら、別の世界に助けを求めようなんて考えないもんな。よかった、フィリアの頭がおかしくて。

 それと……頭のおかしいフィリアが、ちゃんとしたいいやつで。


「それに、俺がやらないと他に誰がやるんだよ。いっつもついて来るけど、あの兵士だって別に大して強くないしさ。俺がいなかったら、魔獣なんてまともに倒せないだろ」


 別に、責める意図はないけど。でも、いつも一緒にいる兵士が魔獣を倒してるとこなんて見たことないし。

 ちょっとだけ考えたっぽい間があったけど、フィリアもそれに頷いて、がっくりと肩を落とした。

 俺がいなかったら、そもそも北とか南とか言ってる場合じゃなくて、王宮の近くを守るので手いっぱいだっただろう、って。


「じゃあ、それは無責任なんかじゃないだろ。大勢を守るために必要なことなんだから」


 フィリアは変なやつで、でもいいやつで、そのうえで……王様だ。王様は、国を守るためにいるんだ。

 なら、国を守るのに一番いい方法を選ぶのは当然だ。そしてそれが、俺を戦わせるって方法だっただけのこと。


 それが必要なら、やるしかない、させるしかないだろ。だってフィリアは王様なんだから。


「別に、俺はそれでいいよ。やれって言われればやるし、やるなって言われればやらない。でないとさ……俺、怖いやつになっちゃうだろ」


「……怖い……ですか?」


 そう。怖い。怖いやつになる。フィリアが悪いやつだったらきっと、俺はそうなるしかなかったんだ。


「そうだよ、怖いやつ。めちゃめちゃ強くて、言うことを聞かない。乱暴で迷惑なやつ。それは嫌だ、かっこ悪い」


 フィリアが悪いやつだったら……自分のために、周りに迷惑をかけても平気なやつだったら。俺に街を襲わせたり、それこそ王様を襲わせたりしたんだろう。

 それは……嫌なやつだし、悪いやつだし、ダサいし、キモい。ムカつく。それにだけはなりたくない。


 俺は強い。強い力を貰った。なら、それをちゃんと使いたい。

 間違っても、それで迷惑をかけたり、弱いやつ倒して偉そうにしたり、そういうウザいことはしたくない。


「……だけど、俺はまだ、誰が強くて弱くて、良くて悪くてとか、あんまりわかんないから」


「……だから、私の言う通りに戦う……と? そう……だったのですか……」


 フィリアがいいやつで、大勢を守るやりかたを選んでくれてるから、俺はそれに従えばいい。って、とりあえず今はそう思ってる。

 まあ、そればっかりだとガキだから、そのうちちゃんと自分で決められるようになるけど。でも、すぐにそれやって間違えたら迷惑だし。


「……ユーゴ。やはり、貴方は優しいですね。その心がある限り、貴方は怖い人になどなりませんよ」


 優しい……かはわからない。でも、ダサくてキモくてウザいやつにだけはならない。それは絶対だ。

 少なくとも、街の人を襲う魔獣を倒すのは、ダサいことじゃない。なら、それはちゃんとやる。

 ちゃんとやって、明日もいっぱい倒して、フィリアにも、護衛の兵士にも、それにリリィとパールにも、さっさと信用させるんだ。


 そうだ。俺は、あんなダサいやつらとは同じにならない。絶対に。絶対に。


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