中編2
1週間後。
『緊急事態です。大変です。ていうか・・・・こういう時なんていうんでしたっけ?』
ココが矢継ぎ早に話す。
「・・・落ち着いて。何があったの?」
『おーつかーれさーまでーす!』
ココの隣から急に画面に現れた女性が挨拶をする。
「エル?」
『そうでーす。ティアさんが私を探しているって聞いたので、参上しましたよー』
「?あなたを?・・・探していないけど・・・」
『あれー・・・“ペネロペ”っていう子供を連れ去った老婆はケルフィースって言う人ですよね?』
「ペネロペ・・・ええと、今回の調査にあなたも参加しているの?」
ティアはますますよくわからず聞いた。
『え?私がそのペネロペです。ケルフィースは私の養母です。あんまり養母って認めたくないけど。早くくたばってほしいくらいでしたけどねー。』
あっけらかんとした表情で爆弾を落とすエル。
「・・・どういうこと?あなた・・・え?」
『私の本名ペネロペ=エルティナ・ルカンディオというんですよー。信じられないかもしれませんが、私はシェヘレザードの娘なんですー。正真正銘のー。まあ、ケルフィースに誘拐されて育てられたんですけどねー』
まさかの灯台下暗しであった。
そして、まさかの爆弾発言炸裂であった。
彼女は商会で働く女性。
衣服のデザインに長け、デザイナーとして商会に身を置いている女性だった。
エル=ルカンディオ。
まさか、シェヘレザードが探している人物の上、娘だったなんて・・・。
ひょうひょうとするエルことペネロペが、何か話しているが、ここが必死で止めつつ『まとめた資料は送りますからー!!では』と言って通信を切った。
―数日後
大公家の別棟にて。
シェヘレザードと向かい合うようにティアは座っていた。
まとめた書類を彼女の前のテーブルに置く。
「まさか・・・これ・・・」
シェヘレザードは驚いたような表情になり、目の前の資料を見つめる。
手が震え、膝の上で握りしめている。
「ご所望の情報です。」
シェヘレザードはまるで時が停まったようにじっと資料を見つめている。
少ししてシェヘレザードは震える手で資料を持ち上げ、一枚一枚めくっていく。
「・・・彼女の生い立ちです。最後の方は現在の彼女。実は我が商会で働いています。」
ティアの最後の言葉にシェヘレザードは顔を上げる。
ハシバミ色の瞳が涙で輝いている。
ティアは素直に綺麗だな、と思った。
けれどとても悲しそうでつらそうな瞳に見えた。
「この子は・・・今何しているの・・・?」
シェヘレザードが震える声で聴く。
「古の国で賢者と呼ばれる方の助手をしつつ、デザイナーをしています。」
「・・・幸せに・・・しているの?」
「結婚して二人の子供もいます。夫も商会で働いています。仲睦まじい夫婦ですよ。」
「そう・・・・」
シェヘレザードはティアから渡された資料を抱きしめ、目をつぶる。
一筋の涙が頬を伝った。
その日はシェヘレザードの精神状態が乱れている、ということで後日話をすることになった。
数日後―-
「ティア!エリザベスお嬢様がおよびよ。」
侍女仲間に言われて、エリザベスの部屋まで向かう。
扉をノックし、中へ入る。
エリザベスが2着のドレスのまえで首をかしげていた。
「およびですか?」
「ねえ、ティア。どっちが悪女っぽく見えるかしら?」
真っ赤なドレスと真っ黒なドレス。
一体どうした。
エリザベスの好む色は淡い色。
こんなどぎつい色を選ぶこと自体初めてでは?
「急にどうされたのですか?」
「来月、ロレッソ殿下の婚約者お披露目でしょう?その時にお兄様がプロポーズをするという噂があるから、きっとソーマ家はきらびやかでゴージャスなドレスを着るでしょう?だったら、わたくしは悪女で行くわ。それで会場の視線を独り占めよ。ぶち壊してやるわ!!おーほっほっほっほっほっほっほ!!」
高笑いが似合う。
「急いで仕立てさせてしまったから、手直しが必要だけど。もう一つはあなたのよ。どちらがいい?」
ん?
どういうこと?
ティアがきょとんとしていると、エリザベスが不思議そうに見てくる。
「あら?来月のロレッソ殿下の婚約披露パーティーあなたも出るのでしょう?」
?んん?
だからどういうこと?
エリザベスが首をコテンと横に倒す。
「シェヘレザード様からあなたも一緒に出るって聞いたから、お揃いのドレスにしようと思って作っちゃった♡」
可愛らしい笑顔でエリザベスが言う。
しかし、ティアには何のことかわからず全く理解が追い付かなかった。
どうやらシェヘレザードがロレッソの婚約披露パーティーと同時に宮廷に戻ったことを知らしめるらしく、明日には宮廷に戻るそうだ。
ティアの知りたいことに答えるため舞踏会に出るよう言っていたそうだ。
時間がなく侍女を通してのことだった。
そんなこんなであっという間に前日になる。