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第9話-ホイップ事件-

「ちょっと、そんなに叫ばないでよ。ホイップクリームなんて、熱湯をかければ溶けるでしょ」

「何!?それだけでいいのか」

「あなたねぇ。そんなの常識でしょ。待ってなさい」


 ジェシーは熱湯を取りに行くようだ。ちゃんと取れることがわかって一安心のイアンと、どこか儚げな表情のソニア。


「取っちゃうんだ」

「取っちゃうよ!ずっとこのままじゃ不便だろ」

「ふふっ。知ってるかい?人というのはね。自由すぎると不幸になるんだよ。適度に不自由な方が幸せなのさ」

「良いこと言ってる風だが、全然そんなことないからな。これのどこが適度な不自由なんだよ」


 ほっぺたと手をホイップクリームにつながれたままの2人は、ジェシーの熱湯で引き剥がされる運命だ。イアンは喜ぶが、ソニアはそうでもない。


「待ったぁ?じゃぁかけるね」

「ちょ、ちょっと待て」


 戻ってきたジェシーが持っていたのは、白い湯気が立ち昇るヤカン。中に入っているのは沸騰している熱湯だと一目瞭然で、今にもほっぺたに注いできそうだ。


「なによ?熱いうちにかけないと」

「だから待て。そんなのかけられたら火傷するだろ」

「しょうがないじゃない。ホイップクリームをそんなところにつける方が悪いのよ」

「なにを言っているんだ、のわっ」


 2人をつなぐホイップクリームは、熱湯によって無惨に溶かされていく。被害はそれだけにとどまらない。


「アッッツ!アチチチチチ」

「あつい。あついよイアンくん。もっと、もっとあつくなろぅ。もっと情熱的に」

「変なこと、アッチ、言うな、アツツツ」

「うわぁ。何この人達」


 ホイップクリームは溶けてなくなり、2人をつなぐものもなくなってしまった。晴れて自由の身になった2人に残ったのは、赤い火傷。


「あつかったね、イアンくん。顔は大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇ。って、それ」

「これかい?良いんだよ。2人の戦いの勲章なのだから」


 イアンのほっぺたにも、ソニアの手にも火傷の痕が残っている。ヤカンを横に置いたジェシーは、白いホイップクリームのようなものを取り出した。


「おい、ジェシー。それってまさか」

「ち、違うわよ。これは火傷に効く薬だから。ほら」


 ジェシーはそれを自分の手に塗ってみせる。こびりつくことなく薬は手に塗られている。


「ご、ごほん。私が考えもなしに熱湯かけたと思ってるの?あげるから使いなさい」

「お、おう。ほらソニアから使えよ」

「え〜やだ〜。消したくない。2人の絆の証なのに〜」

「何を言っているんだ。いいから使えって」


 何故か嫌がるソニアの手をとり、イアンはしっかりと薬を塗る。そして自分のほっぺたにも塗ろうとするが、今度は逆にソニアがしっかりと薬を塗った。薬が全て無くなるまで。


「あ〜あ。なくなっちゃった」

「なんで残念がってるんだ?」


 こうして、殺人的な甘さのケーキに乗っていたホイップクリームで、ほっぺたと手が引っ付き離れなくなってしまった事件は無事に解決したのだった。


「まったくもぉ。世話が焼けるわね」

「ジェシーのケーキのせいだろうが」

「なんでよ。美味しかったでしょ?」


 イアンは信じられなかった。世の中には甘党というものが存在するが、ジェシーのケーキは甘いを大きく凌駕している。


「いつもあんなの食ってるのか。というか残りはどうした?」

「失礼な言い方ねぇ。残りは全部食べたに決まっているじゃない」

「へ、平気なのか?信じられねぇ。俺なんてまだ奥歯にネバネバへばりついてるっていうのに」

「ほう、どれどれ」


 ソニアはイアンの口をこじ開けて、奥歯にネバネバしているものを確認しようとする。ジェシーは両手で顔を隠し、指の隙間からその様子を見ていた。


「ねぇ、イチャつくのは後にしてもらえるかな。イアンとは大事な話があるの」

「イチャついてなどいないですよ、お嬢さん。この子は私のマリオネットなのです」

「ヤッバァ!?あ〜、いいから話をさせて、終わったらイチャつこうがマリオネットだろうがなんでいいから」

「おうええあお」


 良くねえだろ、とイアンは言おうとするが、口を開かされたままで発音できない。ソニアをなんとかふりはらうが、その弾みで甘いものが再来してしまう。


「ヌォ」

「おやおや。まだ甘いものに苦しめられているのかい?」

「えぇ!?苦しいなんて信じられない。って何でそんなに匂いが甘いのよ」

「はぁ?」


 残りにケーキを全て食べたジェシーの方が甘い臭いをまき散らしているはずだとイアンは思っていた。


「ちょっと失礼」


 ソニアはジェシーの首筋に鼻を近づけ、その臭いを確認する。


「あ、あの」

「くんくん。くんくん。ふむふむ。イアンくん、臭うが甘くはないよ」

「はぁ!?嘘だろ。本当にケーキ食べたのか?」

「どういう意味よ!?」


 ソニアの鼻がおかしくなってしまったのではないかと疑うイアン。なのでジェシーを指さし、けしかける。


「ソニア。やぁっておしまい」

「くんか。くんか。ふむふむ」

「ちょ、ちょっと待って下さい」


 しっかりと臭いを確認するソニアを、ジェシーは引き剥がす。だがもう時すでに遅し。ソニアにかかればジェシーの秘密などすべて丸裸だ。


「身長は162cm。体重は57kg。スリーサイズは上から、」

「スト〜ッップ。はっ?なに、どういうこと」

「ちなみに。ここ最近はお風呂に入っていない」

「やめて〜〜〜〜」


 その事実にイアンは引き気味だった。恥ずかしさからか顔を赤くしながら逃げ出すジェシーを、追いかけることもしなかった。


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