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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第百十一話【もやのかかった相談】


 ダランの砦でゲロ男と再会を果たした俺達は、そこで北方の現状を……今、盗賊団が戦っている敵の情報を、筆談で聞かされていた。

 砦の中の一番奥の部屋で、壁からもドアからも離れて、俺とフィリアとゲロ男の三人以外には一切話が漏れないように。慎重に、徹底して。


 いわく、敵は魔獣……だけではない。それはもともと知ってたけど、改めてゲロ男から説明されれば、その解像度がぐっと引き上げられた気がした。


 そもそも北方には魔獣が多く、それを追い払うので手いっぱい。そのうえで、ごく稀に不審な武装集団に襲われることがあった、とのこと。

 こいつらも、北ではヨロクからすぐのダラン砦より外までは手を出せていないらしくて、より北方の状況はあんまりわかってないそうだ。

 だから、その不審な武装集団のことも、自分達と同じような、国の外でなんとか生き残っている街か組織だろう……程度に思ってたんだって。最初の内は。


 けど……いつの日からか、その集団が意図的に自分達を攻撃していることに気づいた。

 そうなったきっかけも、攻撃される理由もわからないけど、取って取られてが当たり前の環境だから、そういうものだろうと受け入れてはいる……って。

 そのうえで、その連中が街を襲わないように……自分達の生活の基盤となるものを破壊しないように、なんとか抑え込んでいたらしい。


 そう。抑え込めてたんだ。マリアノがいても、いなくても、なんとか対処出来ていた……ハズだった。


 今までだって、アイツがこっちにつきっきりだったわけじゃない。しばらく離れることも多くあった。

 それでも、アイツが鍛えた精鋭が、ゲロ男の指揮する部隊が、謎の敵を追い払えないことはなかった。


 なのに、今度はどうにも様子がおかしい……って、ゲロ男はそこまで紙に書いたところで、大きなため息をついて頭を掻いた。


「……どうにもね。やっこさん、魔獣を飼い慣らしてる節がある。いや……そうじゃないのかな。魔獣の行動を予測して、それと連携して攻撃してるみたいなんだよね」


「魔獣と……? それって……」


 もしかして……前にランデルを魔獣が襲ったことがあったけど、それと同じようなことをしてる……のか?

 てっきり、あれはこいつらがやってるもんだと思ったけど……まさか、謎の敵はもうランデル近くにまで進入してるんじゃ……


「ジャンセンさん。ひとつ、先に確認させてください。以前、出会ったばかりのころのことです。そのとき、ランデルを魔獣の大群が襲ったことがありました」


 その疑問はフィリアにもすぐ浮かんだみたいで、周りに注意しながら、小さな声でゲロ男に尋ねる。

 あのとき、ランデルを襲ったのは盗賊団じゃなかったのか……ランデルを襲いかねない魔獣を抑えていたのは、盗賊団の力じゃなかったのか、って。


 ゲロ男はその問いに、目を丸くしてからまた小さくため息をつく。でもそれは、見当違いに呆れてるって顔じゃなかった。


「さすが、読みが鋭いね。それも、さる情報筋ってやつから? おっしゃる通り、ランデルの近くにもうちの連中を配備してる。魔獣を抑え込むためにね」


 あんなデカい街でも、自然から完全に隔離されてるわけじゃないでしょ? って、ゲロ男はそう言うと、それでもまだ苦い顔で首をかしげてた。

 そしてどうにも不満があるような……いや。不足があって、それをもどかしいと思ってるような、イライラした様子で爪を噛む。


「そう。あねさんがいれば、一度そのせきを切ることだって出来る。止めてた魔獣を街へ向かわせることも、その数を調整することも。姉さんがいれば……ね」


「……マリアノがいなきゃ出来ないようなことを向こうもやってる……ってことか」


 てなると、自動的にマリアノみたいなやつが敵にもいるってことになる。マリアノくらい強いやつが、マリアノのいないこの場所を襲ったら……っ。


 だけど、俺のそんな不安を見透かしたようにゲロ男は首を横に振って、そうじゃないんだって言う。

 問題はそこじゃない。懸念は、危惧してるのは、マリアノ並みに強い敵が襲って来ることじゃないって。


あねさんがいないと出来ないのは、俺達にとってもランデルは潰れて貰っちゃ困る場所だからだ。勢いのついちゃった魔獣の群れを抑え込むのは、並大抵じゃ無理だからね」


「……っ! もしや……いえ、そうです。ヨロクはアンスーリァに属し、かつ盗賊団の活動圏にもなっている。それはつまり、別の組織の入り込む余地がないということ」


 入り込む余地がない……入り込んでいない、関わっていないのなら、街がダメになっても問題にならない。フィリアがそう言えば、ゲロ男も暗い顔で頷くしかなかった。


「現状、魔獣の行動が制御されてる様子はない。姉さんみたいなのがそう何人もいるとは思えないしね。まず間違いなく……」


「盗賊団も、ヨロクの街も、もろともに蹂躙してしまおうという企てがあるかもしれない……と。それは……っ。なんと恐ろしいことを考えたものでしょうか」


 こいつらみたいに街を生かす必要がないなら、マリアノみたいなやつすらいなくても出来る……か。たしかに、ヤバい攻撃を簡単に繰り返せるなら、それはかなり脅威だ。

 だけど、裏を返せば、マリアノみたいなやつと戦わなくて済むってことでもある。

 俺がずっと戦えるなら話は別だけど、チンピラ軍団だけであんなの対処出来るわけないからな。じゃあ、それは朗報でもあるだろ。


 まあ……そこまで暴力的な連中が敵だ……ってことなら、最悪も最悪なんだろうけどさ。

 何しでかすかわかんないって意味では、魔獣の延長線上にいるような敵かも。


「とまあ、そんなとこかな。いやはや参ったね、ここまでの連中とは思わなかった。姉さん不在の隙を突かれたのは間違いなく俺の失態だ。油断なんてしたつもりなかったのに」


 もしかしたら、マリアノがしばらくいなくなることも筒抜けだったのかな。って、そう思ったところで、不意にその話題が出てないことに気づいた。


 カスタードから聞いてる話では、人を操る魔術師が敵の中にいる……ってことだった。

 なら、こいつらの中に操られたやつがいて、マリアノが離れるタイミングを漏らされてた可能性は高いよな。


 でも……いや、待てよ。そんなのがいるって知ってたら、ゲロ男はこんなミスしなかったんじゃないか……?

 マリアノが……一番頼りになる味方がしばらくいなくなるなんて、そんな情報をうっかりで敵に漏らすわけない。

 それこそ、味方にすら伏せておくだろ。マリアノの行動は完全に機密事項にして、いつどこから戦場に飛び出すかもわからないようにしておくハズ。


 じゃあ……まさか、ゲロ男は知らないのか……? 人の心を操る魔術師がいるって、味方ももう操られてる可能性があるって。

 知ってて、俺達も操られてない保証がないから、そういう話をしなかった……んじゃないのか……?

 まさか、ただ知らないから話題に出さなかっただけ……なんて。もしそうだとしたら……っ。


「……っ。おい、ゲロ男。それで、俺は何をすればいい。マリアノを戻せないんだろ。じゃあ、俺が前線に出ればいいのか」


 それでも、こっちからそのことを聞くなんて出来ない。だって……操られてるかもしれないのは、ゲロ男だって同じなんだから。


 万が一、もうゲロ男が操られてたら。それで……敵に有利な状況を作るように仕向けられていたら。そのために、マリアノが遠くに追いやられていたなら。

 絶対にない話じゃない。いや……むしろ、かなり可能性は高いと考えるべきだ。


 だって、ゲロ男はこの組織のボスだ。コイツがいなくちゃ成り立たない組織なんだ。

 それを瓦解させようと思ったなら、ほかの誰よりも先に狙いをつけるだろう。それが難しいとしても、不可能なことじゃない限りは。


「お、そりゃありがたい。あねさんすらとっ捕まえたお前が前に出てくれるなら、それ以上のことはないよ。ただ……それ、出来ないってお前自身もわかってるよな」


「……そうだよ。フィリアをいつまでも連れ回せないから、俺もちょっとのあいだしか手伝えない。だから、俺は何をすればいいかって聞いてんだろ」


 どっちだ。ゲロ男はまだ操られてないのか。それとも……っ。


 真相なんてわかりっこない。それでも、今ここで変に疑われるわけにはいかない。ここで関係がこじれたら、街を守ることさえ出来なくなる。

 なら、打ち明けられた情報だけに則って味方してやるしかない。どんな形であれ、コイツも俺達に疑われないようにしなくちゃいけないんだから。それでおあいこだ。


 そうなれば話は早い。たとえ操られてても、無茶苦茶な指示……盗賊団や国が不利になるような指示は出せないんだ。なら、俺がコイツの指揮下に加わればいい。

 フィリア以外の言うこと聞くのは不本意だけど、こいつらを助けることこそフィリアの指示だからな。じゃあ、ムカつくけど文句はない。


 それでも俺には時間がないんだ。フィリアを連れ回していられるあいだしか手伝えない。

 そのことを念頭に入れたうえで、ゲロ男に指示を求める。俺は何を手伝えばいいのか、って。


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