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序章2:名前

Asty


だれか、だれか

おれの名前を呼んでください


だれか、だれか

おれの名前を教えてください


§§§


「入りなさい」

 神父さんの声が聞こえて,おれは部屋に入った。

 ここは、大聖堂カルナス。ラルサ族の8割が信仰するリメリス教の教会,高位の魔術師達が暮らす,ローネ最大の教会だ。

 おれは,売られた。親が,この大聖堂に売ったんだ。高度な魔法のスキルを持っているからと言う理由で。高値で売ることができるという理由で……。

 売られるのは良かった。蹴られても,殴られても,呪うような低い声で罵詈雑言を叫ばれても,自分は愛されないとわかってしまったから。

 おれが持っている,死んだお父さんとお母さんから譲り受けた紫の瞳。お母さんは,お父さんじゃない人と紺色の瞳をした男の子を産んだ。結局,おれより先に,紺色の瞳をした男の子に名前は付けられた。

 おれの名前になるはずだった。その子の¨ハント¨―――¨ナミルハント¨という名前は。

 今日は,おれの洗礼日。名前を,お母さんから貰えなかった自分の名前を,もらうんだ。7歳になって100日が過ぎると,名前のない子供は教会に行って,名前を授かる。

 ローネでは,平民以下の身分の者は,ほぼ全ての子供が,そうやって名前を決められていた。 でも,おれは,平民でもないのに,その方法を取らなければならなかった。

「今日がどのような日か知っておるかな? ラース」

 神父の人がおれに話しかける。ラースとは,今のおれの位階のことで,術師見習いのことだ。

「はい,存じ上げております」

「いまから,お前の名前を決めたいと思う」

「お願いします」

神父さんが,小さい炉に香を入れた。

「ラリウシアナーズ・ソンチャールドの御名において……」

長い呪文が,頭の中で渦を巻く。

 香を使って悟りを開くリメリス教は,なにをするにも香と炉が必要だ。だから,いつもは香の匂いなんて何とも思わないのだけれど……。

 今日は別だった。頭の中が,周りの風景と同じ様に霧がかかっているみたいにぼうっとする。香の匂いで,吐きそうになる。

 辺りが,真っ暗になった。


§§§


 気がつくと,おれの体はベッドに横たえられていた。

「気がついたかな?」

「あっ,神父様」

立ち上がろうとすると,眩暈がした。

「わっ……」

「無理をするでない」

「神父様,おれはいったい……?」

「強い魔力を持つ子供の中には名付けの儀式を拒否する者がいるんじゃ。まあ,これだけの拒否反応が出るのなら,スフィア・レンティス―――最高位の魔法使いにでもなれるじゃろう。とにかく,そういう者は自分で名付けの儀式を行わなければならない」

「自分で,名付けの儀式を行う……?」

 訳が分からなかった。いきなりそんなことを言われても……。

 親が付ける名前を,自分が付けられるとは思わなかった。

「指輪を見てみなさい」

 言われたとおりに,生まれたときに授かったというサファイアの指輪を見た。

「どうじゃ」

 澄んだ青色を見つめているとと,心に,一つの名前が浮かんだ。厳密に言うと,頭に,その名前を呼ぶお母さんの声が響いた。

「お前の名前を言って見なさい」

 一呼吸置いて,おれは言った。


「おれは,おれの名前は,アスティ。アーシユーティー・シーフィリー」



お母さん


呼んでください


おれの名前

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