第十二話【やっぱり変なだけ】
「――なあ、カスタード。盗賊団とか知らないか? コウモリのマークが目印らしいんだけど」
「バスカークであーる。ごほん、それで……はて? 盗賊団……であーる?」
フィリアも戻ってきたことだし、さっさと話を終わらせて帰ろう。そう思ってとりあえず切り込んでみたら、なんとなく想像通りの反応が返ってきた。
誤魔化してる感じじゃない、本当になんにも知らないって顔で、カスタードは首をかしげて困り果てていた。
で……何がどうしたことか、俺のそばでフィリアが慌てふためいている。遊んでないでちゃんとして欲しい、王様なんだから。
自分が行かないと無礼だろう……とか言ってたくせに。話に混ざらないなら同じだろ。
「……物盗りであれば先日この屋敷にも現れたであるが……しかし、団ともなると……」
「おい。それ、俺のこと言ってるのか? こんな何も無いとこに、わざわざ泥棒なんてしに来ないよ」
まあ、フィリアがどんくさいのはいつものことだし、いまさら気にしてもしょうがないか。
それより、カスタードの反応のほうが大事。これでもしちょっとでも怪しい感じ出したら……出したら……殴って捕まえればいいのかな?
けど、それらしい動揺はこれっぽっちもなくて、むしろ嫌味を返すくらいの余裕すら見せられた。うざ。
なら、やっぱりカスタードは関係ない……のかな。それならそれで……ちょっとだけ安心だ。
悪いやつじゃなさそうだって思ったし、変だし、見てて面白いから、そいつが泥棒だった……なんて、嫌な気分になるしさ。
「……ふう。お前、この前コウモリに命令とかしてたから。何か関係してるのかなって」
「ゆ、ユーゴ! どうしてそんな……」
とりあえず一安心。と、そう思って話を進めてたら、これもまたどうしたことか、フィリアが大慌てで口を挟んできた。
遅いよ。もういらないよ。だいたい全部わかっただろ、今ので。このおっさんは無関係の一般人だ。変なだけで、悪いやつじゃない。
「我輩はそんなの知らないであーる。そもそも、他人から盗みを働かなければならぬほど落ちぶれておらんであーる。そちは相変わらず無礼であるな」
そんなこと、面と向かって聞くものではないのであーる。って言われてから、フィリアが慌ててた理由がわかった。
ああ、たしかに。いきなり疑われたら嫌な気分になるよな。それは……まあ……でも、こんなとこに暮らしてる、あからさまに怪しいお前が悪いだろ……
「知らない……か。だってさ、フィリア。なら、もう用事も済んだし帰るか?」
「もう帰ってしまうのであーる? まだ来たばかりなのであーる。もう少しゆっくりしていくであーる」
ゆっくりも何も、こんな真っ暗な洞窟で何をくつろぐんだよ。
でも、がっかりした顔で肩を落とされると……なんか申し訳なくなる。疑われたことは全然怒らなかったくせに、帰られるのは嫌なのか。寂しいなら街で暮らせばいいのに。
「申し訳ありません、バスカーク伯爵。いきなり無礼なことを尋ねてしまって。その……それで……あの……お、怒らないのですか……?」
まあ、帰ったら今日はもうずっと暇だろうし、話し相手がいないのは俺も同じだから。もうちょっといるぶんにはいいけど。
そう思って腰を下ろそうとしたら、またフィリアが一歩遅れて話に混ざってきた。なんか今日のフィリアはいつもよりさらにどんくさいな。
「怒らないのであーる。ユーゴとやらの無礼は先日からずっとであるし、それに怒るほどの話も無かったであーる」
そんなフィリアに、カスタードはにこにこ笑ってそう答えた。そして、怒るべきだと思ったのか? と、反対にそう尋ね返す。
それで、聞き返されたフィリアは……苦い顔で、答えに困って、何も言えないままうつむいてしまった。
「疑われるのには慣れっこであーる。それに、フィリア嬢は既に一度我輩を信じてくれたであーる。ならば、その疑いはきっとすぐに取り下げてくれると、こちらも信じるのであーる」
「……っ。寛大な処置に感謝いたします」
そんなフィリアに、カスタードは笑顔のままそう言った。まるで励ますみたいに。
疑われるのには慣れてる……って言葉は、俺としてもちょっと悲しいものだったけど、でも……
フィリアの反応は、ちょっと……深刻に捉え過ぎじゃないかな……って。俺でもそう思うくらい、暗くて悲しい顔をしてた。
フィリアは王様だから、気にすることが普通より多いのかもしれないけど。
でも……普通に話をするだけでそんなに気を遣ってたら、なんでもかんでも大変になっちゃうだろ。
「さて。その盗賊団とやらに何か盗まれたのであーる? ならば、我輩に任せるのであーる。探し物は得意であーる。我輩の使い魔達に頼めば、大体なんでも見付けてきてくれるのであーる」
と、フィリアがそんな調子だからか、カスタードはさっきまでよりもう一段階声のトーンを上げて、明るくそんなことを言ってくれた。
それを聞けば、流石にフィリアも落ち込んでいられないみたいで、顔を上げてカスタードの話に食いついた。
それにしても……使い魔って、コウモリのこと……か? またなんて言うか……仰々しい呼び名だな。
まあでも、吸血鬼だとか伯爵だとか、やたらかっこつけた呼びかたなのはいまさらか。
「ただし、相応に対価は支払って貰うであーる。フィリア嬢だけでなく、そちにもであーる。これ、ちゃんと話を聞くであーる。ユーゴとやら、これ」
っと、よそごと考えてたらなんか怒られた。対価って、金取るのか。いや、まあ、探偵とかもお金かかるもんな。大人同士だし、そんなもんか。
だけど……俺にも? 別に、フィリアが払っても俺が払っても同じだろ。まあ……俺はそもそもお金なんて持ってないけど。
フィリアも同じ疑問に辿り着いたみたいで、ふたりで顔を見合わせて首をかしげてしまった。
「対価とはすなわち、労働であーる。見たところ、フィリア嬢はそれなりに立派な家の娘のようであーる。しかし、ユーゴとやらはどう見ても小庶民、田舎小僧であーる」
「それなり……そ、そうですね」
誰が田舎小僧だ、ムカつく。間違ってないけど。
でも、フィリアは王様で、それなりどころかこの国で一番偉い人だ。その勘違いは……やばいだろ。
って、そうか。前も今回も、ちゃんと自己紹介みたいなことしてなかったっけ。
それに、カスタードもまさかこんなところに王様が来るとは思ってないもんな。それも……あんなびしょ濡れで……
「……であるならば、私がユーゴの分までお支払いすれば問題ないのでは? そもそも、盗賊団について知りたいのは私の方です。ならば、何もユーゴに労働を強いてまで……」
「勘違いはよくないであーる。我輩はそんな話をしているのではないであーる」
でも、フィリアはそこを訂正することもせず、なぜか律義に話を続け出した。
王様だって身元を明かして、ちゃんと命令したら全部丸く収まりそうなのに。
けど……そんなフィリアの疑問に、カスタードは首を横に振る。そうじゃない、と。
「働くのはフィリア嬢も同じであーる。我輩は金など別にいらんのであーる。要求するのは、ふたり分の労働力であーる」
「労働力……ですか。ええと……ならばなおさら……」
なおさら、お金を受け取って、それで人を雇うべきではないか。と、フィリアがそう言うと、カスタードはすっごく苦い顔をする。
それで……フィリアに近づいて、俺に背中を向けて、なんか……内緒話をし始めた。なんだよ、ウザいな。
でも、俺もフィリアの言う通りだと思ったんだよな。本当に対価が欲しいなら……だけど。
このおっさんのことだから、単にまた遊びに来て欲しい……くらいの意味で言ってるのかもしれない。こんなとこでひとりは暇だろうし。
暇がつらいのは俺もよくわかるから、そういうことなら……まあ……たまには来てやってもいいけど。
「それでは、早速使い魔を飛ばすであーる。何か分かり次第連絡するであーる。その暁には、この屋敷をピカピカに掃除して貰うであーる」
「掃除って……もうとっくにピカピカのツルツルだろ、ここは。土と砂を掃き出せって言うなら、そんなのいつまで経っても終わらないぞ?」
で、話がまとまったのか、カスタードは楽しそうに変なことを言い出した。
屋敷って言い張ってるけど、ただの洞窟だからな、ここ。こんなとこ、掃除のしようもないだろうに。
でも……フィリアはちょっと落ち込んだ顔をしてて、申し訳なさそうな目を俺に向けてた。
な、なんだよ……カスタードとどんな話してたんだよ、ウザいな。
けどこれで、カスタードは泥棒と無関係だってわかった。そのうえ、泥棒を探す手伝いまでしてくれるって。
やっぱり、直接聞きに来て正解だったな。って……俺はそう思うんだけどな。
フィリアはカスタードに何回もお礼を言ってたけど……どうにも、上の空で……




