第12話-ゴブリン1匹増やす同盟-
「よっ、何してるんだ」
「ウギャ。あ、あわわわわわ」
「落ち着けって、俺だよ俺」
バレてしまったと焦ったのか、ジェシーはアタフタしている。他の人、つまり討伐隊員に見つかったりしないかとイアンは警戒するが、まだ気付かれるような距離にはいない。
「イ、イアン?」
「おう」
「えっと、あの、これはね。その」
ゴブリンの死体を隠そうとしているが隠せていない。後ずさっているが、逃げられるわけがない。
「だから落ち着けって。まぁ、なんでなのか理由を聞こうか」
「聞いてくれるの!?し、しょうがなかったの。双子が生まれたみたいだったの。だから1匹多くなっちゃってて」
「そ、そうかそうか。ちょっと待ってろ」
もしジェシーが単に不正を働いていただけだったら、ギルドに突き出して終わりであった。それが一番簡単であり、イアンは心のどこかで望んでしまっていたが、現実はそうはならない。
であれば、減らしてしまったゴブリンを増やすしかない。方法はともかく、そうするしかないとイアンは決心した。
「ほれ」
「へっ?」
「ん〜、まぁ。俺も同じことした」
ジェシーは時が止まったようになってしまい、まばたきすらしていない。今現在、ゴブリンが1匹少なくなってしまっているということを受け入れているのだろうとイアンは思っていた。
「はぁ〜〜?なんてことしてくれたのよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「ど、どうすんのよ。減らすのは簡単だけど、増やすのなんて無理よ!」
「静かにしろ。見つかったらどうする」
討伐隊員はまだ遠くにいるが、ゴブリンに襲われないかと周囲を警戒もしている。今までバレたことがないからと油断しすぎると、すぐに見つかってしまう。
ゴブリンの死体を転がしておくことで誤魔化せないかとイアンは考えていたが、それは無理であった、何故なら、死体に残っているのは鋭利なナイフの刺傷であり、明らかに人間の手によるものであったからだ。
「う〜。こんなことになるなんて」
「まぁ、起こっちまったもんはしょうがねぇ。なんとか1匹増やすしかねぇ」
「そ、そうね」
「ここは協力しようじゃないか」
「きゃ、協力!!」
目を輝かせるジェシー。最大規模の巣穴の調査、ではなくともイアンと協力関係になれることを喜んでいるようだった。
「なんだよ?」
「じゃぁ私が討伐隊員になれるまで協力してくれるってことで」
「いや、なんでそうなる?ゴブリンを1匹増やすまでだよ」
「ぶ〜」
どさくさに紛れて最大規模の巣穴の調査まで協力させようとしているようだった。イアンにとって、首を縦に振るわけもないことだ。
「まっ、ゴブリンを1匹増やす同盟ってことで」
「まんまじゃん」
「うっせぇ」
こうして、双子に対処しようとして、誤って1匹多く減らしてしまったゴブリンを、1匹増やすための戦いが幕を開けた。
「さて、んでどうするかだが」
「はいは〜い。私に考えがあります」
「おっ、そうなのか?」
妙案がありそうで感心するイアンを前にして、自信満々のジェシーは2匹のゴブリンの死体を指差す。
「オスと、メスよ」
「う、うん。それで?」
偶然ではあるが、2匹はちょうどオスとメスだ。そのことにイアンは気づいていなかったが、教えられても何が言いたいのかピンと来ていない。
「子供を産ませればいいのよ」
イアンは頭が痛くなっていた。そして協力する相手を変えられないものかと真剣に考えてもいる。
「あのなぁ」
「なによ!?」
「死体同士で子供は産まれないんだよ」
「なんでよ!?」
イアンはますます頭が痛くなっていた。甘すぎるケーキばかり食べていると、こんな頭に育ってしまうのかと感じていた。
「なんでって言われてもな。とにかく無理なものは無理だ。そもそも、どうしたら子供が産まれるのか知ってるのか?」
「バ、バカにしないでよ。それくらい知ってるわよ」
「ほ〜ん。じゃぁ知ってることを教えてもらおうか」
「オスとメスがあんなことやこんなことをしたら、キャベツ畑がコウノトリを運んできて赤ちゃんになるんでしょ?って何言わせてるのよ!!」
「お前は何を言っているんだ?」
何をどう教わればそうなってしまうのか教えて欲しいと、イアンは思っていた。
支離滅裂すぎて、意味がわからず。突然キレられて、意味がわからず。そもそもコウノトリが赤ちゃんになると聞いて疑問に思わなかったことの意味がわからず。
「そもそも死体じゃ、あんなことこんなこと出来ねぇだろ」
「本当だ。え~っと、あっ、わかった」
「そ、そうか?一応聞くけど、なにがわかったんだ?」
「イアンが、ゴブリンとあんなことこんなことすればいいのよ」
つい叫びそうになってしまい、なんとか押しとどめる。討伐隊員が近くにいないことをよく確認した後、一度押しとどめた叫びを放つ。
「んなこと、できるか~~!!」