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第18話-被害拡大-

 イアンとジェシーは、なんとか逃げ出すことができた。

 巨人は街の近くに居着いてしまい、時折大地を揺らし、時折叫び声が響き渡り、時折何かが投げ飛ばされるのが確認されていた。


 幸い、まだ死者は出ていないが、体調が悪くなったり怪我をしたりする人は多く、その不満のほぼ全てがギルドに殺到していた。


 なんとかしなくてはいけない。だがどうすればいいのかわからない。

 思い悩むイアンはギルド長に呼ばれた。お菓子の家のことがバレたわけではなく、悪い理由で呼ばれたわけでもない。


 ただ単に依頼で呼ばれたのだった。


 問題は依頼内容で、巨人を訪れて欲しいというものだった。ギルド長にそんなつもりは無いのだろうとイアンはわかっていたが、早く解決しなければならないと言われた気がしていた。


「え〜っと、ギルド長?もう一回聞いていいか?」

「まぁそう邪険にすんじゃねぇ。ちょっくら巨人に交渉しに行って欲しいってだけだ」

「だけだ、って、ならギルド長も一緒に?」

「無茶言うんじゃねぇ。あんなんから逃げ切れるわけねぇだろ」


 それは俺も同じだ、と普段なら言い返していただろうとイアンは感じた。逃げ切れたといっても、本当に命からがらだった。一歩間違えれば木っ端微塵になっていたことは言うまでもない。


 とはいえ、お菓子の家に惹かれて巨人が来たということは、イアンにとって気がかりなことではある。


「そこをなんとか、な?」

「はぁ、それでどうすればいいんだ?」

「帰ってくれぇ、って交渉してくれや」

「雑だな」


 もっと巨人についての情報を知っていることをイアンは期待していたが、見事に裏切られることになってしまった。

 その時、地面が大きく揺れ、置いてあったコップが落ちて割れてしまう。


「きゃっ」

「うわっ。またか」

「なぁ頼む、この通りだ。毎日こんなんでギルドに苦情殺到でよ」


 軽く悲鳴を上げるジェシーと、少し驚くイアン。そんな中ギルド長だけは全く動じずに、全力でお願いのポーズをとる。


「巨人は魔物じゃねぇから討伐できねぇし、それ以前にまともな戦いになるとは思えねぇし、あいつら戦うことしか能がねぇし、とにかくこんなこと頼めるのお前らしかいねぇんだよ」


 ギルド長の悲痛な訴えを、イアンは理解できないわけではない。魔物を討伐することだけを考えてきた人達にとって、巨人との交渉は畑違いだ。


「ねぇイアン。なんとかしようよ」


 ずっと大人しく話を聞いていたジェシーが口を開く。

 なんとかしたいという気持ちはイアンも同じであった。原因を作ってしまった一人として、責任感を感じていた。


 だが、どんなに責任を感じたとしても出来ないことはある。なんの情報もなしに巨人と対峙するのは無謀でしかない。


「考えさせて下さい」


 引き止めるジェシーとギルド長を振り払い、イアンは部屋から街に出た。街の光景は悲惨なもので、幾度となく地響きや叫びによって半壊した家がほとんどだ。


 イアンはフラフラと街を歩く。


 ただ的中率100%を守りたい。イアンにとって、それだけのことであった。お菓子の家の約束が、巨人を呼び寄せるなど、想像だにしていなかった。

 閑散とした街中を歩いていると、見知った顔が正面から歩いてきた。


「やぁイアン君。どうしたんだい?深刻な顔をして」


 普段と全く変わらない様子のソニアに、イアンは安心感すら覚えていた。ごく自然な流れとして、2人でコーヒー豆店まで移動する。


「うわぁ。ぐっちゃぐちゃ」


 巨人の地響きのせいで保存容器が割れてしまっており、コーヒー豆は床に散らばってしまっている。ソニアは何食わぬ顔だが、店の商品のほとんどがダメになってしまっている。


「ごめん」

「えぇ?巨人のせいなのに、イアンが謝ることないじゃない」

「いや、それは」


 イアンは全てを告白した。お菓子の家に巨人が惹かれて来てしまったということ。そして、その殺人的な甘さに巨人が苦しんでいたこと。おそらく巨人はそのことに怒っているであろうこと。


「ふ~ん。それで責任を感じちゃってるんだね。相変わらず真面目だなぁ」

「そもそも。俺が余計なことをしなければこんなことには」

「余計なことって?」


 店を片付ける手をソニアは止めていた。食い気味に質問してくることを、イアンはとても意外に思っていた。


「いや、えっと、お菓子の家を作ったこと」

「それは悪いことなの?」

「んん?まぁ、悪いことじゃないだろうけど」

「なら良いんじゃない?」


 あまりにもハッキリと断言され、イアンは戸惑ってしまった。お菓子の家自体は特に問題ないかもしれない。だが、どんなに言い訳しても自己保身のためにしたことに変わりはない。


「ねぇ、イアン」

「お、おう」

「どうしたいの?巨人を倒したいの?」

「まぁ、出来ることなら」


 街は半壊してしまっている。その原因を作り出してしまったのは、他ならぬイアン自身なのだから、自らの手でケジメをつけたいと考えていた。


「ふ~ん。ねぇ、なんでも言うこと聞いてくれる時に、お願いしたこと覚えてる?」

「えっ?まぁ覚えてるけど。なんで?」

「思い出してみて」


 言われるがままにイアンはその時のことを思い出した。

 初めてゴブリンを1匹減らした時。双子ゴブリンに対応した時。ソニアに全てを打ち明けた時。なんでも言うことを聞くと約束させられた。


 一体どんな要求をされるのかと思い。

 実際に要求されたことは、イアンにとってとても意外なものだった。


 ソニアは、イアンがどうして調査隊員を目指すようになったのか、その理由を要求した。


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