第4話-ふ、双子だと?-
翌日。討伐隊員からゴブリンが35匹ピッタリだったという報告が入った。
それは的中率100%の調査隊員となるための第一歩となり、初めは珍しく仕事熱心な調査隊員がいるという噂が広まり、次に優秀な調査隊員だと知られ、最後には的中率100%の調査隊員と有名になった。
狙い通り依頼が殺到するようになり、遠くの街のギルドからも依頼が来るようになった。依頼が多くなるということは、料金を釣り上げることも可能になる。
スローライフのために金貨1000枚貯えるという計画は順調に進められていた。
「さて、今日も一応確認しておくか」
初仕事からちょうど3ヶ月が経過し、討伐の実行直前に報告内容との差がないか確認するのが日課になっていた。12件の調査依頼を的中率100%で達成していた。
「そろそろ辞め時かもなぁ」
確認するだけとはいえ、それなりに時間も体力も使うものである。そのため仕事量を減らさなければならず、効率を考えれば余分な作業ではある。
しかも今回の仕事は44匹のゴブリンの巣穴であり、もはや仕事をするのが珍しくなった小規模のものだ。不安だからではなく、習慣的に確認したくなる程度のものに変わっていた。
特に問題はないだろうと思いながらも、ゴブリンの数を数えていった。
「え?」
合計45匹。報告した数より、1匹だけ多い。
「なんで?」
もう一度、慎重に数えなおしても45匹だった。
「は?」
どうして間違ってしまったのか。イアンは理由を必死に考えた。数が違うという指摘をされた時に、ただミスしましたなどと言うわけにはいかないからだ。
数え間違ってしまったのか。だとしたら正直に言うしかない。
外に出ていたゴブリンを見逃したのか。これも正直に言うしかない。
ゴブリン同士で喧嘩でもしたのだろうか。だとしても死体が見当たらない。
「なんで1匹多いんだ?」
イアンは小さく悪態をつき、意味がないと思いつつも再度ゴブリンを数えなおしていた。 外にいる数、見張りの数、寝ている数、作業中の数、移動中の数、話し中の数。残念ながら何度数えなおしても45匹という結果は変わらない。
的中率100%の調査隊員。そしてその先に待っていたはずのスローライフ。人生計画が音を立てて崩れてしまっていくのをイアンは感じていた。
「ん、あれは?」
数えなおしていく間に、イアンはとあることに気付いていた。それは、2匹のゴブリンがいつも一緒に行動していること。
その2匹は、どちらとも若い個体のようで、背格好が似ており、どことなく同じ顔立ちだった。
「まさか。双子を産んだのか」
調査時に交尾していたゴブリンの数は当然把握している。ゴブリン1組につき1匹のゴブリンが生まれる計算をしており、双子が生まれることは考慮していない。
「それは無理だろ」
双子が生まれるかどうかなど予測できるはずもない。ただ残念ながら、双子が生まれたから報告と数が違いましたなどと言っても、言い訳としか思われないだろう。そもそも交尾しているゴブリンの数を数えているということを知る者はいない。
イアンは迷っていた。
不正は良くない。ゴブリン一匹程度であれば命を奪うのは容易い。そしてゴブリンにバレないように、もっと言えば討伐隊員からすらバレないように運び出すことも可能だ。
だが不正は良くない。可能であったとしても、調査結果に合わせるためにゴブリンの数を削るのは不正でしかない。
「でも双子はなぁ」
たった1匹であったとしても、外してしまうというのは致命的だ。それでは的中率100%ではなくなってしまう。
仮に双子という主張が受け入れられたとしても、そんなに細かい情報は広まらないものだ。的中率99%という結果のみが、切り取られるように広まることは容易に想像ができた。たとえ悪意がなかったとしても、そうなってしまうだろうとイアンは考えていた。
「うーん」
不正は良くない。かといって双子は予測不可能。そして解決の手段を持っている。
「あ~、ん~、ヴ~~~~」
さんざん悩んだ末の、イアンの決断は。
ゴブリンを1匹だけ減らすというもの。
隠密状態で、ゴブリンの命を奪い、巣穴の外へと運ぶ。血の一滴も残さずに遂行していく。運んでいる途中で、仲間がいなくなったことで騒ぎになっていたが、この後すぐに討伐されるのだから気にすることはないだろう。
巣穴の外に出て、死体の隠し場所を求めてさまよい歩く。途中で討伐隊員の横を通ることになってしまった。目の前で変顔をしても気付かれないことを知っていても、ゴブリンの死体を運ぶところがバレないかと肝を冷やしていた。
無事に横を通り過ぎ、山奥を目指す。隠密状態のままゴブリンの死体を運ばなければならないのは重労働であったが、なんとか人がやってこないような場所まで運びきり、捨てた。
その日、44匹のゴブリンが討伐された。
だがそれは、記録上の数字。人知れず山奥に捨てられたゴブリンの死体が1つ。イアンはギルド長から、また的中だったなと褒められるが、乾いた笑いしか出てこなかった。