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3.古文書に登場する6人

「長さん。この人は,あの伝説の古文書に出てくるレーテットの人ですね?」

 少年の訪ね方は,確信を持った疑問形だった。

「やはり,そうでしたか」

 溜め息と一緒に,長はその言葉を吐き出した。

 アーム=ラルクの長の家。

 そこで,薄茶色の髪と紫の瞳を持った少年と長が話をしていた。傍の2つのベッドには,ラチェとルキアが寝ていて,さっきまで2人の治療を手伝っていたティオも,うたた寝をしていた。ティオの状態からもわかると思うが,時間はかなり遅かった。

「お主はあの古文書を読んだことがあるのか?」

「はい。あまり言いたくありませんが,おれは,スフィア・レンティスですから」

 少年の言葉の中にあった,スフィア・レンティスと言う単語に,長は反応した。

「スフィア・レンティス……!! お主はその年で大聖堂カルナスの最高位魔術師に?」

「ま,まあ……そういうことになります,ね」

 少年の顔から冷たい印象を受ける表情が取り払われて,苦笑いが浮かんだ。

「お主は今何歳だ? 子供の形をした年寄りではないのか?」

「本当,あまり言いたくないんですけど……15歳です」

「15歳っ!?」

長の顔は驚愕の色で染まるが,反対に少年の顔は笑いを堪えているようだった。いや,思いっ切り堪えていた。

「スフィア・レンティスなど,15歳でなれるものではないだろう……。それだけお主の魔力が強いのか……」

「……っつう」

 と,会話を遮るように呻き声が聞こえた。

「目を覚ましたのかな?」

少年が後ろを向くと,薄い金髪を持った頭が起きていた。

「どう?」

「すっげえ体が痛い」

少年の問になにも思わず応えていたラチェだったが,何か思うところがあったらしい。考えた後に叫んだ。

「あーーっ!!!!!!」

「うわっ! なんだよ?」

「モンスターはどうなったんだ!?」

「キミの一撃で灰と化したよ」

「ならいいや。お前はさっきの氷魔法の……?」

「うん。おれの名前は,アーシユーティー・シーフィリー。アスティって呼んで」

「オッケー。アスティだな。俺はラチェ。ラーチエンド・ファーリエン。ここで寝てるのがルキア,ルケイアーク・シアルリーフ。アイントの剣兵。んでこいつがティオ。ティリゼイーオ・サクファーン。俺の幼なじみで剣超上手い奴」

 ラチェが,寝ている2人の略称と本名を,ざっと紹介した。

「ふーん。ラチェにルキアにティオか」

「ずばっと質問から言って良いか?」

「おれが答えられるモノなら」

「なら聞く。さっきの印はなんだ? 正直俺はモンスターに手を向けてあたりが光ったところまでしか覚えてない」

「……今から言う話。全部信じるか?」

アスティの紫の瞳が,ラチェをひたと見つめた。

「ああ。信じる。信じるから,「わたし達にも聞かせて」

 台詞を奪い取られ,ラチェが隣のベッドを見た。

「ルキア……起きてたのか」

「うん。……アスティ,わたしはその話,朧気にしか知らない」

「オレも部外者っぽいけど知りたい」

 緑,蒼,薄い水色。6つの瞳に見つめられてアスティが頷く。

「わかった」

 そして,話し出した。


§§§


「キミ達は,大聖堂カルナスと言う建物を知っている? ラルサ族の族教,リメリス教の総本山みたいなところだ。おれは小さい頃,そこに売られて強い魔力を持っていることを知り,訓練を受けて最高位の魔術師になった。

 カルナスには,1巻の古文書があるんだ。他の場所にもあるらしいけど。おれは最高位の魔術師に仲間入りしたとき,それを読む許可を得て,読んだ。

 そこには,いずれこのアリニア・ワールドを襲うであろう異変,それを救う人物,原因となる4つ目の世界のことが書かれていた。

 まず異変。これはもうキミ達もわかっていると思う。アリニアに出始めたモンスターだ。カルナスの魔術師達の調査によると,出現場所はアームでもなく,ローネでもなく,サールンでもない。アリニアの何処でもない。4つ目の世界,カミル。それが何処にあるのか,どんなところなのか,誰も知らない。

 次に,救う人物。この展開だとわかるだろう? ラチェとルキア,そしておれ。それにラルサの1人とエルフの姉弟」

「根拠は?」

 話し続けていたアスティを,ラチェが遮った。

「ラチェの場合は,その瞳と髪」

「俺の?」

「その薄水色の瞳に薄金髪―――太古に滅びたとされるレーテットと呼ばれる種族の特徴。現代で生き残っているのは,」

アスティは,一度言葉を切った。

「キミだけだ」

「えーっ!? 本当に人違いだろ!?」

「決定的な証拠は,あの洞窟でのこと」

「ああ?」

「あの光……モンスターを一撃で倒せるけれども,6人で使わなければ,後に本人に苦痛を与える能力。あれは古文書に書いてあったとおりだ」

「嘘だろ……」

「諦めな」

 どこまでいっても認めたくないラチェの肩を,ティオがぽんと叩いた。

「ルキアは? 根拠がいる?」

「別に。気になったときに聞くからいい」

アスティは頷き,また話し始めた。

「最後に4つ目の世界カミル。さっきもいったけど,この世界についてはまだ研究段階だ。だからおれ達がまずすることは,あとの3人と会うこと」

「どうやってその人物だと特定する?」

「あの洞窟の石板を持って行く。あれに,新しい印が現れたら,その人物だ」

「俺はトライアングルなんだな?」

「そう。おれはスクエア。ルキアはダイヤ」

「残りはサークルとスターとダブルサークルか……」

「そういうこと。おれからの話はこれで終了。何か質問は?」

 3人は何も言わなかった。

 ルキアは進んで質問するほど口数が多い方ではなかったし,ラチェは,さっきの質問で全てを悟ったようだったし,ティオに至っては,自分には関係ないとどこ吹く風だった。

「ということで,明日出るから」

「早っ!?」

ラチェは驚いていたが,ルキアは特に無反応だった。

「えっ!? 驚いてんの俺だけ?」

「うん。わたしは今すぐにでも出発できる。どれだけ長い旅になっても耐えられるような荷造りは此処にくる前にして,其処にある」

「まじ!? 一回アイントに戻らなくて良いのかよ?」

「いい」

「アスティは? ローネに戻らないのか?」

「うん」

「決まりだな。ラチェは家がここにあるんだし,親いねえだろ? さっさと準備しろよ」

「……えー?」

あくまでも,本当にあくまでも認めたくない薄金髪の少年がいた。

「えー? じゃねぇっ!! せっかくレーテットなんだし世界の危機なんだし行かないっていう選択肢は無いからな!!」

 部外者である黒髪の少年が叫んだ。



「てなことでオレはもう出てこねーんじゃねーかな?」

蒼瞳の少年が呟いた。

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