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掌編

裏切り者

作者: 綴 詠士

 右手に持つ剣を振り下ろす。大きく、重い一撃は相手の剣に受け止められ、衝撃となって跳ね返る。

 剣で受け止めたのは、裏切り者のミリド。長い金髪の男で、鎧を着ている。普段は飄々としている顔に、今は険しい表情を浮かべている。

 この男を殺さないと気が済まない。

 剣が弾かれる。

 私は体重が後ろに掛かるのを感じ、足を下げて体勢を立て直す。

 太陽の日差しが肌を焼く。ミリドの剣が光を弾いた。

 地面を蹴る音。そして横薙ぎに振るわれる剣。

 一瞬の判断で避けると、頬に痛みが走る。赤い血が飛び、肌を掠めたのを感じる。

 鉄の匂いを感じながらも、ミリドの動きから目を離さない。

「どうしたんだ、団長。昔の方が強かったぞ、腕が鈍ったんじゃないのか?」

 挑発的な表情でミリドが言う。嘲笑うような声が耳障りだ。

「お前はもはや団員ではないぞ、裏切り者が。帝国法に則り、罪人を逃がした咎で、お前を処刑する」

「罪人じゃない! あいつらは仲間だろ? 騎士団で一緒に訓練してきた仲間じゃないか! なあ! 団長!」

 ミリドが叫ぶ。その言葉が耳に大きく響きわたる。

「……だが、団員たちが命令違反を犯したのは事実だ」

「命令違反って。じゃあ村人達を皆殺しにしろってのか!? ふざけるなよ!」

「罪はあった。彼らは異教の術を使っていた。帝国に従っていたふりをして、裏で禁じられた術を使っていたのだ。処罰されて当然だろう」

「……分かったよ。そうやって、いつまでも帝国の犬になってればいいさ。一生。死ぬまでな」

「黙れ!」

 思わず激高し、怒鳴りつける。そして距離を詰めた。

 土を踏み瞬間的に動き出す。空気を身体で感じるほどの勢いで近づき、目の前にミリドの身体。驚愕にゆがむ顔、汗のにおい。

 剣を動かす。音は消え、ただ私の剣がミリドの身体を切り裂く。

 硬い鉄の感触は一瞬。剣先が肉を貫く。柔らかい身体を抵抗もなく引き裂いていく。赤い血が溢れる。

 ミリドの叫び声。重い音を立て、その体が地面に倒れる。

 温かい血を浴び、顔をぬぐう。

「……みんな、ごめん」

 ミリドの手が弱々しく動く。その手が私の足をつかもうとして、力が抜けた。

 裏切り者は消えた。私は職務を成し遂げたのだ。

 私は動かなくなったミリドを見下ろす。かつての生意気な姿からは想像できない、生気の無い顔。腹からは血が溢れ続けている。

 吐き気を感じ、剣が自然と手からこぼれる。剣は鈍い音を立てて地面に落ちた。

 職務は職務だ。だがあと何人、裏切り者を殺せばいい?

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