序章3:大罪
Rorla&Retha
「これより,異端裁判の儀を始める」
頭の中に,現実を突きつけるその声が響く。
私の母は,異端裁判にかけられるのだ。原因は,私達だった。呪われた子が生まれると知りながら私達を生んだせいだった。
「コーナ,前に出ろ」
「母さんっ!」
「行くな。馬鹿」
母を追いかけようとしたレスアが他のエルフに首を蹴られている……!
「うっ……」
「レスア!!!」
助けに行きたくても,男の人に腕を掴まれているため,助けに行けない。レスアを誰も気にかけない。
それもこれも,私達が呪われた子,レセーリードだからだ。
§§§
レセーリード。もとは古代の異能者だったそうだ。ある時,その異能者が強大なチカラを生み出し,世界が滅びるまでの危機に陥った。チカラの重圧に耐えられなくなったレセーリードが息絶えなければ,世界は滅びたであろうと言われていた。その出来事を繰り返さないようにエルフは厳しい規則をつくった。
レセーリードの全ての記憶を消し,森を追い出す。レセーリードを生んだ者は10年後に死罪。
§§§
いつの間にか刑が言い渡されていた。
「コリンセーゼニア・エンシャードに,死罪を申し付ける。異論は無いな」
群衆の首が縦に動くのを私は見た。
涙すら,もう出なかった。
§§§
夜は,家にいることを許された。
「何を食べたい?」
問いかけられた私達は,ただ首を振った。食べたいものなんてなかった。1週間程,何も食べていないというのに。これから自分達はどうなるのか。それしか頭になかった。
「っつ……」
レスアが顔を歪めた。裁判のときに,首を蹴られているのだ。かなり痛いに違いない。
「大丈夫?」
母が,優しい声で,そう言った。
「ちょっと待っててね」
言い残すと,母は台所に立った。何かの薬を取っているのだろう。
「姉ちゃん,オレ達は,どうなるんだろう」
「……わからない」
レスアの声に,首を振ることしかできない私が酷く情けなかった。
§§§
処刑の日。母は手首を縄で縛られ,立たされていた。私達も縄で縛られ,身動きができない。
「もうすぐ処刑が始まるんだ。おとなしくしておけよ」
そう言って去っていった男の後ろ姿を,レスアが睨んでいた。多分,私はもっと睨んでいた。
そして,刑の実行時刻になった。
「これより,コリンセーゼニア・エンシャードの処刑を行う」
「これを飲め」
死刑執行人達は,母を毒殺しようとしていた。
母は動かなかった。
微動だにしなかった。
黒に近い灰色の瞳で真っ直ぐに宙を見据えていた。
まるで,今から死なされることなど,何も意味がないと言うかのように。
「……力ずくで飲ませろ」
死刑執行人の後ろに控えていた3人の男達が,母の所に行った。1人が母を動けないように支え,1人が母の顎を下げ,最後の1人が毒薬を手にした。
「「母さんっ!!」」
叫びが虚しく響く。
男が,毒薬を入れた椀を手にし,一気に母の口の中に流し込んだ。流れるような行動にはなんの躊躇いもなかった。
「……っ,げほっ,がっ」
既に色を写さない世界となった私の視界は,その鈍色に染まった。
「ああっ……」
母の体が痙攣したあと,動かなくなった。
「来い」
呆然とする私達に、記憶を消す儀式を始める男―――いや,悪魔の声が囁かれた。
返して
返せよ
私の
オレの
お母さん