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第1話-的中率100%-

「よし、やるか」


 気合を入れるイアン。今日は調査隊員としての初仕事だ。

 この世界では日々、人間と魔物の戦いが繰り広げられている。実際に戦うのはギルドに所属する討伐隊員。調査隊員はあくまで魔物の数や種類などを調べ報告するだけだ。


 討伐隊員は花形である。ボロボロになりながらも魔物に挑む姿に誰もが賞賛を贈り、不幸があれば街の皆に悲しまれ、多くの若者があこがれる職業。

 調査隊員は裏方である。調査はするが魔物と戦いはせず、不幸があっても身内が悲しむだけ、討伐隊員を引退したおっさんが引き受けることの多い職業。


 討伐隊員は勇敢な人、調査隊員は臆病な人。それが世間の認識だ。討伐隊員として実績を持っているならともかく、調査隊員は魔物との戦いから逃げ出した人と思われがちだった。


 存在意義を疑う人も多い。調査、という仕事自体は必要不可欠であるが、調査隊員という職業にする必要は無いという意見だ。討伐隊員が調査をすれば良いだけと主張されている。


 そんな、どちらかというと陰口を叩かれてしまうような職業。

 だがイアンはあえて調査隊員としての道を選んだ。

 なぜなら。


「早くお金を貯めて、悠々自適なスローライフを送るぞ。お〜」


 17歳になったイアンは拳を大きく振り上げる。

 たとえ臆病と言われたとしても、魔物と戦いたくない。危険なのは嫌だ。死んでしまっては意味がない。


 若い間に荒稼ぎして、余生を全力で楽しみたい。どこか手頃な田舎で畑を耕しながら、たまに贅沢なことをするのが理想だ。

 それには金がいる。


「やるぞ。大丈夫だ。何回も練習してきたんだ。いける。いける。いける」


 何度も自分に言い聞かせるイアン。

 初仕事であることは間違いないが、調査することは初めてではない。調査隊員としてデビューする前に、何度も何度も練習を重ね、入念に準備していたのだ。

 なぜなら。


「的中率100%の調査隊員だ。そうだ。よし」


 調査結果というものは、大ざっぱなのが一般的だ。ゴブリン約100匹だとか、ガーゴイル約50匹だとか、酷い場合はワイバーンの群れだとか。

 テキトーだと思われており、調査隊員という職業に対する風当たりが強い原因にもなっている。


 だがもし、1匹単位で魔物の数を的中させる調査隊員がいたならば。その価値はとても高い。

 例えばゴブリンを討伐する場合、1匹も逃したくないというのがギルドの本音だ。逃した1匹が繁殖し、また人々を襲うようになってしまうからだ。


 的中率100%の調査隊員になれたのであれば、その価値を認めてもらえたならば、高い報酬を期待できる。そしてその先に待っているのは、大量の貯金を蓄えて始めるスローライフ。


 これがイアンが調査隊員になることを決めた理由だ。

 初仕事として与えられたのは、ゴブリンの巣穴の調査。定期的に巣が発生する場所であり、毎回同規模のものになる。

 つまるところ、以前と変わっていることはないか見てくるだけという、すこぶる新人向けの仕事である。


「さて」


 いつも通りならば、30匹程度が巣食っているはずだ。大ざっぱに、約30匹がいて他に異常はなかった、と報告すれば問題なく、ギルドの人もそんな結果を期待している。

 いや、特に期待せずに、テキトーな報告をするだろうと思い込んでいる。


 イアンは巣穴への侵入を始める。出入り口に見張りが2匹。この日のために磨き上げてきた隠密スキルで、気づかれることはない。

 しらみつぶしにゴブリンを数える。などという非効率的でかつ数え間違いを起こしそうなことはしない。


 最初に巣穴の構造を全て把握する。ゴブリンが頻繁に行き来する場所、ゴブリンが眠っていて動かない場所、ゴブリンが時々使っている場所、そしてゴブリンが交尾をしている場所。


 見張りが2匹。

 寝ているのが14匹。

 作業中が3匹

 移動しているのが1匹。

 話しているだけなのが3匹。

 交尾をしているのが4組。つまり8匹。

 合計31匹。


「交尾、多すぎじゃね?まぁいいけど」


 決して見たくて見ているわけではない。的中率100%を目指すのであれば、とても重要なことだ。


 特にゴブリンの調査において重要なことであり、成長スピードが段違いに早いことが理由だ。討伐作戦は、特に異常が無ければ明日の予定になっていた。そして今日交尾しているということは、討伐隊員が到着する頃には立派なゴブリンに成長しているということだ。


 たった1日で大人のゴブリンに成長してしまう。イアンはそこまで計算した上で、確実な数字を報告するつもりだ。的中率100%にするために。

 調査を終えたイアンは、最後まで油断せず、2匹の見張りに気づかれないように巣穴から脱出し、巣穴の外に出ているゴブリンが潜んでいないかと入念に確認した。


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