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異世界転生  作者: 赤井天狐
序章

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第二話【大人と子供】


 その日も、いつもみたいに馬車は宮を出発した。昨日魔獣を倒した林の、そのさらに奥へ行くために。

 俺と、訓練を積んだ兵士数人と、そして……王宮で待ってればいいハズのフィリアを乗せて。


 でも、今日は目的が違う。いつもみたいに魔獣を倒せばそれでいい……わけじゃない。

 もちろん、魔獣も倒すんだけど。それはあくまでも、目的の場所へ行くために、邪魔だから倒すってだけのこと。

 だから……


「――戻ったぞ。昨日のと同じやつだった」


 魔獣が見えたら俺がひとりで飛び出して、全部倒したら馬車に戻る。いつもどおり、そうやって道を切り拓いた。


「そうですか。ではおそらく、ここへ逃げ込んだか、あるいはここの魔獣を駆逐したがために縄張りを広げようとしていたのでしょう」


 昨日見つけたやつは全部倒した……つもりだったけど、どうやら逃げたやつがいたみたいだ。

 縄張りを広げようとしていたってのは……たぶん、もともとはこの奥にいた魔獣が、昨日よりも前に倒した魔獣の縄張りに侵入してたんじゃないか……って話かな?


 なんにしても、ここにまだ魔獣がいるのは俺が倒し損ねたからだ。そして、それも今度こそ倒した。

 じゃあ、進むのにはなんの支障もないな。



 今日の目的……この森林の奥には、魔獣とは別の問題が存在するらしい。

 もともとは食料の貯蔵に使われていた洞窟があって、けど、魔獣が増えたせいで誰も近づけなくなってて……


「しかし……いつからか、魔獣でないものの生息が噂されるようになりました。その名を――吸血鬼、と」


 しばらく走って目的地に着くと、フィリアは読み聞かせみたいな声色で教えてくれた。今の洞窟には、吸血鬼が住んでいる……かもしれない、と。

 今回は、その噂が本当かどうかを確かめるのが目的なんだ。


 吸血鬼……が、洞窟に住んでる……のは、なんとなく納得だよな。

 だってあいつら、コウモリだろ? じゃあ、暗い洞窟の中に住んでるのは変じゃないよな。

 でも……森の中の城に住んでるみたいな話もあった気がする。そこらへんは……おとぎ話の中の存在か、それとも実在する変なやつかの違いってだけかな?


 なんにしても、魔獣を倒してその洞窟をまた使うつもりなら、ちゃんと調べておかないといけない問題なんだろう。


「知能の高い新たな魔獣か、それとも魔人と呼ばれるものの誰かか。なんにせよ、貴方の敵ではありません」


 だから、俺にその役を任せたい。王様っぽい固い言いかただったけど、要はそういうことだよな。

 魔獣だとしたら、倒す自信はある。だって、俺が一番強いんだから。そういう力を貰ったんだから。

 でも……魔人……ってのがいたら、ちょっと困るかも。悪さをする外国の組織らしい……けど、それってつまり、人間……だから……


「……そんなこと、いまさら言わなくてもいい。この奥に入ってそいつを倒せばいいんだろ、簡単だ」


 勝てると思う。だって、魔獣より強いんだ、俺は。じゃあ……あんまりひどいことはしたくないけど、力の差がわかれば大人しく捕まってくれるよな。

 なら大丈夫。任せろ。って……そういうつもりなんだけど、なんでか……フィリアが相手だと、どうしてもキツイ言いかたになっちゃう。


 隣にいる兵士がちょっと怒った顔してるから、やっぱり直したほうがいいんだろうなって……思うんだけどさ。

 ずっとこうだったから、それを変えるの……それも、特にきっかけもなく、こっちから変えるのは……悔しいって言うか、恥ずかしいって言うか……


 まあでも、やるべきことは変わらない。頼まれた通り、この洞窟の奥にいるやつを倒すだけだ。


 洞窟は狭いから、俺がひとりでさっさと行って解決するほうがよさそう……なんだけど。やっぱり、そういうわけにはいかないらしい。

 俺の後ろにフィリアが続いて、それを守るために兵士もみんなついて来て……


「ユーゴ、離れ過ぎないでください。貴方と言えど、完全な暗闇には適応出来ません」


 フィリアは身体が大きいし、兵士は装備が重たいしで、俺が進むよりずっとゆっくりしかついて来れない。

 足手纏い……だなんて思わないけど、そんなんだったら待っててくれてもいいのに……


 それに、暗いところでも平気な力もフィリアがくれたんだ。よくわかんないけど、視力もこの世のあらゆるものより強い……が当てはまってるのかな。

 そのことは伝えてるし、望遠鏡よりも遠くが見えてるのは知ってるのに、どうしてもみんなついて来るらしい。


「……うるさい。だったらお前達が俺について来い」


 そんなだから、どうしても……言葉が強くなっちゃう。フィリアが相手なのもあるけど、今回は……ちょっとイラっとしてる。


 だって、俺だけでいいんだ。俺だけでも大丈夫なんだ。そういう強いやつを求めて、俺を呼んだ……ハズなのに。

 なんで信用してくれないんだろう。兵士はともかく、フィリアはそういうもんだって知ってるのに。


 そういう小さいイライラがあって……そんなふうにみんなに腹を立ててることが嫌で、俺はさっさと先へ進んだ。

 ついて来れないくらい早く進んだら諦めてくれないかな……って。


 でも……ついて来れそうにないからなのか、護衛の兵士を置き去りにしてまでフィリアは俺の後ろに追いついた。

 そ、そこまでしなくても……


「待っていてくれたのですね、ユーゴ」


 追いついて、俺の顔が見えるくらい近づいたら、フィリアは笑顔でそんなことを言った。

 王様らしくない、普通の女の人の笑顔だった。それが……やっぱり、のんきだなぁ……って。


「……違う、お前を待ってたんじゃない」


 ほっとくと遭難して死にそうだから、それはさすがに嫌だから、追いつくのを待ってた……とは言わない。

 だから、都合よく現れた別れ道の前でフィリアを待って、どっちが正解かを聞くことにしたんだ。


 まあ、どっちでもいいんだけどさ。どっちも調べればいいだけだし。


「申し訳ありません。この洞窟を利用していたころも、ここまで深くに足を運ぶことはなかったようなので」


 で……やっぱり、こんな暗くて狭いところ、奥まで入り込んだりはしてなかったらしい。

 なら、どっちも調べるしかないか。でも……そうすると、フィリアが一緒なのは邪魔だな……


「……ですが、生息という条件を考えれば……この先でしょう」


 と思ったけど、フィリアはいつもより真面目な顔をして、別れ道の片方を指差した。

 それで、いくつか理由を挙げて、そっちに吸血鬼や魔獣が潜んでそうだと説明してくれた……けど……


「……わかった。なら……こっちだ」


「っ! ユーゴ、待ってください!」


 なんか……賢い感じ出されたのがムカついたから、フィリアが指したのとは反対の道へ飛び込むことにした。

 別に……反抗したいだけじゃないし。そういうちゃんとした理由があるなら、それを逆手に取って、誰にも見つからなさそうなほうに隠れてるかな……とか、思っただけだし。


 そんな理由で選んだ道は、もう一方と違って傾斜が急で、俺はささっと降りれた……けど……

 フィリアはどんくさいから、ずり落ちるみたいに滑ってきて……高そうな服、汚れちゃったな。ごめん……


 でも……降りた先には広い空間があって、湖が広がっていて。そしてそのさらに向こうには、まだ横穴が続いている。もしかしたら、本当にこっちだったのかも。


「向こうだ。この湖の向こう、あっち側。穴が続いてる」


「対岸……ですか。しかし……」


 たぶん、フィリアには見えてないんだろう。目を細めて向こう側をじーっと睨んでるけど……まったく見当違いのほうを向いてる。


「お前はここで待ってろ。俺ひとりで泳いで渡る」


 でも、これは都合がいいかも。こんなに真っ暗で広い湖、フィリアは渡る方法もないし。

 ここからは俺がひとりでパパっと行って、さっさと戻って来れば……


「……いえ、そういうわけにはいきません。私も同行します」


 全部解決……だと思ったのに。どうしてかフィリアは、なんとしても俺について来たいらしい。

 そんなに信用してないのか……俺が一番強いって、フィリアがそういうふうにしてくれたのに……


「……おい、フィリア。待ってろって、俺ひとりで大丈夫だから」


 そしてフィリアは、ついには俺よりも前に出て、ざぶざぶと湖の中に入ってしまった。

 王様なのに。高そうな服着てるのに。荷物もいっぱいで大変なのに。


「女王様のくせに、無茶するなよ。待ってれば全部解決してくるって言ってるのに」


「いいえ、そういうわけにはいきません。貴方の活躍を見届ける責務がありますから」


 俺も急いであとに続くと、水が思ったよりずっと冷たくて、身体の芯まで一気に凍りつくみたいだった。

 こんなとこに飛び込んで、よく平気だったな……って思ったけど。俺が太ももまで浸かってるのに、フィリアはまだ膝も濡れてないだけだった。


 でも、それだってずっとそうじゃない。水深はどんどん深くなって、俺は足もつかなくなって、フィリアだって荷物を頭の上にあげて、身体もほとんど水に浸かって……


「……結局、胸まで濡れてしまいましたね。ユーゴ、身体は大丈夫ですか?」


 対岸に着くころには、唇も紫になって、寒さに震えてしまっていた。

 俺がこっちを選んだから、こんなに無茶させちゃった……んだよな。


 でも、フィリアは自分のことより俺の心配ばっかりで、すぐに火を点けるからと上着を脱いでナイフで細く裂き始めた。

 立派な服なのに。きっと高価な布なのに。ランタンの油を染み込ませて、それに火を移して……


 信用……されてないんだな、やっぱり。フィリアから見た俺は、ちょっとくらいは強くても、ただの子供にしか見えてないんだ。

 それが悔しくて、腹が立って……でも、フィリアにキツく当たるのは、今は違う気がして。

 それで……どうしようもなくて、火が大きくなるのをじっと見てるしかなくて…………っ⁉


「さあ、温まってください。幸い、燃料はまだあります。せめて吸血鬼と戦うまでは、体調を万全に……? ユーゴ?」


 火が大きくなって、洞窟の中が明るくなって……それで、フィリアがこっちに近づいた……ら……っ。

 その……濡れてて……服が、いつもより身体にくっついてる……から……


「ユーゴ、もしや貴方は……」


「っ。う、うるさい! 近寄るな! デブ!」


 体形がくっきりわかって、それで……っ。そ、そんななのに、フィリアは何も気にせずこっちに近づくから……

 思いっきり怒鳴って、あっち行けって追い返して、フィリアが見えないように焚き火を挟んで反対側に逃げ込んだ。


 こいつ……やっぱり、子供扱いだ。俺のこと、歳の離れたガキだと思って、こんな無防備で……っ。

 あ、あんな格好で……あ……あんな……あんなに……


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