第百二話【成果の報告】
「よく来たであーる! もてなすであーる!」
「こんにちは、バスカーク伯爵。本日はナリッドの解放について、良い報せを持って参りました」
ナリッド解放作戦のしばらくあと、ランデルに戻った俺達は、すぐにカスタードの洞窟を訪れていた。
結局、あのあとにも十日近くカンビレッジに滞在して、魔獣がいない場所を調べてたんだ。
その理由は……まあ、半分は言い訳作り。そこを調べてたら時間がかかってしまったって嘘を、ある程度でいいから本当にするため。
でも、もう半分は……調べ始めたら、本当に時間がかかっちゃったから、なんだよな。
魔獣がいない原因を突き止める……のは、最初から無理だってわかってた。
だから、本当に魔獣がいないのか、その範囲がどのくらいなのかをもうちょっとだけ細かく知ることにしたんだ。
だけど、そのもうちょっとがとんでもなく難しいんだって、やってから思い知らされたって感じ。
ただまあ、そこはどうでもいい。その調査で得られたものは、嘘つくときは事前にしっかり打ち合わせしておこうって教訓だけ。
本題は、やっぱりナリッド……延いては、盗賊団によって守られていたチエスコの無事が確認されたこと、だろう。
「先日、ナリッドの無事を確認して参りました。その件について、いくつか喜ばしいことがありましたので、急ぎ報告をば、と」
「街も無事であったか。それは朗報であーる。魔獣程度に壊される港でないと思っての提案であったが、思わぬ拾いものであーる」
そんなわけで、嬉しそうに出迎えたカスタードに、フィリアもにこにこ笑っていい報告をする。
ナリッドの港も街も無事だった。そこに住む人達も、完全にではなくても、魔獣の脅威に怯えることなく暮らすことが出来ていた、って。
「なんでも、ナリッド周辺の林に住む魔獣は、街を襲うことがあまりなかったそうです。原因のわからないことですから、手放しでは喜べませんが……」
「ふんむ。なるほど、それは非常に興味深い話であーる。要因の特定が成れば、あるいはすべての街を魔獣から守ることも叶うやもしれんであるな」
魔獣は街を襲っていなかったこと。けど、林の中にはとんでもない数の魔獣がいたこと。それを伝えつつ、俺とまとめた魔獣の種類や特徴についての報告書を渡す。
カスタードもそれを見て、しばらく渋い顔でうなったあとに、首をかしげて諦めたようなため息をついた。これを見ても何もわからんであーる……とかなんとか言って。
まあ、そうだよな。実際にこの目で見た俺も、フィリアも、盗賊団の誰も、なんで魔獣が街を襲わないのかわかんなかったんだ。
話だけ聞いたカスタードがいきなり全部わかるわけもない。こればっかりは、たとえこのおっさんでも無理。
「それと……こほん。どちらかと言えば、喜ばしいのはこのあとの話……いえ。こういった調査結果を持ち帰ることが出来た要因のほうにあるのです」
「ふーむ? ナリッドが無事であったことよりも喜ばしい……であるか? して、それはいったいなんであろう」
ふーん。むーん。って、うなり続けてたカスタードに、フィリアはまたなんとも気の抜けた笑顔で話を続ける。
伝えたいこと、うれしい話はまた別にあるんだ、って。のんきな声で、アホみたいな顔で。
「実は、一時的にですが、盗賊団と協力することが出来たのです。この一件に限り……というものでしたが、彼らと協力して、ナリッドまでの道を拓いたのです」
ほんと、アホだよな。言いたいことはわかるけど、その場限りの協力をそんなに喜んでどうするんだ。
むしろ、協力すればあれだけ簡単にことが進むってわかったのに、それが成立してない今を嘆くべきだろうに。
「彼らはチエスコを管理下に置いていました。そこの砦からナリッドまでの道を繋ぐことが出来ましたから、これからは彼らによって物資の輸送が可能になります」
「ふむ、チエスコ。なるほど、納得であーる。盗賊団の活動範囲を思い返せば、たしかにあの街に拠点があって然るべきであーる。しかし……ふむ?」
それは本当に喜んでいいことであるか? って、カスタードは微妙な顔でフィリアに尋ねた。まあ……そうだよな、そういう反応になるよな。
盗賊団はチエスコの街も守ってくれてた。そして、そのチエスコからナリッドまでの道を繋いだから、国の代わりに食糧なんかを運んでくれる。
別に、この約束が破られるかもとか、やりかたに文句があるとか、そういう話じゃない。いや、やりかたには文句あるけどさ。盗んだもの運んでるわけだし。
だけど、カスタードが言いたいのはそこじゃないと思う。
盗賊団を信用することに文句はない……ないことはないかもしれないけど、それには目を瞑るとして、だ。
それを盗賊団に任せて、それで良しとして、国は本当に大丈夫なのか。って、そういうこと言ってるんじゃないかな。
「喜ばしいです、心の底から。だってそうでしょう。彼らは……かの盗賊団は、国の力を借りてでも、国から見捨てられた街を守る姿を見せてくださったのです」
国として、その姿勢はダメかもしれない。為政者として間違った考えかもしれない。
それでも、フィリアは喜んでる。たとえ過去の不始末を片づけて貰ってるのだとしても、それを恥じることとは別に、その結果を誇らしいと思うんだ。
って、そんなことはカスタードの前では言わない、言えないんだけどさ。王様だってこと、隠してるつもりはないだろうけど、成り行きで伏せる感じになったし。
でも、宮に仕えるひとりとして、本来は敵である盗賊団を持ち上げるようなことも平気で言っちゃう。それがフィリアの……一番アホなとこだろうな。
「それに、まだ諦めたわけではありません。どれだけの時間がかかったとしても、彼らとは協力関係を結びたいと思っています」
「むっふん。なるほど、であーる。今は逆賊の手柄であれど、いずれ軍門に下る組織であれば、その成果はすべて我がものと同義……であるな」
フィリア嬢は懐が深いであーる。って、カスタードは褒めてるのか諦めてるのかわかんない顔でそう言うと、またペラペラと魔獣の資料に目を通し始めた。
さっき見たときと何も変わらないだろうけど、なんか引っかかるとこあったのかな。それとも……その資料があれば、もっと別のことを調べられる……とか?
「……そち。この資料をまとめたのはそちであるな。よく見ているのであーる、感心したであーる」
「な、なんだよいきなり。別に、大したこと書いてないだろ。動く前に倒したやつも多いから、結構穴だらけの資料だぞ」
い、いきなり褒めるなよ。それと、褒められてもうれしくない程度の完成度だぞ。
でも、カスタードはにこにこ笑って首を横に振る。そうじゃない……ってことか? いやでも、資料の抜けが多かったら、それはやっぱり役に立たないもので……
「魔獣の性質などはどうだっていいのであーる。重要なのは、魔獣の分布と、その活動範囲であーる」
「だから……その活動範囲がわかんないだろ、それじゃ。見かけたやつ片っ端から倒しただけなんだから」
のんのん。って、カスタードは人差し指を左右に振って……なんかめっちゃムカつく顔でたしなめる。
なんだよ、マジでムカつくな、その顔と態度。めちゃくちゃ子供扱いでバカにされた気分。変なおっさんのくせに。
「これにはそちが見た、魔獣を斬り倒す瞬間までの行動が記されているであーる。それがわかれば、少なくともどれだけ近づくまで警戒されなかったかがわかるであーる」
それはつまり、縄張りの推測に繋がるであーる。って、カスタードはそう言うと、紙の束を丁寧にまとめ直して、大事そうに両手で抱えた。
そして、これにはとんでもない価値があるのであーる。そちにはその褒美を差し出さねばならんであーる……とかなんとか言い始めて……
「したがって……ユーゴ。そちを我輩の右腕として迎え入れるのであーる。生意気な田舎小僧から騎士に取り立てられるなど、夢物語のような成り上がりで……」
「誰がなるか、アホ。全然うれしくない。これっぽっちも成り上がってない。こんな変なとこに棲みついてるおっさんに仕えていいことないだろ、どう考えても」
不っ敬であーる! って、久しぶりに聞いたセリフと一緒に、俺もフィリアも、怒ってるハズのカスタードも、揃ってけらけら笑い出してしまった。
なんか……まだなんにも解決してないし、ナリッドも国に戻ったわけじゃないのに、こんなのんきなことしてていいのかなってくらい平和だな。
「むぉっほん。引き続き、北の組織と盗賊団の動向は調査し続けるであーる。フィリア嬢、ユーゴ。そちらも気を抜かず邁進するであーる」
「はい、もちろんです。次にこちらを訪ねる折には、きっと更なる吉報を約束いたします」
そうして、伝えるべきことを伝え、渡すべきものを渡し終えると、俺達はまた洞窟をあとにした。
宮に戻ったらまたしばらく暇になるんだろう。フィリアが忙し過ぎて、俺の出番は当分ないから。
それでも……今、あの部屋の中でもやれることはきっとある。なくても見つける。見つかんなかったらパールに聞いてでもなんかする。
そうやって前に進んでけば、フィリアの願った通り、ゲロ男達との協力関係も実現するだろうし。




