表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生  作者: 赤井天狐
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/108

第一話【少年ユーゴと女王フィリア】


「――――標的を発見。三……いえ、四頭。行けますか、ユーゴ」


 望遠鏡を覗きながら、その人は言った。深い林の奥に、敵が四体いる、と。

 人を襲う、気持ち悪い化け物。魔獣……って呼ばれてる、倒すべき敵。


 その人はそれを、俺に、倒してくれって言った。人が、大人が、大勢いても殺されてしまうような化け物を。四頭も。


「――任せろ――」


 俺はその命令を……お願いを、叶えてあげたいと思った。今の話じゃない。もっと前、初めて会って、話を聞いて、頼まれたときに。

 ほかの誰かに言われてもきっと受けただろうけど……でも、その人の頼みは聞いてやってもいいかなって、そう思ったんだ。


 長くてきれいな黒い髪。体育の先生よりももっと高い背。

 怒ってるのかなって間違えるくらい怖い目つきと、でも……そうじゃないのがわかる、のんびりした声。


 その人はいつも苦しそうで、ずっと悩んでて。なのに、俺と話をするときは頑張って笑おうとしてるのがわかって。

 だから俺は、この人の期待には応えたいって……この人には報われて欲しいって、そう思った。


 だから――俺は、戦う。


 狭くて暗くてすごく揺れて、とにかく乗り心地の悪い馬車から飛び降りる。まだすごいスピードで走っている最中の乗り物から、平然と。

 俺にはそれが出来る。出来るから、大人でも勝てない敵を――魔獣を、俺だったら倒せる。俺だけが、敵を蹴散らせる。


 俺だけが、その人を助けてあげられる。


 地面に足が着くと、自分の体重も、馬車から投げ出された勢いも感じないうちに、身体は前へと進み始めた。痛くないし、しびれもしない。

 だから、なんにも心配することはない。あの人に貰った剣を握って、ずっと遠くに見えている――望遠鏡じゃないと見えないような場所にいる敵に向かって――


「――はぁああ――っ!」


――馬車よりももっともっと速く走って、そして一瞬で敵を全部斬り捨てた。大人も殺してしまうような怪物を、四頭一緒に。

 俺は、そういうことが出来る特別な存在なんだ……って、その人が教えてくれたから。




 この世のあらゆるものよりも強い。それが、その人が教えてくれた力だった。


 俺は、ついこのあいだまでただの中学生だった。身体も小さくて、力も強くない、弱い子供だった。

 でも、今は違う。と言うよりも、ここではそうじゃない。


 ここは……この世界は、俺が生まれ育った場所とは違う場所……らしい。説明はされたけど、よくわからなかった。

 でも、電気もロクに通ってないこと、自動車も走ってないこと、テレビもスマホもなくて、ゲームも漫画もないことがわかれば、一緒なわけはないと思った。


 生まれた世界とは違う場所に……俺は、あの人に呼び出されたらしい。いわゆる、異世界転生だ。


 そう、転生。生まれ変わったんだ。


 俺は……元の世界の俺は、まだ中学生だったけど、死んでしまった。

 もうちょっとやりたいこともあったけど、でも、死んだ。それは覆らない。


 死んで、全部動かなくなって、何もかもがなくなって……おしまい。って、そう思ってた。けど、そうならなかった。

 あの人に召喚されて、俺はこの世界でもう一度生きる権利を貰ったんだ。


 最初はちょっとだけ戸惑った。だって、死んだ自覚はあったんだ。なのに、全然知らない場所に、病院でもないところにいたんだから。

 でも、すぐにわかった。暗い部屋の中で、その人を見つけたから。見たこともないような服装のその人が、すごく優しい目を俺に向けていたから。

 俺は、この人に、この世界に、何かを求められて呼び出されたんだ……って。


「――お疲れさまです、ユーゴ。周囲にほかの魔獣の気配はありません。帰還しましょう」


 ユーゴ。って、その人が呼んでくれたのが俺の名前。元々の名前と同じ……だけど、ちょっと違う。だってこの世界には、この国には、漢字なんて存在しないから。


「わかったよ、フィリア」


 フィリア。って、俺が呼んだのがその人の名前。教えて貰った、カタカナでもアルファベットでもない文字で綴られるもの。


 この世のあらゆるものより強い戦士。俺はフィリアにそんな願いを託されてここにいる。

 だから、俺は戦う。敵を……魔獣を、全部倒す。そして、みんなを守る。生き返らせてくれたお礼に。




 魔獣を倒し終わると、また乗り心地の悪い馬車に乗って、俺とフィリアと、そして護衛の大人は戻るべき場所へと戻った。

 その戻るべき場所は……フィリアやほかの大人からは、“宮”って呼ばれてる。


 そう。ここは、王宮なんだ。王様がいるべき場所、王様を補佐する人が働く場所。そこに、俺達は戻ってきた。

 ここにいるべき――魔獣との戦いに同行すべきじゃない、王様と一緒に。


 フィリアはこの国の王様らしい。らしい……っていうのは、教えられてないって意味じゃない。王様だって聞いてるけど、王様らしくないって意味。

 たぶん、まだそんな歳じゃない。近所の大学生と同じくらいの歳だと思う。まあ、ここに大学なんてないけどさ。

 でも、フィリアが王様らしい。周りにはもっと歳が上の大人がいくらでもいるのに、王様はフィリアらしい。


 あんまり事情はわかってないけど、どうやらフィリアの父親が前の王様らしくて、フィリアには兄弟がいないみたいだ。

 そして、前の王様が急に亡くなったから、王様になれるのがフィリアしかいなかったんだって、そう聞いてる。


 大変そうだなって思った。王様が大変じゃないわけないけど、そうじゃなくて。

 フィリアは……王様には向いてなさそうだな……って、そう思ったから。


 王様なんて言われてもピンとこないけど、とにかく偉い人なわけだから。

 大人に命令して、いろいろやらせて、自分はとにかく全体を見てなくちゃならない……んだと思う。

 でも、フィリアにはそれが出来なさそうだな……って、そう思うから。


 たとえば……さっき、魔獣を倒しに行ったこともそう。王様が一緒に行く意味がわからない。

 だって、倒して来いって命令するのが王様の仕事だろう。それを、わざわざ一緒に行って、魔獣があっちにいるとか指示まで出して。

 まあ……行くって言うなら止めはしないけどさ。周りの大人もちょっと困ってた。


 それと……これは毎日のことなんだけど……


「――ユーゴ。出てきてください、食事にしましょう」


 うわ、来た。って、ちょっと頭が痛くなる。


 フィリアはどうにも……俺の世話をしようとしてる……らしい。そんなの、それこそ執事とかに任せればいいのに。

 なのに、どうしてか毎日毎食、ご飯が出来たぞ……って、俺を呼びに来るんだ。


 それが……なんか……王様って言うか、母親にしか見えなくて……


「ユーゴ。出てきてください、冷めてしまいますよ」


 ああもう……本当に頭が痛い。


 フィリアは王様だ。偉い人だ。だったら、準備が出来たなんて知らせずに、時間になったら食堂に来て、きちんと食事を摂れ……って、命令すればいいのに。

 そうされたら俺も従うし、それに文句を言ったりする気もない。


 なのに……のんきな声で、毎日毎日……


「ユーゴ、まだ眠っているのですか。入りますよ」


 本当に……なんでこんな……


 フィリアは……まだ、二十歳くらいのお姉さんだ。それで……その……目つきは悪いし、身体はデカいし、なんか変だけど……でも……

 でも……その……きれいな人……だから。


 別に、そういうのじゃないけど。でも、なんか、そういう、きれいな、かっこいいお姉さんが、うざい母親みたいなことしてるのは……ちょっと、嫌だ。

 嫌だから……やめて欲しいんだけど……


「……起きていたのですね。食事の準備が出来ましたよ、温かいうちに召しあがってください」


 どうしてか、フィリアはずっとこの調子なんだ。俺がこの世界に来て間もないころから、王様だって身分を明かしたあとも、ずっと。


「……うるさい。食って欲しかったら運んでこい。俺はお前と一緒になんて食いたくないんだ」


 きれいな人だと思った。かっこいいお姉さんだと思った。だから、その期待に応えたいと思った。

 もちろん、それだけが理由じゃないけど。でも……王様だし、俺をこの世界に呼んだ力も持ってるし、特別な人なのは間違いないから。


 だから……そういうかっこよくないことして欲しくないし、ましてや母親と被るようなことされると……普通よりもっとムカつく。


 そんな理由で、自分でも呆れるくらいわけわかんないことで、いつもついついキツく当たってしまう。

 なんだけど……王様なのに、それを怒らないから。怒られないから……なんか、やめるタイミングがわかんなくなって……


「……ユーゴ。ここに、置いておきますね。召し上がったら、声をかけてください。空いた食器がそのままでは、貴方もいい気分ではないでしょう」


 気づいたら……こんな、引きこもりとその母親みたいな関係になっちゃった。

 俺はただ、王様なら王様らしく……最初に会ったときのイメージ通りに、もうちょっとだけかっこよくしてて欲しいだけだったのに……


 でも、こっちからそれを言うのも……恥ずかしいし。そもそも、フィリアは王様なんだから、礼儀をちゃんとしろって命令しなくちゃいけない立場なんだから。

 だから……だから、フィリアがちゃんとしたら、俺もちゃんとする……つもりだから……


 この世のあらゆるものよりも強い。そんな力を貰って、俺はこの世界に転生した。

 フィリアとは……なんか……ちょっと噛み合わないけど。でも、その願いは叶えてやるつもりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ