第百四話【休みの過ごしかた】
カンスタンの視察を終えると、その翌日にはランデルへと戻り、またしばらくの暇が発生してしまった。
ご飯のときに聞かされる愚痴によれば、北には手を出せず、南でも芳しい成果が上がってないせいで、議会がなかなか承認をしなくなってしまったらしい。
フィリアは王様だ。でも、王様ひとりで何もかもを決めてるわけじゃない。
この国の政治の仕組みは詳しくないけど、フィリアが提案して、議会がそれを承認する。あるいはその逆。はたまた、双方から提案、議論、承認って場合もあるらしい。
なんにしても、何かをしようと思ったら、議会からの賛同を得なくちゃならないってわけだ。
それで……なかなか承認されなくなってしまったのは、ヨロク以北、カンビレッジ以南の調査……つまり、フィリアがやりたい、国の外になってる街を取り戻す作戦だ。
これまでにロクな成果が出てないうえに、王様自ら出歩いて……なんてのは、なおのこと許可出来ないってことだろうな。
一応、フィリアも俺も動いてないところで、国軍による調査は繰り返されてるらしいけど……それも小規模なもので、期待はあまり持てないとのこと。
そもそも、俺なしで危険地帯に飛び込むなんて出来ないからな。国を、今ある街を守るための組織だから。別のことで無茶はさせられない。
そんなわけだから、またパールに話を聞きながらこの国について勉強してたんだけど、それだけだとやっぱり……暇とは言わないけど、飽きるし、焦れるから。
俺がするべきこと、俺に出来る最大の貢献は、やっぱりこの力で魔獣を倒すことだ。そのためにも、なんとかフィリアを助けてやりたい……けど……
「……はあ。申し訳ありません。まだしばらく、どこへも行けそうにないのです……」
「まあ……そうだろうな。昨日聞いたからな。なんならその前の日にも聞いた。って言うか、こっち戻ってから毎日聞いてる気がする」
宮でのフィリアの仕事は、俺じゃとても手伝ってやれない。これはどうやってもひっくり返んないからな。助けてやりたくても、無理なもんは無理だ。
出来る出来ないの話じゃなくて、やらせて貰えない。たとえフィリアやパールの信頼を勝ち取ったとしても、俺は役人でも貴族でもないから、そういう場に立つ権利がない。
「そっちはフィリアが頑張るしかないからな。俺に出来ることがあるなら任せてくれればいいけど、大体はそうじゃないんだし。いちいち謝んなくてもいいだろ」
なら、俺から言えることは特にない。頑張れって励ますのだって、果たして意味があるのかどうか。
ただ、そのせいでフィリアが申し訳なさそうな顔してるのは……ちょっと違うから。そこは訂正しておくか、くらいなもんだ。
まあ……昔、そういうのに文句言ったからだろうな、こうやって謝られてるの。
なんか、ものごとって巡り巡って返ってくるんだなって、こんな形で実感した気分だ。
「ただ……部屋の中で出来る調べ物だけだとそろそろ手詰まりなんだよな。街のことに詳しくなっても、実際にそこへ行けるわけじゃないからさ」
「そう……ですね。ううん……本来ならば、貴方を国軍に同行させ、魔獣退治に向かわせてあげたいのですが……」
それも……やっぱり、俺には権利がないんだよな。言われるまでもなくわかってるつもりだ。
なんだかんだでもうずっと宮で暮らしてるし、国軍とも一緒に仕事してるけど、俺の肩書きはまだ何もないんだよな。
国軍の兵士でもなければ、宮に仕える騎士でもない。あくまでも、フィリアが連れて来た謎の戦力……のまま。
俺の生い立ちとか能力を説明するのが難しいからそうなってる……のもあるし、俺が子供だから許可されないのもきっとあるだろう。
でもそれ以上に、俺を兵士や騎士にしてしまうと、フィリアの都合に合わせて動けなくなる可能性が高いからそう出来ないんだ……って、なんかのタイミングで聞かされた。
軍に所属すれば、軍の仕事を優先しなくちゃいけない。フィリアの指示じゃなくて、軍の隊長とか、もっと上の偉い人とか、そっちに従うことになる。
そうなると、フィリアが望む解放作戦に加われるかわかんないんだ。だから、俺のことを軍にねじ込んだりは出来ないんだって。
まあ、俺もそれには文句ないけどさ。そもそも、この力の使い道はフィリアに決めて貰うって約束だし。
そりゃ、軍人も役人も貴族も、悪いことするとは思わない。思わないけど、フィリアほどは信用していいかわかんないからな。
万が一にも間違った使いかたをされたくない。俺が貰った力は、あまりにも大き過ぎるものだから。
「……ところでさ。魔獣を倒しに行かなくても、宮からは出ちゃダメなのか? まあ……前まではさ、不審者みたいな状態だったし、出歩かないほうがよかったと思うけど」
「っと、そうでした。貴方の活躍は宮でも知られていますし、誰も怪しまなくなったころでしょう。門衛に話を通して、午後には外出出来るよう手配しておきますね」
なんだよ、そんなあっさり許可出るのかよ。もっと早くに言えばよかった。って、早くから文句言ってたら、なかなか許可出せなかったのかな。
それこそ、今くらいの信頼関係がなかったら、宮から逃げ出してどっか行くかも……とか、そんな勘違いされそうだし。今まで大人しくしてたからこその信用なのかも。
「では……私はまた執務室に戻ります。ここのところ、パールが優しくしてくれるほどに忙しいんです……はあ……」
「……普段からちゃんとしてたら、パールはずっと優しいと思うけど……」
少なくとも、俺がいろいろ教わってるあいだは、まじめだけど、怖い人だとは思ったことないけどな。どんだけ問題児なんだ、フィリアは……
でも、いつも縮こまってる背中が余計に小さく丸まってるのを見送ると、さすがにかわいそうにもなる。
俺がここで哀れんだって何も進まないんだけどさ、それでも励ましてやりたくなるよな。
「……どうせだったら、なんか探してくるか。気晴らしになりそうなもの」
せっかく街へ出かけられるなら、なんか面白いものでも探すか。俺がじゃなくて、フィリアの気分を楽に出来るようなもの。
あ、でも……俺、金持ってないな。だけど、小遣い貰うのもなんか違うし。じゃあ……土産買って帰るんじゃなくて、ご飯のときの話題になりそうなものでも……
そして、約束通りに昼から外出の許可が下りた。と言うか、これからはちゃんと報告すれば自由に街へ出ていいって。
ただし、ランデルより外には出ないのと、ひとりで魔獣を倒しに行かない……危ないことはしないって条件つきだけど。
「……微妙にまだ子供扱いだよな。ムカつく」
いまさら魔獣が危ないわけないだろ。俺がどれだけ倒してきたかわかってんのか、あのアホ。
まあ……街から出てちゃんと帰る自信ないから、そこはいいけどさ。でも、危ないことするななんて、子供に注意するんじゃないんだから……
「……ま、いいや。いつものことだし。パールはそれなりに信頼してくれてるから、フィリアがアホなだけだろ」
なにはともあれ、こうして宮から出る自由は与えられたんだ。それには感謝しよう。
たぶんだけど、フィリアひとりの決定じゃない気がするし。いろんな人に頼んで、俺が出入りする許可を取ってくれたんだろう。
そうと決まれば……さて、どこへ行こう。って言うか、どこに何があるんだ……?
フィリアと一緒に街から出ることはあっても、街の中をうろつくことってなかったんだよな。
ううん……これ、街からは出るなって言われたけど、どこまでが街なのかもわかんないし……むしろ、街中のほうが迷いそうだな……




