第十一話【数日ぶりの再会】
また何日かして、カスタードのところへ行くことになった。
目的は、盗賊団が使用している紋章がコウモリだから、それと関係してるのかどうかを確かめること。
なんか……そうやってシンプルに抜き出して考えると、すっごくアホなことしてるよな。
そりゃ、あのおっさんはコウモリを操ってたし、吸血鬼らしいから、コウモリのマークを使っててもおかしくはないけどさ。
でも、冷静に考えたら、そんないかにも自分のものだ……ってバレバレなマークを使って泥棒なんてしないだろ。
少なくとも、そういう悪いことをやってるなら、吸血鬼だなんて名乗らないし、コウモリを操るところを人に見せない。
そういう意味でも、あのおっさんは一番怪しくない気がするんだよな。そうでなくても、悪いことなんて出来そうになかったし。
けどフィリアは、潔白を証明することも大切だ……って。妙に張り切ってる。
まあ、気になるなら直接確認すればいいだろって言ったのは俺だから、止めはしないけどさ。
それで、またいつもみたいに馬車に乗り込んで、護衛を連れて、魔獣を倒しながら林を抜けて。
それで……今度は最初から兵士を洞窟の外で待たせて、めちゃめちゃ引き留められて、それすら振り払って俺とふたりで奥へと進んだ。
なんて言うか……どんどん無茶苦茶になるな。周りの言うこと全然聞かない、わがまま放題になってる気がする。
まあでも、俺としてはそのほうがありがたいけどさ。だって、大勢いても俺について来られなかったんだし。
もちろん、フィリアもいないほうがいいって言えばいいんだけど。だけど、それは失礼だから直接会いに行くって聞かないし。
それに、フィリアとふたりなら、前と同じようにすればいいから。それなら、まあ……いいか、って。
いいか……って、洞窟に入ったときにはそう思って、しばらくは問題らしい問題もなかったんだけど……
「……うっ。結構……だな、これ」
「待ってください、ユーゴ……っ。これは……」
前にも通った別れ道を縦穴のほうに進んで、そしてまた地底湖の前に辿り着けば、フィリアがいることの問題も思い出す。
そうだった、ここを泳いで渡んないといけないんだった。それで……俺はいいけど、フィリアまでずぶ濡れになるから……
しかも、今日は前よりも水かさが増してるっぽい。前には見えた岩がいくつか見えなくなってる。
ってなると……前よりもっと濡れるのか……
「これでは、途中で足が着かなくなる場所があるかもしれません。いえ……私は大丈夫そうですが……」
「……なんだよ。俺がチビだって言いたいのかよ」
そんなことにちょっとげんなりしてると、フィリアがまた変なことを言うから、ついイラっとしてしまった。
フィリアがデカいだけで、俺はそんなに小さくない。クラスでも平均くらいはあった。それに、もし足が着かなくても困らない。泳げるし。
でも、問題はそこじゃないんだよな。ここを渡りきって、そのあとに……はあ。
フィリアが俺のことを子供扱いしてるのはもうわかってるけど、だからって……はあ……
戻って舟を準備する暇も、今日は諦めるって発想もフィリアにはなかったから。結局今回も、前と同じように泳いで地底湖を渡った。
で……やっぱりフィリアはアホでどんくさいから、びしょ濡れになっても全然気にするそぶりを見せない。
それどころか、この先に危険が待つわけじゃないってわかったから、前みたいに乾かすことさえせずに進む始末。
「あの、ユーゴ? どうかなさいましたか?」
「べ、別に。俺は平気だけど、寒くねえのかなって」
フィリアって本当に……本当の本当に、アホなんだなって。子供に見えてたとしても、俺が男だってこともわかってるのに。
別に、フィリアはアホだしどんくさいから、そういうのじゃないけど。でも、俺がどう思ってるかは別として、自分で気にするべきだろ。ムカつく。
でも、フィリアは心底アホだから、そういうのを気にする様子が一切ない。ムカつく。
それどころか、むしろ俺が寒いんじゃないかって心配してそうな顔までして……本当にムカつく。
そんな調子で洞窟を進んで、前にコウモリが襲ってきた辺りまで来て、それでも今回はなんの出迎えもなくて……
「……もし不在でしたら……困りますね。いつ戻るのかもわかりませんし、連絡の手段もありませんから」
「なんだったら生きてるかどうかも怪しいしな。マヌケだし、魔獣に食われててもおかしくないだろ」
もしかしたら、今日はいないのかも。と、こんなとこに住んでいるのを当たり前に受け入れたようなバカな話をしていたら、奥からちゃんと返事が聞こえてきた。
不敬であーる。って、変なおっさんの変な声だ。よかった、濡れ損にはならなさそうだ。
その返事が聞こえてからもうちょっと歩けば、またあの広い空洞が見えて来て、今日はおっさんが最初から待ってて……
「――不敬であーる! そち、相変わらず不敬であーる! まったく、我輩を誰と心得るか!」
「だから、カスタードクリームだろ?」
バスカーク=グレイムであーる! と、地団太を踏んで出迎えた。やっぱりこのおっさん、変だし、おもしろいな。
で、フィリアにもそれがやっと見えたらしくて、前に掲げていたランタンを下げて、深く頭を下げた。
「ごきげんよう、バスカーク伯爵。連日押しかけてしまって申し訳ありません。本日伺ったのは――」
「――ぷぉお――っ!」
のんきに頭を下げて、アホみたいに挨拶をして、それで……フィリアのそんな姿を見るや否や、カスタードは変な大声を上げた。
まあ……そうだよな。そのリアクションが正しいかはわかんないけど、びっくりはするよな。
「――ハレンチであーる! フィリア嬢! いくらなんでもそんな格好はハレンチであーる! 今すぐ着替えるのである! 奥の部屋で、今すぐに!」
「……え。えっと……すみません、以前と服装はあまり変わらないと思うのですが……」
変わるのであーる! びっしょびしょであーる! って、カスタードは慌てた様子でそう言った。
そう……だよな。そうなるよな。フィリアが……その……そういうのじゃなかったとしても、全身ずぶ濡れだったらそれには驚くし、ちゃんと着替えろって言うよな。
それでフィリアは……奥の部屋……? に行って、前みたいに焚き火に当たって身体を乾かし始めた。
広い空洞のその奥に、小さい横穴があったらしい。焚き火の明かりは見えるけど、フィリアの姿はちゃんと隠れる場所が。
で……フィリアがちゃんとその部屋とやらに入ったのを見届けると……
「……むっふ。そちは不敬ものであるが、しかしその苦労は認めるであーる。年頃の男児として、あんな格好で側にいられては敵わんであろう」
「べ、別に……そういうのじゃないし……」
カスタードは困り果てた顔で俺に近づいて、フィリアには絶対聞こえないように小さな声でそう言った。
百年以上生きてるらしいじいさんでも、やっぱり気にはなるんだな……じゃなくて。
「そう意地を張るものではないのであーる。フィリア嬢は美人であーる。それがあんな姿で平然としていれば、男児としては不服に思うものであーる」
「別に……別に……まあ、アホだなとは思うけど……」
そう……なんだよな。って、ちょっと同意しそうになった。ムカつくけど、カスタードのほうが俺のことわかってそうで。
そうだよな。あんな格好で平気なのって、やっぱり俺のことを子供としてしか見てないから……だもんな。ムカつく。
「であればなおのこと、我輩への態度を改めるであーる。大人としての振る舞いを見せれば、フィリア嬢もそちを男児ではなく男として見るようになるであーる」
「なんでそうなるんだよ。それに……別に、そんなふうに見られたいわけじゃないし」
今はそれでもいいであーる。と、なんだかわかったふうな顔で肩を叩かれて……うざ。フィリアほどじゃないにしても、おっさんも俺のこと子供扱いしてるだろ。
ムカつく、ウザい、また前みたいに殴ってやる。って、そう思ったころには火が消えて、奥からフィリアが戻ってきた。
まだ髪とか袖とか濡れてるところはあるけど……まあ……身体が乾いてるなら、別にいいか。
そんなフィリアを……フィリアと、そして俺を見て、カスタードはなんかにまにましてた。キモい。ウザい。やっぱり殴っておけばよかった。




