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4.出立と不安

 空の色が,凍青と薄青のグラデーションに照らされる。

 アーム=ラルクの出口。ラチェとルキアとアスティ,ティオ,長が立っていた。ラルクに留まるティオ,長は手ぶらだったが,他の3人はそれぞれ旅へ出る為に厳選した荷物を持っていた。

「準備はできたのか〜? ラチェ」

大分軽い雰囲気で,ティオが聞く。

「お陰様で。と言うかそのせいで昨日全く寝られなかった……」

 質問に嫌味と本音を返し,欠伸を1つする。

 これから重要な旅をするというのに,これでは少し不安である。

「しっかりしろよ!!」

アスティが命令口調で言った。

「命令するな!! 明らか俺の方が年上だろ?」

「敬語の方がよろしいのでしょうか?」

「あ,いや……別に,良い……」

いきなり敬語にモードを変えたアスティにラチェがどもる。

「おいコラどっちだよ」

「年上にキレんな!!」

「年上とか関係ねーだろ!! おれの年齢知らないクセに!!」

「じゃあ何歳なんだよ?」

「15歳……」

「ふんっ! 俺は17歳だぞ?」

「だからなんなんだよこのあほ!!!」

「敬え!!」

「嫌だ!」

「おまえらうるさい!!」

漫才に発展しそうな2人にティオがキレる。

「そろそろ行く?」

ルキアに訪ねられて,男2人組がまごまごする。というか赤面する。男と言うのは常に女の子の前で格好付けていたい存在なのだ。ましてや言い争うところを見られるなど論外である。

「危険な旅になるじゃろうが,気をつけるのじゃぞ」

「はい」

「わかりました」

「わかった」

ルキア,アスティ,ラチェが,揃って返す。

「じゃ,いってらっしゃい」

ティオが言い,長が頷く。それを見たルキアが敬礼,アスティが両手を胸の前で重ねるリメリス教の挨拶,ラチェが剣を顔の前で捧げ持つことをした。

 そして3人は無言で踵を返す。

 世界を救うために,破滅か,平和かの分かれ道へ―――。


§§§


「なあ」

「なんだ?」

「ラチェの名前の由来って何なんだよ」

「なんか唐突だな」

 アーム=ラルクを出て,平原を歩く3人の子供。静寂と,時折風がたてる草撫で音に包まれてひたすら西を目指す。無言で歩くのもなんだからと,話すネタを考えまくっていたアスティ。ようやくネタを見つけ,話し掛ける難易度の低いラチェに問うたのだった。

「俺の名前はさ,古い言葉で―――まあ多分レーテットの言葉なんだろうけど,透き通った水色っつー意味があるらしい」

「キミの瞳の色か」

「ああ。俺としてはエルフの黒とかかっこいいと思うんだけど……」

「それはおれもわかる。けど結構おれ自分の髪色とか瞳の色とか気に入ってるし」

「お前はナルシストか!? 確かに綺麗だけど。でもさ……」

「うん」

頷きあい,同時に言う。

「「ルキアの瞳の色綺麗!!!」」

「つーかぶっちゃけルキア美人!!」

「同感!! ぶっちゃけたなお前!! でも,ハードル高いよな……」

「はああ……。これから増える予定の仲間に男いる?」

「おれが思うに多分エルフ」

「いんのかよ!!!!!」

ラチェの心からの全力叫び。但しルキアに聞こえない程度に抑えてはある。

「俺さ,彼女できたことないの。いつも片思いどまりなの!!」

「うるさいよ。わかったから。ていうか重要な旅なんだからこんな話やめようよ!!」

 自分から話を振ったクセにぶち切りにするアスティ。

「アスティ」

「? あ,ああ。なんだ?」

 切った途端,ルキアから話し掛けられる。

「まずどこへ行く?」

「そうだ。残ってるメンバーがラルサとエルフならアーム=ラルクからローネやサールンに抜けた方が良かったんじゃないのか?」

2人の問いに,アスティが答える。

「アイント王国に行く」

「は?」

「なんで?」

当然とも言える2人の疑問符。特に動じずにアスティが返す。

「大国からの支援・理解はやっぱりあった方が良い。そして―――」

「「そして?」」

「あそこでは話さなかったけど,そのエルフの姉弟の姉の方が何年か前にアイント城を訪ねているんだ。その情報収集も兼ねて」

「な〜る」

「理解した」

「ルキアには何度も行き来させて悪いけれど」

「構わない。それに,わたしは剣兵大隊長だから,来客用宿舎を使う許可を出せる。少し古い建物だけれどそこを使えば宿代が浮く」

「じゃあお言葉に甘えて……ってルキア大隊長なのか!?」

 ラチェが驚く。ルキアが渋い顔をしながら頷いた。

「大隊長って何だよ?」

アーム―――アイントの事には疎いアスティが尋ねる。

「アイント王国の……兵の位だ……。数万人もの兵達を統べる,一番のトップがアイント王国兵隊隊長。二番目が,大隊長。ルキアは剣が得意だから,剣隊の実質的なトップになったんだ」

「すげ……」

ようやくそのすごさがわかったのか,アスティの紫色の瞳が見開かれる。

「ルキアってすごいのな」

「なあ!! そごいよな!! だってまだ俺達と変わらないぐらいの年なのに,俺達より年上のおっちゃん達より強いんだぜ? どんだけすげーんだよ!!」

クールな反応のアスティに対し,騒ぎまくるラチェ。

「あんまり騒いでやんなよ。ルキアだって困るだろ?」

「あ,ああ,そうだな」

気遣いのあるアスティの言葉に,ラチェが自重し始める。

「ラチェ,アスティ」

 透き通るような,ルキアの声が2人の名を呼ぶ。

「「なんだ?」」

「アーム=ラルクとアイントの間にはあの町―――シュアルしかない」

ルキアの指す方向に,建物の群が見えた。

「今日中にアイントまで行くのは無理だから,シュアルで泊まったら良いと思う」

「なるほど」

「なーる」

「それだけ」

言い終わると,発言してから今まで器用に後ろ向きで歩いていたのを方向転換してルキアは歩速を早め始めた。

 モンスターが頻繁に出没する今,3人―――特にラチェの装備が万全ではないのに日がかげり始めてから町に着くのでは遅い。夜目が聞くルキア以外は,手が出せないであろう。戦うための鍛錬なんて,2人は体験したことすらないだろうから。

 それに,とルキアはちらりと後方からついてくる独特の色味の紫瞳をした少年を見た。

 彼―――アスティの使うリメリス教と連動する魔法は,室外で使うとき,「符」を使用する。恐らく考え得る限界の早さでラルクに到着したであろうアスティは,ほぼ確実に「符」の補給を行っていないはずだ。もし戦闘になった場合,「符」がないと絶対に此方側が不利になる。

「急がないと……」

知らない間に,ルキアは呟いていた。

 どこからモンスターが現れても,対応できるように頭の中で考えながら。

心に巣くう不安を抑えることなんか,ガキだった頃の剣の稽古より簡単だ

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