表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

後編2

以前エリザベスは第1皇子の魔の手に落ちた。

だからこそ、不安だった。それのための守護魔法。保護ではなく。完全に守れるように。

今頃気持ちよく寝ているだろう。



ティアとアレクサンダーは使用人に聞いて回った。

今回の婚約パーティーで振る舞われていたのはシャンペンとフルーツカクテル、水のみ。


ジントニックのようなアルコール度が高いものはおいていなかったはず。


使用人たちは知らない、あり得ない、と言っていた。


そこでアレクサンダーは見たことのない使用人がいなかったか、と聞いた。


すると、一人の使用人が手を挙げた。


「厨房のリーパと申します。厨房に見かけない侍女の方がきました。その方が、お酒の蔵はどこだと聞かれたので・・・おこたえしました。」


顔は覚えていない、とのことだったため、アレクサンダーが彼に魔法がかかっていないかをみた。


彼の一族にだけ伝わる能力。


幻覚魔法などはかけられていない。

事実のようだ。



ティアとアレクサンダーは蔵にきた。

中は薄暗く、少し湿度が高そうだった。

荒らされた形跡などはない。


アルコール度数の順番におかれているようだ。


ジントニックは大体真ん中あたり。

アレクサンダーは顎に手を当てて考え込む。


「何か気になることでも?」


「うん。薬品て何の薬品?」


「パルキツァという睡眠導入剤です。」


「それ以外で何かある?」


「いいえ。魔力を感じたのと独特の臭いと苦みでしたので、パルキツァで間違いないと思います。」


「そうか。・・・ジントニックはこの順番で見ると、アルコール度数は中間あたり。相手を眠らせたいなら飲み物に睡眠薬を入れればいい。酩酊状態にしたいならあっちの度数の高いものにすればよかったはず。だけど、どうしてジントニックを?」



なるほど。確かに。

なぜジントニックを持っていったのか。


わざわざ“ジントニック”を選んだとしたら?


ティアは持っていた手鏡を開く。すでに術式がかかれていた。

魔力を送り込むと映像出てくる。


『おお!どうしたのじゃ?暇なのかえ?それとも何か事件かの?』

ティエルノがまた、白い髭を触りながら楽しそうに話している。


「事件です。ティエルノ様。ロビン様は・・・」


『事件なのか!ではわしが聞いてやる。どうした?怪我か?死んだか?それとも・・・』


「薬草です」


『・・・わかったの・・・ロビンを呼んでくる・・・皆、わしに冷たいのお・・・』



ティアは少しイラつきながら、矢継ぎ早に答えた。

アレクサンダーは鏡を食い入るように見ていた。


「これは、古の国で?」


「いえ。私が開発した術式です。」

ティアの言葉にアレクサンダーは少し驚いたようだ。


「すごいね。さすが天才・・・」


アレクサンダーのつぶやきに少し動悸がしたが気にせず鏡を見る。


ティエルノがいなくなり、少しして白髪を短髪にした、無精ひげを蓄えた男性が出てきた。

『・・・ルクレティアナか。どうした?』


「薬草の効果について聞きたいのです。」


『なんだ?』


「パルキツァは薬効は睡眠導入ですが、何かと一緒に使うとどうなるとかありますか?」


『パルキツァか・・・。組み合わせはいろいろあるが、どれだ?』


「ジントニックです」


『ジントニックなら酩酊状態。量が多いとかなり強い媚薬になる。』


ティアは鏡をドレスのポケットにしまい、アレクサンダーとともに走り出した。





エリザベスがいるであろう控室に向かう。中から争う声が聞こえる。

扉を開けると、エリザベスが顔を真っ赤にしながら「熱い!いや!なにこれ!」と言ってドレスを脱ごうとしていた。


それを必死で侍女たちが止め、シリウスは所在なく立っていた。


ティアはエリザベスに近づき、両手を握る。

魔力を指輪に込めるが、すでにパルキツァの効力が強くなりすぎているのか弾き飛ばされる。


仕方なくティアは床に魔紋を書いた。

そこに手を当て魔力を流し込む。

光の柱ができ、そこにエリザベスを横たえる。


光がエリザベスを包み込み、赤黒い靄のようなものがエリザベスから少しずつ浮き上がっていた。ティアはエリザベスの嵌めていた指輪にその靄を吸い込ませた。


それまで顔を真っ赤にして息切れをしていたエリザベスは、少しずつ呼吸が安定し、表情も穏やかになっていく。


光が消え、宙をはねた指輪をティアがとった。


「・・・一体何が・・・」

シリウスが驚いた表情になる。


ティアは構わずポケットに入っていた小瓶を出してエリザベスに呑ませようとした。

すかさずシリウスが止める。


「何をする気だ!!」


「解毒薬です。飲んだ薬はわかっていますから、解毒薬を作るまでの応急処置です。」


「おい!」

シリウスが止めようとするのをアレクサンダーが止めた。


ティアは小瓶の中身を飲ませ、解毒薬を作りに部屋を出ようとした。その時・・・


ティアたちのいる部屋にノックの音が聞こえたのだ。







返事も待たずに入ってきたのは、ソーマ侯爵令嬢姉妹。そして、その後ろにはロレッソ、皇后、皇妃がいた。


皇妃は少し笑っているようだった。


姉妹はきょとんとした表情でその場にいる全員を見回した。

妹のアシリスが少したじろく。


彼女たちの後ろに立っていた皇后がエリザベスに目を止めて心配そうな表情になる。

人をかき分け中に入る。


「どうしたのです?エリザベスちゃんに何かあったの・・・?」

皇后の言葉に一同が頭を下げた。


「近くのテーブルにあった飲み物を飲んだら、どうやらジントニックとパルキツァという魔法薬草だったようで。飲み合わせが悪く倒れてしまいました。私たちでここに運び、ただいまオリバーと大公を呼びにやっています。」

アレクサンダーが微笑んだまま言った。


アシリスの頬が少し赤くなる。


「そうなの。治癒術師は?」



皇后の一言で周囲にいた侍女たちが宮廷の治癒術師たちを呼びやった。





治癒術師が来て数分後、大公とオリバーが来た。


治癒術師が大公に向かって礼をする。


「良かったです。発見と対処が早くて。このパキルツァは発見が遅いと大変なことになりますからね。量を間違えれば死に至ります。」


シリウスは安堵のため息をついた。


守護魔法は魔法薬草にも効果がある。

しかし、一つ問題が。


薬と何かが相乗効果を出す場合、その守護魔法より上回る効果を発揮するのが魔法薬草。

そうなると、守護魔法は打ち消されてしまう。


すぐに気付いてよかった。


エリザベスはその後3日間起き上がれず、癇癪を起こして両親や侍女、シリウスを困らせた。しかし、シリウスの色かに当てられ恥ずかしくて布団に潜りこんだのはまた別の話。





事態が落ち着き、皇帝の命で舞踏会場に戻っていたティア。終了のダンスをして、最後にロレッソの挨拶。



ティアは火照った顔を覚ますため、テラスに出た。


テラスの柵に触れると、魔法が発動してしまった。

無意識だ。

思ったよりティアも酔っていたのかもしれない。


ティアの中に柵の持つ記憶が流れ込んできた。


いつの記憶か。


『あなたがいけないの。わたしから奪ったから。あの子は使えない。あなたは死ぬの。私の物を奪ったから・・・』


そこでティアはハッとする。

誰の記憶?

顔が見えなかった。

ティアは無意識に使った魔力を抑えた。


何故か恐怖心で体の震えが止まらなかった。


その時、背中にトンと優しく何かが触れた。

そして、足を持ち上げられそのまま真っ逆さまに地面へと落下した。





体中の感覚がない。

痛みも何もない。

まどろんだ意識の中から誰かの声が聞こえる。


「・・・ん!ルアン!!ルアン!!」


誰かの呼ぶ声にゆっくりと目を開けた。

ティアの目の前には心配そうに見つめるスカイブルーの瞳。


「あ・・・アレ・・ク様・・・」


そうして、ティアの意識はまた遠のいた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ