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6.親密度を高めるための会話

「でさ,ちょっと自己紹介ぃみたいなことしてみない?」

「はああ?」

 突然のラチェの提案に,アスティは呆れ声で,ルキアは無言の疑問顔で応えた。

「いやさ,やっぱこんな旅じゃあいつ命がけの戦闘になるかわからないだろ? そういうとき,あんまり信用できない奴と味方同士で戦えない。信用するには相手のことを知っとかなきゃいけない。だからまずは自己紹介しよう!!」

 どちらかというと強引に継ぎ張られた理論に,

「いいけど……?」

「おれ喋りたくないことは喋らないから」

仏頂面でアスティが返す。

「よし。んじゃ俺から。まー本名とかは知ってると思うから。んー何言や良いかな……。

 えっと……俺は,ラルク生まれラルク育ち。旅に出るのはこれがはじめて。

 親父は流行病に,母ちゃんは崖から落ちて殺られた。姉貴は水上街マーシェにいる」

「ごめん水上街マーシェってなんだ? どこかの場所?」

 遮ってアスティが聞く。

「アイント王国からひたすら南へ行くと,アイント地方からオールド山地へ出る。そこからさらに南へ行くとウルゼン湖と呼ばれる湖がある。ウルゼン湖に浮かぶ自然島。アリニア ワールドで1番物と者が集まる街―――マーリシェーア。そこが,水上街マーシェと呼ばれるところ」

 ルキアによる説明が終わるとアスティの瞳が興味深げに開かれた。

「そんなとこがあるんだね。説明ありがとう」

「どういたしまして」

「んで,クアント(貸し家屋)の1家借りて住んでた。ティオと子供に剣術教えて金稼いでね」

「ちょっと待って。アスティはレーテット種の生き残りはラチェ1人だと言った。ラチェのお姉さんはレーテットではない?」

 ルキアの問いに,やはり軽いノリを変えずに返す。

「姉貴っつったけど,俺の親父は普通にアーミル族(種族名。アームでは殆どの人がこの種である)だったから姉貴の髪や瞳は俺とは違う」

「あ……えっと……ごめん」

「いいんだよ,別に。ただ,なんでもかんでも隠しとくのは苦手なんだ」

「そう」

「剣術の流派はなし。1度長期滞在してたアイントの大級(アイント王国王立国軍の階級の1つで2番目の位)さんから実践用に教えてくれた奴を独学でやってきたから」

「わたしの国の大級が?」

「ああ。ルキアは特級(アイント王国王立国軍の位の1つ。最上位兵)なんだろ? 大隊長なんだから」

「うん。でも剣術指南―――いや,わたしの父は大兵(アイント王国王立国軍の階級の1つで下から5番目)以下を教えていたからわたしとラチェの流派は多分違う」

「……?」

 さっぱりわからないアスティが疑問符を浮かべる。気付かずに2人は会話を続けた。

「ルキアの父ちゃんってアイントの剣兵の剣術指南なのか?」

「まあ……そう」

「ふーん。あ,俺からはこんくらい。気になったら何でも聞いて」

「わかった」

「了解。ってことで次おれ行くよ」

 順番のバトンを受けたのはアスティだった。

「うん」

「どうぞ」

「おれはローネのレズラ地方のターユスってとこで生まれた。多分3歳のときに,大聖堂カルナスに売られた。名前は貰ってなかったから7歳で名付けの儀式を受けたんだけどなんでか体が拒否っちゃって結局自分で付けた。

 神父さんによると名付けの儀式を拒否する肉体は強力な魔力を持ってるんだってさ。それで訓練を受けておれは最高位の魔術師―――スフィア・レンティスになった」

「1つ聞いて良いか?」

「なんだ? ラチェ」

「お前ってリメリス教の最高位布教者じゃないのか? カルナスって魔法訓練所なのか? リメリス教って魔術の1つか?」

 繰り出される疑問符。アスティは1つ1つに頷き答えた。

「リメリス教というのは,ややこしいんだけど宗教と一体型になった魔術の方法。カルナスをはじめとする全ての聖堂は宗教を教えたりするのとともに,キミの言う魔法訓練所のような働きもしている。おれみたいな最高位の魔術師とは別に最高位の布教者ももちろんいる」

「な〜る。説明サンキュー」

「じゃあ続き。だから,おれの戦う専門は魔法。もう1人くるラルサの奴とは魔法の発動の仕方がちょっと違う。

 兄弟はいない。というか売られたから育ててくれたカルナスの乳母さんがただ1人の家族かな。カルナスには売られる子供が多いから乳母さんが何人かいるんだ。

 ふう。こんなもんかな?」

 話疲れたのかアスティが出されていた水を飲む。

「最後はわたしか」

 小さく言ってルキアが居住まいを正す。

「わたしはアイント王国の城下町で生まれた。母は,病気で亡くなってる。父も殺された。直接的な肉親はいない。

 アイント王国王立国軍の剣術指南だった父から剣術を教わっていた。最終的には父よりも強くなっていた。シアルリーフ家に代々伝わるシアルリーフ流の剣術で。

 父が殺されてから,兵に志願してアイント王国王立国軍の剣兵になった。両親は兵になってほしくなかったのかもしれないけれど,わたしの能力を活かすにはこの職業しかなかった。入ったら,たくさんの人達と昇格勝負をさせられて特級になった」

 淡々と,ルキアが語っていく。

「ごめん特級ってなに?」

「アイント王国王立国軍の階級。国軍兵は剣兵,槍兵,斧兵,弓兵,鞭兵,弓兵,盾兵でそれぞれわかれている。それらが下から副兵,准兵,少兵,中兵,大兵,副員,准員,少員,中員,大員,准級,少級,中級,大級,特級となっている。

 そして,特級の中から小隊を取り締まる副小隊長,小隊長。中隊を取り締まる副中隊長,中隊長。大隊を取り締まる副大隊長,大隊長。そして各武器に分かれている兵を統べる王立国軍兵隊隊長が選ばれている」

 わかり易く丁寧な説明が終わる。

「へえー,ありがとう。やっぱりルキアは凄いんだな」

「そんなことはない」

 照れてそっぽを向くルキア。今まであまり感情を表に出さなかった彼女が浮かべた感情らしい感情にラチェとアスティが『おおー』と心内でハモる。

「そうか。ルキアあのシアルリーフ家の人なのか」

「"あの"って?」

「シアルリーフ家は,アームで1番の剣豪家。シアルリーフ流の剣術道場がいくつもある」

「ルキアすごすぎだろ!?」


 小声で交わされる会話は食堂内の喧騒にかき消されている。アスティがさらなる賞賛の目で見ているのに気付かずにルキアは続ける。

「今は普通に城に併設されている兵舎で住んでいる。……話すことはこれくらい」

 言い終えると,テーブルの上に束の間の沈黙が走り抜ける。

 アスティが皮肉げに言った。

「で?」

「"で?"って……」

「なんか効果あった?」

「あったんじゃね?」

「なら良いや」

「えっ……?」

「結果を伴わないことはやりたくない主義なんだよ」

「あっそ……」

「はいお待たせー」

 呆れた様子のラチェの前にカローン煮が置かれた。

「カローン煮2つとシューンです!!!」

「「「ありがとうございます!!!」」」

 待ちに待った食事を持ってきたカイに3人の礼が向けられた。

「おっしゃあ,食べるぞ!!!」

「いただきます」

 ラチェとルキアはすぐに食べ始めたが,アスティはリメリス教独特の祈りを捧げてからカローン煮に手を付けた。

「腹へったー!!! いただきます!!」

 先程の沈黙とは対称的な長い沈黙がテーブルに落ちた。いや,ただの沈黙ではなく独り言だらけの沈黙だった。

「やっべー……超……うめえ」

「……ここのシューン……すごくおいしい」

「カローン煮……久しぶりだなあ」

「まじ……で……やばいな」

「今日1日……朝ご飯ぶりの飯だ!!」

「胃に……しみるぜ!!」

「腹減った……時って……すげー……美味く……感じんだな」

「……俺……やっぱカローン煮大好きだ」

「肉なんて何年ぶり……だろ?」

 主にアスティとラチェの感想である。早々にシューンを食べ終わったルキアが目を丸くして2人の独り言を聞いている。

 確かに1人暮らしをしていたラチェと,粗食を基本とするリメリス教の僧侶であるアスティの2人はカローン煮など食べるのは久しぶりだろう。

「うまかったー」

「ごちそうさまでしたー」

 椀から顔を上げて同時に言う2人にルキアは声をかけた。

「じゃあ,お皿厨房に持って行こう」

「うん」

「OK」



みんな過去には質問しない

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