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第16話-お菓子の家造り-

「ふ〜ん。ゴブリンと取引ねぇ」


「なんだよ、ソニア。言いたいことがあるなら言えよ」

 トラブルがいくつも起きてしまったが、最終的には調査結果と全く同じ数のゴブリンが討伐された的中率100%を維持することには成功しており、その意味では大成功と言える。


 お祝いのためにコーヒー豆を買いに来たのだが、イアンが素直に喜べないでいることを察しているようだった。豆を出し渋りながら、両手にアゴを乗せてイジワルな笑みを浮かべている。


「お菓子の家だなんて、本当に子供みたいなゴブリンよねぇ」

「しょせん魔物だろ?」

「またまた~。気になってるんでしょ?じゃないと落ち込んだりしないもんねぇ」


 イアンの頭を優しく撫でるソニア。仲睦まじい光景が広がっており、周囲の人間は遠巻きに見守っている。


「別に、落ち込んでなんか」

「悪いことしたな、って顔だけど」

「そりゃ、少しはな」


 ゴブリン相手であるので、守る気のない約束をしたとしても、尾行して仲間を連れ去ったりしても、討伐隊員の前に突き出したりしても、何ら問題はない。

 疑問にすら思わない人が大半だろう。魔物というのはゴブリンだけではない。ゴブリンに騙されてひどい目に合うということは滅多にないが、他の種類の魔物ではよくあることだ。


 そういう意味ではそもそも耳を貸す必要が無いものであり、逆にまともに取り合わない方が良いものである。


「ゴルジは、悪い奴に見えなかったんだよな」

「魔物なのに?」

「あ、あぁ」


 気にしない方が良いと頭ではわかっていても、気になってしまうことは止められない。


「この辺りは強い魔物がいないもんね」

「そりゃ。ほとんどゴブリンだけどよ」

「う~ん。というより上位種がいないから」


 魔物にも階級というものがあり、ゴブリンやデュラハン、ワイバーンは下位種に相当する。なので討伐が失敗することはほとんどないが、上位種ともなると死者がたくさん出るのが当たり前だ。


 なので名を挙げたいと志す人は、もっと遠くの栄えている街に引っ越すことが多いのだが、イアンはわざわざ危険な橋を渡る気がない。

 下位種のゴブリンと言っても、決して無視できない被害が出てしまう。


「なぁ、ずっと聞きたかったんだけど」

「えぇ!なになに?」

「興奮し過ぎだろ。ぃゃソニアって、やけに魔物にも詳しいけど、なんでなんだ?」


 ソニアは時折、まるで見てきたかのように魔物のことを話したりする。普通に生活するだけでは経験しないようなことまで知っており、イアンはその理由をずっと気にしていた。


「そりゃ。イアンっていう特級の魔物と過ごしてるわけだからね」

「なるほどなるほど。つまりまともに答える気はないってことだな」

「ふふ〜ん。秘密が多い方が魅力的でしょ?」

「そういう問題なのか?」


 ソニアのことを、イアンはあまり知らない。どこか遠くの国から引っ越してきたということと、コーヒー豆店の店員であること、そして調査隊員になりたいという夢を聞いても顔色一つ変えなかったということ。


「それよりさ。これからどうするの?」

「って言われてもなぁ」

「お菓子の家を作るって約束しちゃったんだよね」


 イアンにとって耳が痛いことだった。約束は約束で、いくら魔物との間のものであったとしても、無視はしたくないというのが本音であった。


「ジェシーは作る気満々なんだよね?」

「そうだが?」

「手伝ってあげれば?」

「えぇ〜」


 お菓子の家などという代物を、イアン自身は作ることは出来ない。それどころか、お菓子の一つも作ったことはなく、料理もできない。できることと言えばコーヒーを淹れることくらいで、もし本当に約束を守るのであれば便乗するしかない。


 ただ問題なのは、ジェシーの作るお菓子の家が、殺人的な甘さではないかということ。


「あのホイップクリームのことを忘れたのか?」

「イアンが悶絶していたこと?」

「それは忘れろ」

「あはは。あれはすごかったね。でもさでもさ、他にアテもないわけだし。それにゴブリンの味覚なら美味しいっていうかもよ?ぷっ」


 自分でも妙なことを言っている自覚があるのか、ソニアは途中で我慢しきれずに吹き出してしまっていた。くっついたら取れなくなってしまうホイップクリームというのは、もはや味覚以前の問題なのだが、そのことについては目を瞑っているようだ。


「笑ってるじゃねぇか」

「ぷっ、くくく。だって、お菓子の家にくっついて離れないイアンがいるから」

「怖いこと言うな!」


 どうやら建設途中の事故を思い浮かべているらしい。イアンも大量のホイップクリームで固定されてしまうことを想像してしまい、冷や汗をかいていた。


「まぁでも、手伝った方がいいんだろうな」

「お菓子の家と合体するの?」

「んなわけねぇだろ。ゴブリンに渡さなきゃいけないんだから、色々と段取りが必要だろ?家を建てるのはジェシーに任せて、他のことは俺がやるんだよ」

「お〜。面倒見が良いんだねぇ」


 すべきことが決まれば、イアンの行動は早い。


 ジェシーを訪ねると、お菓子の家造りの準備で困っているようだった。建築場所の選定や、建築資材(大量の砂糖や卵や、その他モロモロ)の工面、ゴルジへの連絡手段や、引き渡し方法まで。


 全てやるから、家造りに専念してくれとイアンが伝えると、ジェシーの顔は途端に明るくなった。


 そのまま順調にことは進み、いよいよ引き渡しの日が訪れた。


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