第十八話【難しい話】
カンビレッジ。それが、この国の一番南端の街。ヨロク。これが、一番北端の街。
カスタードのところで聞いた地名を帰りの馬車で説明して貰って、その重たい意味もちゃんと教えられた。
この国は今、国のすべてを治めていない状態らしい。魔獣の数が増え過ぎて、それに対処出来る戦力が足りなさ過ぎて、国の両端を諦めたんだって。
だから、本当ならもっと先まで続いてるハズの国が、カンビレッジと、そしてヨロクって街でぷっつり切れてしまっている。
その話をしてるあいだ、フィリアはすごく……今まで見たことないくらい、悲しそうで、悔しそうな顔をしていた。
そんな決断を下したのは先代の王……自分の父親だって、眉間にしわを寄せながらそう言ったんだ。
フィリアは父親のこと……前の王様のこと、嫌いなわけじゃないらしい。むしろ、偉大な統治者として尊敬してたって。
それでも、この政策で切り離された街のことを思えば、優れた王ではなかったと言わざるを得ない……とも。
フィリアのその感情は……正直、俺じゃわからない。わかりようもない。そんなに重たい責任を負うことも、それを負った人が身近にいたこともないから。
だから……ただ、フィリアもつらくて苦しい思いをしてたんだな、って。それだけ、わかったような言葉を頭に浮かべるので精いっぱいだった。
でも、それとは別に、カスタードの話の重要さ、重大さについては理解出来た。
要するに、国として手放した街の砦を、盗賊に好き勝手されてるってわけだろう。
それは……まあ、そうなるよな、当然。としか思わない。手放したものをどう使われても、文句なんて言えない。言うほうがアホだ。
けど同時に、誰でも好き勝手出来るハズのものを、盗賊団がいくつもいくつも占拠してるとしたら……それは、とんでもないことだと思う。
それだけ強いんだ。ほかの誰かが使うより先に、あるいは使ってるとこを無理矢理にでも、奪い取って拠点にしてるんだから。
そしてその中でも、北の……ヨロクって街よりも外側の砦では、魔獣以外の問題とも戦ってる……らしい。
だから、そこの盗賊を倒しちゃうと、今までそいつらに抑えられてた北の問題も相手にしなくちゃならないって。
それを避けるためにも、南の砦から解放するべきだって、カスタードはそう言ってたんだ。
俺は……別に、どっちでもいい。どっちからやるにしても、全部倒すだけだから。
でも、フィリアの忙しさを考えると……カスタードの言う通り、南からやるべきなのかな。
まあ、フィリアが倒せって言ったやつから倒すだけだから、ここは俺が考えてもしょうがない……って、思ってたんだけど。
「……俺は、俺が思ったままに……か。アホだな、やっぱり」
カスタードのところから帰るとき、街の話をしてくれるより前。フィリアは俺に言ったんだ。
これからの方針を一緒に考えて欲しい。思ったままに発言して、意見を出して欲しい、って。
きっとフィリアは、俺に手伝って欲しい……わけじゃないんだと思う。言葉ではそう言ったけど、それはきっと建前。
本当の目的は、俺にもいろんなことを経験させるためだと思う。あるいは、本当に王宮で働けるような能力を身につけさせようとしてるとか。
だからこそ、北と南の切り離してしまった街の話もしてくれたんだ。そんなの、戦うだけなら知ってなくても困らないハズなのに。
それでも教えてくれたのは、戦う以外のことも出来るように……って、そういうことなんだと思う。
それを知って、俺は……うれしかったし、ありがたかった。だって、ちょっとは認められたってことだろうから。
宮の仕事を任せて貰えたら、それはもう完全に大人の扱いだろう。そういう人しかいないんだから、あの場所には。
そうなったら、ただ強いだけのガキって今の扱いはおしまいだ。
まあ、今はまだそういう扱いなんだってのを再認識したから、それはムカつくけど。
それと……ありがたいっていうのは、それとはちょっと違う事情。喜びよりも、安心に近いもの。
宮で仕事をさせて貰えるようになれば、俺も自分でお金を稼げるようになる。フィリアがいなくてもいろんなことが出来るようになるんだ。
そしたら、あの退屈でしょうがない生活がずっとずっとマシになる。そういう可能性が見えただけで、ずいぶんほっとしたよ。
さて。それで、今は宮の、自分の部屋で待ってるところ。
そういうちゃんとした話をするなら、正式に執務室を使うべきだろう……って、フィリアが許可を取りに行ってくれてるんだ。
しかし……待たされてからそれなりに経つけど、本当に大丈夫か……?
だってそこ、いつもフィリアが仕事してる場所なんだろ? じゃあ、いくら王様の提案でも、ダメって言われるんじゃ……
「――ユーゴ。入りますよ」
結構待たされて不安になったころに、フィリアの声とドアをノックする音が一緒に届いた。
明るい声色だから……断られた、やっぱり駄目だったって感じではなさそうだ。ほっ。
「ユーゴ、許可が下りましたよ。さあ、いらしてください」
「ずいぶんかかったな。そんなに渋られるなら、やっぱりこっちの部屋でよかったんじゃないのか?」
よかった、ちゃんと許可は下りたんだ。って、安心したけど、それはそれとして……こんなに待たされるなら、最初からこの部屋で話をすればよかったのにとも思ってしまう。
でもフィリアは、こういった重要な役割を、これから担わせていくつもりだ……って、そう言って笑った。
まあ……そういうことなら、時間かかっても許可は取ったほうがいい……のかな。
だって、また次の機会があるってことだろ。だったら、まあ、そのときに待たされなくて済むようになるなら……
そうして案内されたのは、前に行ったフィリアの部屋より大きな部屋で、そこにはリリィと……そして、もうひとり。男の人が待っていた。
「では、陛下。バスカーク=グレイムから得た情報を開示してください。ユーゴ。貴方からも補足があればどうぞ」
「パール、そう威圧的な態度を取らないでください。本当に融通の利かない人です」
パール……って、そっか、この人が。名前は何回か聞いたことある、リリィと同じフィリアの付き人……側近? の人だ。
その人が、すごく厳粛な態度で、俺にもちゃんと何か言え……って。なんか……ちょっと怖いけど、フィリアやリリィと違って子供扱いされてないのは……嫌じゃない。
「ごほん。では、ユーゴ。パールの言う通り、私の説明に不足があれば補足してください。私の見落としがあれば、それも同じように」
嫌じゃないけど、それはつまり、ちゃんとしてなかったら容赦なく扱われるってことでもある。この人の前で下手なことすると、二度とここに入れて貰えないかも。
そんなわけだから、フィリアの言葉にも頷きだけで返事して、それもそれで結局態度悪かったなとか反省して……るあいだに、話が始まってしまった。
「伯爵からの情報によれば、盗賊団はヨロク以北、そしてカンビレッジ以東の複数の砦跡に拠点を構えているそうです」
ちゃんと礼儀正しくしてないとダメだよな。じゃあ、謝ったほうがいいかな。だけど、もう話が始まってるし……って、そんなこと考えてる場合でもない。
足りなかったら補足しろ、見落としがあれば訂正しろって言われてるんだ。そこをちゃんとやらないと。
でも……カスタードから聞かされた話は覚えてるけど、しっかり理解出来たわけじゃない。
フィリアが何か忘れてても、間違えてても、指摘出来るかどうか……
そんな俺の不安なんて無関係に、フィリアはカスタードから聞いた情報を説明し続ける。
えっと……えっと……今のところは、何も間違ってない……よな? えっと……




