第百一話【成功と不満】
ナリッドの港はそれなりに無事で、街の機能を復活させればすぐにでも使えるようになるだろう。って、グリフィー達はそう言ってた。
けど、それはあくまでも、船を着ける場所としての話。外から来た船を迎えられるってだけ。
ナリッドから船で漁に出たり、ほかの街へ移動したりは、現実的にはまだ厳しい。とてもじゃないけど、そんな余裕はない……って見解だ。
それでも、港が使えることに変わりはない。だったら話は簡単だ。
ナリッドを復興して、もう一度元気な街にすればいい。俺が魔獣を倒して、チエスコからちゃんと道路を繋いで、交易を再開すればいいんだから。
そうだ。簡単な話……だって、俺はそう思った。思った……けど。そうじゃないこともすぐにわかっちゃったんだよな。
「このたびはご協力感謝いたします、アンスーリァ国王陛下。御身とユーゴ殿の力がなければ、ナリッドの街へは辿り着けなかったでしょう」
「いえ、感謝はこちらから。本当に……本当に、ありがとうございます。ナリッド到着は、皆の助力あってこそです」
街が無事だってわかって、港の状態も確認し終えた俺達は、翌日にはチエスコに、そのさらに翌日にはカンビレッジ近くの砦へと戻っていた。
そして……そこで、このひとまずの協力関係は終了する。それが、簡単だと思ってた話が簡単じゃなくなる理由。
俺達とアイツらの関係は、王様と……国と、国を脅かす盗賊団。それは変わっていない。
つまり、これからもずっと一緒に戦うなんてことは出来ないんだ。
ナリッドへ行くまでの道程がどれだけ厳しくても、魔獣が多くても、アイツらは俺の力を頼りには出来ない。
マリアノがいればなんとかなるかもしれないけど、アイツはきっといろんな場所で戦ってる。だから……被害が出ても、チンピラ軍団だけで食料を運ぶことになるだろう。
反対に、街が無事だってわかったのに、俺達もナリッドへは簡単に足を運べない。
今回の一件は公的に認められたものじゃない。だから……アンスーリァとしては、ナリッドはまだ無事の確認されていない、国土の外の街でしかないから。
なんて言うか……手を取り合えば、協力することが出来れば、こんなにあっさり成果が出るってわかったのに。
なのに、協力関係が結ばれてないがために、得られた成果を誇ることさえ出来ないなんて。
「……すごく不満そうですね。もちろん、私としても文句がないわけではないのですが」
「ちっ。だから言ったんだ、さっさと協力しろって。なのにあのゲロ男……ビビりやがって」
そうだ。あのとき、この場所で、ゲロ男がフィリアの要求を……アイツらにとって都合のいい条件を飲んでれば、こんなとこで悩まなくてよかったんだ。
なのに……あのクズ。あまりにも都合が良過ぎてフィリアを疑うなんて、無駄なことしやがって。チキン。
「……あの。ユーゴ、貴方は……最初、どちらかと言えば彼らのことを……特に、ジャンセンさんのことを、信頼出来ないと毛嫌いしていたような……」
「信頼なんてしてない。好きにもなってない。でも……協力すればいろんなことが解決するなら、それは別だろ」
別ですか。って、フィリアはなんか関心そうな顔で頷いてたけど……なんだよ。俺が自分の感情優先する子供だと思ってたのか。アホ。デブ。
まあ……たしかに、最初はあんなやつらいらないって思ってたけど。でも、ヨロクで被害が出なかったのはマリアノのおかげだしな。
それに……なんでか知らないけど、違和感がなかったんだ。抵抗感がなくて、むしろすっとハマったような気持ち良ささえあった。
そうなるのがあたりまえみたいな、ずっとそうだったみたいな、居心地の良さ……とは違うけど。なんか、しっくりきたんだ。
なのに……あのクズ。さっさと頷けばいいのに、無駄なとこでフィリアを疑いやがって。
ただのアホなんだよ、フィリアは。アホに見えるけど王様だ、もしかしたら取って食われるかもしれない……みたいな勘違いするなよな。
「今回だってそうだろ。フィリアは王様で、あんまり好き勝手出来ない。フィリアの代わりに動き回れる味方が必要なんだってはっきりわかった」
でも、好き勝手したらちゃんと結果が出た。なら、好き勝手動ける味方さえいればいいんだ。
それに、アイツらが味方だったからこそ、チエスコの砦も使えた。あの場所がなかったら、フィリアを連れてナリッドへ……なんて、なおさら許可が下りない。
ヨロクよりも北、カンビレッジよりも南に活動拠点を持ってるってだけでも、アイツらを味方にしたい理由になるだろ。
「なおのこと、彼らの力のありがたみが増してしまったような気がしますね。なんとしても手を取って貰えるように尽力しなければ」
「……フィリアが何やってもあんまり意味はないと思うけどな。アイツが協力を拒んだのって、単にビビってただけだろうし」
それと……万が一にもフィリアや俺が操られてたら……って、それを警戒してたんだろうな。
アイツらが戦ってる敵の中には、人の心を操る魔術師ってのがいるらしいから。それを知ってたら、やたら自分に都合のいい援軍とか、余計に信じられないもんな。
なんにしても、とりあえずナリッドは無事だったんだ。そして、盗賊団に街を保護して貰える約束もした。
現状に文句がないわけじゃないけど、結果だけを見れば万々歳だ。カスタードにもいい報告が出来る。
「……さて。しかし……困りましたね。考え得る中では最速で解決した……のですが。それでも、四日も姿をくらましてしまったのですから……」
大騒ぎになっていなければいいのですが。って、フィリアは神妙な面持ちでそんなことを言うけど……それ、考えるだけ無駄だろ。
だって、王様がひとりで……一応はふたりだけど、四日も連絡取れなくて姿も見えない……なんて、そんなの事件にならないわけないし。
「街に戻る前にちゃんと決めとくか、設定。魔獣退治って言い訳で出てきたわけだから、そこは嘘つけないとして……」
「そんなにもスムーズに悪だくみを始めないでください……はあ。今回の一件、どうにも貴方らしくない、悪童のような振る舞いが見受けられますね」
らしくないってなんだよ。別に、優等生だったつもりないけど。まあ、悪ガキってわけでもないけどさ。
「もうちょっと考えて言い訳して来ればよかったな。街を出るぶんには十分な理由だったけど、四日も帰らなかった理由には弱過ぎる」
「そうですね。そもそも、魔獣のいない区画を調べると言って出てきたわけですから。その日の内に戻れない理由を探すほうが難しいでしょう」
まさか、盗賊団と協力してナリッドに行ってた……なんて、ほんとのこと打ち明けるわけにもいかないし。
あまりにも安全過ぎたから、適当に野宿して徹底的に調べてた……は、さすがに無理あるか。うーん……
「……難しい……ですね。ううん……最悪の場合、極秘の事情があったとでも言って押し通るしか……」
「……まあ、最悪はそれでいいかもしれないけど……人のこと悪童とか言ってたやつのすることじゃないだろ……」
フィリア、そういうとこあるよな。実際にそうすることはほとんどないけど、発想は俺なんかよりずっと悪ガキだろ。
まあでも、王様から圧かけられたらみんな黙るしかないもんな。じゃあ……何も思いつかなかったら、そういう方向でいいか……
それからもうちょっとだけ言い訳を考えて、そしてふたりで何食わぬ顔で街へと戻った。
役場で待ち受けていたのは、それはもう顔を真っ青にして慌てふためく大人達だったけど……まさか、そこからさらに大きなストレスを与えられるとは思わなかっただろうな。




