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第24話-お湯づくり-

「え~?」

「しょうがないだろ。今日中は難しいんだから」

「でも」


 全ての事情を話すということに、ジェシーは同意できないようだった。罰せられる程の不正をしたわけでもなく、双子のゴブリンのせいだと笑って信じてもらえるかもしれない。といっても調査隊員として築き上げた評判が地に落ちてしまう可能性も否定できない。


「ねぇ、ちょっとだけ考えようよ」

「って言ってもなぁ」


 どんなに考えても無理だろうとイアンは考えていた。残念に思うのは同じだったが背に腹は代えられない。


 口論になろうかというとき、イアンとジェシーはほぼ同時に近づいてくる人影に気づく。ギルドの人間が様子を見に来たのかと警戒していると、見えてきたのは見知った顔。


「やぁやぁ。お困りのようだねぇ」


 気楽に語りかけてくるソニア。心のどこかで一安心したイアンは、今の状況をまた初めから説明することになる。


「なるほどなるほど。ただの水ならいくらでも用意できるんだけどねぇ」


 ソニアの発言に目をパチクリするジェシー。魔法使いだということを知らない人からすれば普通の反応。この辺りには小さい川や泉はあるが、そんな大量の水はどこにもないのだから。


「え~っと」

「あぁジェシー、時間がないからツッコミはあとでな。それでソニア、必要なのは熱湯なんだよ」

「じゃぁ温めればいいんじゃない?」


 当たり前すぎる回答に、その温める方法が無いのだと言いだしそうになるイアンだったが、思いとどまって少し考える。


 水を運ぶ手間さえなければ、やらなければいけないことは単純だ。どこかに水を貯めて温めればいい。


 巨人がさんざん暴れまわったおかげで、水を貯められそうな凹みがそこかしこにある。問題は温める方法だ。焼き石を放り込み続ければ、いつかは熱湯にできるだろうが1日では不可能で、太陽光を集積するというのも同じく時間的に難しい。


「ねぇ、とにかく水はなんとかなるってこと?」

「ま、まぁそうだな」

「じゃぁ地面を熱くしておけばいいんじゃない?」

「う~ん」


 地面が熱い場所があることはイアンも知っていた。火山というところで、だがこの辺りにそんな場所はない。


「別に熱湯にしなきゃいけないわけじゃないから。お風呂ってわけでもないし」

「ん?じゃぁなんであのとき熱湯をかけたんだ?」

「それは、その。勢いで」

「おい」


 では何故あの時に火傷してまでホイップクリームをとらなければならなかったのかと疑問ばかり残り、全て終わってから文句を言わなければと思うイアン。と同時に巨人には熱湯と言わず、お湯とだけ伝えて良かったとも考えていた。


「い、いいじゃない終わったことなんだし。それより早く。どっちにしても街を壊されないのが一番でしょ?」

「まぁな」


 押し切られるようにイアンは行動を開始した。手ごろな地面の凹みを探すが、当然のことながら凹みは巨人自身の周辺に一番多くあり、ちょうど良い大きさのものもそこにある。


「目の前かぁ」

「おぉ~なんだかドキドキするねぇ。巨人と話すなんて初めてだよ」


 怖いもの知らずなのか、率先して巨人の待つところに行ってしまうソニア。慌てて追いかけるイアンと、焚き木を集めながらついていくジェシー。


「なんだなんだぁ?」


 戻ってきたイアンを見た巨人は、事態を呑み込めないように座りなおす。ただそれだけで地面は揺れバランスを崩しそうになる。


「どういうこった?」

「えっと、今ここでお湯を作るんで」

「はぁ?」


 地面の凹みと同様に、巨人が暴れまわった影響で倒木はいくらでもあり、わざわざ切り倒すまでもなく転がっている。不審な目を向ける巨人。時間がないので黙々と凹みに木を投げ入れていく。


「何してんだ。お前ら」

「お湯を作るんですよ」

「水は?」

「私、魔法使いなんです。水ならいくらでも出せますよ」

「魔法使いだぁ?」


 それからしばらく木を投げ続け、十分な量を用意できたところで火をつけた。黒い煙をあげながら燃えていく木々。あとは水を入れれば、お湯には出来るはずだ。


「ほぅ。そういやぁ魔法を使える人間が増えてるって噂は聞いたな。こんなところにいるとはな」


 ソニアが凹みに水を入れていく。満水、とまではいかなかったが燃える木がなくなるころにはそれなりの量のお湯にできた。


「出来ましたよ」

「汚ねぇなぁ」


 地面の凹みで木を燃やしたところに入れた水は、泥と灰にまみれて濁り切っていた。触れれば温かく、お湯であることには違いないのだが、使いたいと思えるような色ではない。


「そ、そう言われても。早くしないと冷めますよ?」

「ちっ、しかたねぇなぁ」


 巨人はゆっくりと立ち上がると、ホイップクリームにまみれた片足をくぼみに入れる。燃え残った木が踏みしめられ、お湯がさらに黒くなっていく中、白いものも浮かび上がっていく。


「本当だったんか」


 半信半疑だったのか、自由になった片足をしばらく見つめる巨人。同じように何度もお湯を作り、日が暮れる前には何とか全てのホイップクリームを溶かすことが出来た。


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