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カーテンコールは君とともに  作者: はっぴーたーん
1/1

青い春

初投稿なので字が間違ってたり色々あると思います。

温かい目で読んでください。

カーテンコールは君とともに



あの日、君は僕に向かってこういったんだ。

「綺麗な夕日って見ると死にたくなるよね。」

記憶の中で彼女は長い黒髪を風にたなびかせながら心底楽しそうに僕の方を振り向く。

紫陽花の花が水溜りに浮かんでいて、それがオレンジに染まった記憶のなかで鮮明に記憶に残っていた。

あの時、僕達は寂れた駅のプラットフォームに立っていたんだ。

アスファルトのひび割れから吹き出した雑草と水滴が夕日を反射していてスポットライトのように僕達を照らす。

二人だけの空間だった。

この瞬間、世界から切り取られたかのような空間で僕達は生きていた。

もしこの世界が君を忘れたとしても僕は忘れない。

なんて、陳腐な言葉しか僕は彼女に言えなかった。

異様なほどの夕日の赤い光が僕達を逃れられない舞台へ引き上げる。

「ありがとう。」

警告音が鳴り響く中、彼女は真っ赤な光を一面に受けながらそう笑った。

儚くも美しいそれに時間がとまったかのような錯覚になる。

だか、それは直後に鳴り響く轟音ですぐにかき消された。

6月のことだった。





ピピピピピピピピ、、、

機械音が朝の静寂を切り裂いて鳴り響く。

頭を支配する眠気を振り払い、未だ鳴り響く頭上に手を伸ばした。

カチッと音がして機械音が止まるのが鼓膜へ届く。

まだ寝たりないとふらつく体を叱咤して起き上がり洗面台へ僕は向かった。

髪を縛り、冷たい水で顔をすすぐ。

これがいつものルーティンだ。

冷たい水のなかに顔を埋めればそれだけでふわふわとした意識は地につく。

タオルで軽く拭き、鏡を見るとそこにはいつもの自分が居た。

少し暗めの髪に黄色とも取れる茶色の目。

母譲りのその顔は昔、父が自慢していた。

その母はもういないが。

暗い気分を振り払うようにリビングに行き、テレビをつける。

テレビでは丁度、芸能人のスキャンダルについて執拗に報道していた。

アナウンサーが興奮した状態で今回の異常性について伝えているのを聞きながら食パンをオーブンにかけて寝室を片付けに戻る。

掛け布団を窓際に干して、寝室を片付けると丁度パンの焼けた音が聞こえた。

リビングに戻りテレビの音をBGMにフライパンを取り出し、バターを引く。

卵とベーコンを取り出してフライパンの上にのせる。

元々引いていたバターとベーコンがフライパンと卵の間に入り、卵焼きが焦げるのを防ぐ。

それを教えてくれたのは誰だったか。

肉とタンパク質が焼ける音を耳に挟みながら、再度冷蔵庫を開き皿の上にヨーグルトを入れた。

ヨーグルトの上にカットしたフルーツをのせる。

小さくスライスされた果実は宝石と言っても過言ではないと思うほど綺麗な造形美をしていた。

朝の果物は王様の食事とはよく言ったものだ。

暫く、果物に見惚れていると、卵はもう固まっていて慌てて火を止めた。

IHを使っているから燃えることはないが、かといって焦げないわけではない。

急いでパンをオーブンから取り出し、上にのせ隣にはヨーグルトをおく。

レンジで生ぬるくした紅茶をおけば完璧な朝食の出来上がりだった。

ベーコンが焦げてしまったのが少し残念だがそれ以外はうまくできているので妥協点ではある。

食パンをかじりながらテレビを見るといつの間にか天気予報についてやっていた。

今年は梅雨がかなり早く終わっていて、7月なのにずっと猛暑続きだった。

今日も、最高気温が三十度超えらしい。

アナウンサーが熱中症対策を解説している。

僕はそれを見ていると、あの日のことが記憶に蘇った。

結局、彼女は死んでしまって、僕は死に損なった。

あの後すぐに、騒ぎを嗅ぎつけた警備員と救急車が駆けつけた。

でも彼女は即死だった。

助からなかった。

当たり前だ、特急列車が突っ込んだのだから。

そして、今朝のスキャンダルのように連日この事件の報道がされた。

普通なら、ただの人身事故として新聞の端っこに乗ったはずだったが、今では珍しい飛び込み自殺だったこと。

現場には、生き残りがいたこと。

そして、事件の中心人物は男女だったこと。

そんな理由から僕達の人生は消耗品へと成り下がった。

なぜ、自殺に至ったのか。

自殺ではなく他殺の可能性は。

なぜ片方だけ生き残っているのか。

もしかしたら精神を病んでいたかもしれない。

なら、誰が?いじめ?それとも無理心中?

そんな、憶測がネット上ですぐ飛び交った。

でも、どれも僕達の関係を明確にあらわしたものはいなかった。

僕達は、心中をしたわけじゃない。

そして、別に世の中に絶望したのではない。

むしろ彼女はあの日が人生で一番楽しかったのではないだろうか。

そう思ってしまうのは青春を謳歌していた僕達にとって、決して短くなかった一年を一緒に過ごしたからだったかもしれない。

彼女は常に世の中のすべてに興味を持っていた。

だから、生まれたての子供が外の世界を見てみたいと思うのと同じ様に、彼女も死んでみたかったのではないか。

普通の人だったらそんなこと人生に一回も考えないだろう。

でも、彼女ならそう思っても何も不思議ではないのだ。

でも生憎、僕はそんなことは思わなかった。

あの日、彼女は僕を連れ出して一緒に死なない?と遊びに誘うように言ったのだ。

でも、僕は死ねなかった。

いや、死にたくなかったのだ。

よくあるドラマならきっとここで一緒に死んでいただろう。

きっと、それなら僕達は綺麗な悲劇としてみんなから餞を貰っていただろう。

でも、できなかった。

結局僕は、そんなできた人間じゃなかった。

自殺ができるほどこの世界に絶望もしていなかったし精神が強くなかった。

でも、別に彼女を止めようとは思わなかった。

彼女とは、ただのクラスメートというには少し仲が良すぎたのかもしれない。

でも、それが止める理由にはならない。

僕がそれを言うと、彼女はいつもどうりのからっとした笑顔で「そうだと思った。」と笑ったのだ。

そして、手紙を渡してきた。

彼女はそれを僕に託して、私が死んでから見てねと言い残した。

約束通り僕は彼女が花と涙で囲まれてからそれを開いた。

手紙の封筒には彼女の角張った、女子っぽくない字でこう書かれていたのだ。


開けたってことは私が死んだってことだよね。

じゃ、その中に、君への命令を書いておきます。

それを実行するまでは君は死んじゃだめだよ。身勝手だろうけどお願いね。と。


手紙の中には一枚の写真とメモ書きが残されていた。

メモ書きには3つお願いが書かれていて

1つ目は猫を飼ってみたい。

2つ目は雨の日に外でびしゃびしゃになってみたい。

と書かれていた。

3つ目は遊園地に行ってみたい。

4つ目は線路を歩きたい。

5つ目は真夏に神社でひんやりしたい。

そして、6つ目はなにも書かれていなかった。

6つ目は何度も消したり書いたりした痕があったが結局なにも書かれていなかった。

そして、写真には一匹の猫と鍵が写っていた。

周りはどこかの路地裏のようなところでの写真だった。

正直、なんだそれと思った。

これは、俗に言う死ぬ前にやりたいことリストに似ている。

でも、もう彼女はいない。

多分これは僕にやれということなのだろう。

やろうと思えば直ぐにできた。

でも、できずに結局そのままだった。

そうやって僕が尻込みしているうちに季節は回って、気がつけば彼女が死んでから数年立ってしまった。

今日という日はそれをやろう、と。

テーブルの下にある引き出しを開ける。

そこには綺麗なままの手紙と紙が入っていた。


今日僕は彼女を殺す。

彼女が残していてくれたその遺産を、手紙を。

これはそんな僕と幽霊の青い春を巡る物語だ。






読んでくださりありがとうございました。

続く予定はあまりないのですが反応が良ければ続くかも知れません。


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