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オアシスのある日

作者: rhythm

「働くこと、生きること、そして歩くこと。」


どんなに遠くの場所へ向かっても、私たちは歩き続けなければならない。

それが仕事でも、生活でも、ただ進むだけでは行き先を見失ってしまうから。

時には疲れ、立ち止まることも必要だ。

ただ歩くことに意味があるわけではなく、歩く先に何かが見つかるかもしれないという希望があるから。

そして、休息があるからこそ、また歩き出せるのだ

―働くこと、生きること、そして歩くこと―


私はラクダ。

サハラの砂を踏みしめ、人を乗せて今日も歩く。


「ラクダは楽だ」なんて、人間は軽々しく言うけれど、

歩き続ける私にとって、本当に楽な日は――オアシスのある日だけだ。

水があって、木陰があって、

“歩かなくていい日”。それだけで、命がふっと軽くなる。


あの人間も、そんな日を求めていたのだろう。


佳代子、46歳。

東京のオフィスビルで、25年間勤め上げた女性。

経理部の課長代理。誰よりも真面目で、遅刻もしない。

でもある日、ふと“働く意味”がわからなくなった。


通勤電車で見た一匹の鳥。

駅のホームで聞こえた赤ん坊の泣き声。

壊れたエスカレーターを登る足取りの重さ。


「……あたし、いつまで、これを続けるの?」


そうして彼女は、会社に辞表を出した。

退職金と、コツコツ貯めた貯金。

「これで世界を見てくる」と、周囲に笑って言った。

けれどその笑顔の奥には、もっと深い“何か”があった。


そして今――彼女は私の背中に乗っている。

異国の砂漠の風を顔に受けて、目を細めながら。

たぶんまだ、行き先なんて決まっていない。


けれど、それでいいのだ。

人もラクダも、進まなければ生きられない。

けれど、ただ進むだけでは、砂に埋もれてしまう。


だからこそ、オアシスが必要なのだ。


「あのね」

彼女がぽつりと、呟いた。

「今が、一番、自分の足で歩いてるって感じがする」


私は何も答えない。

ただ、彼女を乗せて歩き続ける。

乾いた風が吹き抜ける。

太陽は高く、遠くに緑の気配――

それがオアシスかどうかは、行ってみなければわからない。


でも、彼女の手が私の背にそっと置かれたとき、

私は少しだけ、歩みを軽くした。


今日は、少しだけ、楽だ。


この物語は、どんなに歩き続けても、時には立ち止まってみることが必要だと伝えたかったのです。

ラクダはただ歩くことを繰り返しますが、その歩みの中で、見失いかけたものに気づく瞬間がある。

それは、休息やオアシスのような一時的なものかもしれませんが、心をリセットする大切な時間でもあります。


佳代子の旅は、どこに行き着くのか、まだ誰にもわかりません。

でも、私たちが日々歩み続けるその先に、必ずしも目に見える答えがあるわけではないことを、物語を通じて感じていただけたら嬉しいです。

旅の途中、時には立ち止まり、心を整えること。それが、前に進むために必要なことだと思います。

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