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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第十二話【やっぱり変なだけ】


「――なあ、カスタード。盗賊団とか知らないか? コウモリのマークが目印らしいんだけど」


「バスカークであーる。ごほん、それで……はて? 盗賊団……であーる?」


 フィリアも戻ってきたことだし、さっさと話を終わらせて帰ろう。そう思ってとりあえず切り込んでみたら、なんとなく想像通りの反応が返ってきた。

 誤魔化してる感じじゃない、本当になんにも知らないって顔で、カスタードは首をかしげて困り果てていた。


 で……何がどうしたことか、俺のそばでフィリアが慌てふためいている。遊んでないでちゃんとして欲しい、王様なんだから。

 自分が行かないと無礼だろう……とか言ってたくせに。話に混ざらないなら同じだろ。


「……物盗りであれば先日この屋敷にも現れたであるが……しかし、団ともなると……」


「おい。それ、俺のこと言ってるのか? こんな何も無いとこに、わざわざ泥棒なんてしに来ないよ」


 まあ、フィリアがどんくさいのはいつものことだし、いまさら気にしてもしょうがないか。

 それより、カスタードの反応のほうが大事。これでもしちょっとでも怪しい感じ出したら……出したら……殴って捕まえればいいのかな?

 けど、それらしい動揺はこれっぽっちもなくて、むしろ嫌味を返すくらいの余裕すら見せられた。うざ。


 なら、やっぱりカスタードは関係ない……のかな。それならそれで……ちょっとだけ安心だ。

 悪いやつじゃなさそうだって思ったし、変だし、見てて面白いから、そいつが泥棒だった……なんて、嫌な気分になるしさ。


「……ふう。お前、この前コウモリに命令とかしてたから。何か関係してるのかなって」


「ゆ、ユーゴ! どうしてそんな……」


 とりあえず一安心。と、そう思って話を進めてたら、これもまたどうしたことか、フィリアが大慌てで口を挟んできた。

 遅いよ。もういらないよ。だいたい全部わかっただろ、今ので。このおっさんは無関係の一般人だ。変なだけで、悪いやつじゃない。


「我輩はそんなの知らないであーる。そもそも、他人から盗みを働かなければならぬほど落ちぶれておらんであーる。そちは相変わらず無礼であるな」


 そんなこと、面と向かって聞くものではないのであーる。って言われてから、フィリアが慌ててた理由がわかった。

 ああ、たしかに。いきなり疑われたら嫌な気分になるよな。それは……まあ……でも、こんなとこに暮らしてる、あからさまに怪しいお前が悪いだろ……


「知らない……か。だってさ、フィリア。なら、もう用事も済んだし帰るか?」


「もう帰ってしまうのであーる? まだ来たばかりなのであーる。もう少しゆっくりしていくであーる」


 ゆっくりも何も、こんな真っ暗な洞窟で何をくつろぐんだよ。

 でも、がっかりした顔で肩を落とされると……なんか申し訳なくなる。疑われたことは全然怒らなかったくせに、帰られるのは嫌なのか。寂しいなら街で暮らせばいいのに。


「申し訳ありません、バスカーク伯爵。いきなり無礼なことを尋ねてしまって。その……それで……あの……お、怒らないのですか……?」


 まあ、帰ったら今日はもうずっと暇だろうし、話し相手がいないのは俺も同じだから。もうちょっといるぶんにはいいけど。

 そう思って腰を下ろそうとしたら、またフィリアが一歩遅れて話に混ざってきた。なんか今日のフィリアはいつもよりさらにどんくさいな。


「怒らないのであーる。ユーゴとやらの無礼は先日からずっとであるし、それに怒るほどの話も無かったであーる」


 そんなフィリアに、カスタードはにこにこ笑ってそう答えた。そして、怒るべきだと思ったのか? と、反対にそう尋ね返す。

 それで、聞き返されたフィリアは……苦い顔で、答えに困って、何も言えないままうつむいてしまった。


「疑われるのには慣れっこであーる。それに、フィリア嬢は既に一度我輩を信じてくれたであーる。ならば、その疑いはきっとすぐに取り下げてくれると、こちらも信じるのであーる」


「……っ。寛大な処置に感謝いたします」


 そんなフィリアに、カスタードは笑顔のままそう言った。まるで励ますみたいに。


 疑われるのには慣れてる……って言葉は、俺としてもちょっと悲しいものだったけど、でも……

 フィリアの反応は、ちょっと……深刻に捉え過ぎじゃないかな……って。俺でもそう思うくらい、暗くて悲しい顔をしてた。


 フィリアは王様だから、気にすることが普通より多いのかもしれないけど。

 でも……普通に話をするだけでそんなに気を遣ってたら、なんでもかんでも大変になっちゃうだろ。


「さて。その盗賊団とやらに何か盗まれたのであーる? ならば、我輩に任せるのであーる。探し物は得意であーる。我輩の使い魔達に頼めば、大体なんでも見付けてきてくれるのであーる」


 と、フィリアがそんな調子だからか、カスタードはさっきまでよりもう一段階声のトーンを上げて、明るくそんなことを言ってくれた。

 それを聞けば、流石にフィリアも落ち込んでいられないみたいで、顔を上げてカスタードの話に食いついた。


 それにしても……使い魔って、コウモリのこと……か? またなんて言うか……仰々しい呼び名だな。

 まあでも、吸血鬼だとか伯爵だとか、やたらかっこつけた呼びかたなのはいまさらか。


「ただし、相応に対価は支払って貰うであーる。フィリア嬢だけでなく、そちにもであーる。これ、ちゃんと話を聞くであーる。ユーゴとやら、これ」


 っと、よそごと考えてたらなんか怒られた。対価って、金取るのか。いや、まあ、探偵とかもお金かかるもんな。大人同士だし、そんなもんか。


 だけど……俺にも? 別に、フィリアが払っても俺が払っても同じだろ。まあ……俺はそもそもお金なんて持ってないけど。

 フィリアも同じ疑問に辿り着いたみたいで、ふたりで顔を見合わせて首をかしげてしまった。


「対価とはすなわち、労働であーる。見たところ、フィリア嬢はそれなりに立派な家の娘のようであーる。しかし、ユーゴとやらはどう見ても小庶民、田舎小僧であーる」


「それなり……そ、そうですね」


 誰が田舎小僧だ、ムカつく。間違ってないけど。

 でも、フィリアは王様で、それなりどころかこの国で一番偉い人だ。その勘違いは……やばいだろ。


 って、そうか。前も今回も、ちゃんと自己紹介みたいなことしてなかったっけ。

 それに、カスタードもまさかこんなところに王様が来るとは思ってないもんな。それも……あんなびしょ濡れで……


「……であるならば、私がユーゴの分までお支払いすれば問題ないのでは? そもそも、盗賊団について知りたいのは私の方です。ならば、何もユーゴに労働を強いてまで……」


「勘違いはよくないであーる。我輩はそんな話をしているのではないであーる」


 でも、フィリアはそこを訂正することもせず、なぜか律義に話を続け出した。

 王様だって身元を明かして、ちゃんと命令したら全部丸く収まりそうなのに。


 けど……そんなフィリアの疑問に、カスタードは首を横に振る。そうじゃない、と。


「働くのはフィリア嬢も同じであーる。我輩は金など別にいらんのであーる。要求するのは、ふたり分の労働力であーる」


「労働力……ですか。ええと……ならばなおさら……」


 なおさら、お金を受け取って、それで人を雇うべきではないか。と、フィリアがそう言うと、カスタードはすっごく苦い顔をする。

 それで……フィリアに近づいて、俺に背中を向けて、なんか……内緒話をし始めた。なんだよ、ウザいな。


 でも、俺もフィリアの言う通りだと思ったんだよな。本当に対価が欲しいなら……だけど。


 このおっさんのことだから、単にまた遊びに来て欲しい……くらいの意味で言ってるのかもしれない。こんなとこでひとりは暇だろうし。

 暇がつらいのは俺もよくわかるから、そういうことなら……まあ……たまには来てやってもいいけど。


「それでは、早速使い魔を飛ばすであーる。何か分かり次第連絡するであーる。その暁には、この屋敷をピカピカに掃除して貰うであーる」


「掃除って……もうとっくにピカピカのツルツルだろ、ここは。土と砂を掃き出せって言うなら、そんなのいつまで経っても終わらないぞ?」


 で、話がまとまったのか、カスタードは楽しそうに変なことを言い出した。

 屋敷って言い張ってるけど、ただの洞窟だからな、ここ。こんなとこ、掃除のしようもないだろうに。


 でも……フィリアはちょっと落ち込んだ顔をしてて、申し訳なさそうな目を俺に向けてた。

 な、なんだよ……カスタードとどんな話してたんだよ、ウザいな。


 けどこれで、カスタードは泥棒と無関係だってわかった。そのうえ、泥棒を探す手伝いまでしてくれるって。

 やっぱり、直接聞きに来て正解だったな。って……俺はそう思うんだけどな。


 フィリアはカスタードに何回もお礼を言ってたけど……どうにも、上の空で……


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