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前編


黒いドレスを煌めかせながら、ティアは宮廷の舞踏会のダンスホールを横切り、ガラス扉からテラスへとでた。


カーテンを開けた瞬間、風が心地よかったが、外に出たほうが清々しいほど気分が良かった。


ティアはテラスの柵に掴まり、扉のほうへ振り向き会場の中の喧騒を見つめる。


「なんだか、熱いわ。火照っているのかしら。」


少しふらついてテラスの柵に掴まる。

手にピリッと電気が走る。


何かがティアの中をめぐる。

誰かの叫び。

流れて落ちる血。

流れる涙。

憎しみと嫉妬、そして羨望の瞳。


これは誰かの記憶だろうか。

ぼやける頭を振る。


「・・・なに・・・酔ってるの?」

頭がぼーっとする。


ふと背中に何かが当たったのに気づく。

しかし、その時には遅く。


誰かに両足を持ち上げられ、3階にある舞踏会場のテラスから地面に向かって真っ逆さまに落ちていた。


最後に見えたのは、月が満ち、美しい満月が、殊の外大きく見えた。

そして、泣きそうな清々しく雲一つない空、スカイブルーの瞳。











エリザベスの侍女となり、1か月が過ぎたころ。

ティアの元にアンディオン王国にいるカリオペたちから連絡が来た。


『そっちはどお?』


「・・・そうね・・・侍女としては慣れたわ。商会長としては・・・どうしようか思案中ね。」


『皇太子は決まったの?』


「結局立太子されていないわ。」


『第3皇子には?』


「会っていないけど・・・」


『けど?』


「・・・あまりいい噂は聞かないわね。」


『そう。』


「そっちは?」


『それが、国王から公爵の元にロシエール商会と取引をするようにお達しが来たわ。しかも、国に専従するようにって。ふざけんじゃないわよって感じね。』


「国王が?」


『そうよ。しかも・・・フェリシア様を介して連絡してきたのよ。』



カリオペの言葉にティアは率直に“これは、面倒なことになりそう”と思った。






カリオペたちが現在いるアンディオン王国は、世界的に有名な醜聞に見舞われた王子が国王となっていた。


国王は、婚約者がいながら男爵令嬢と恋に落ち、婚約を一方的に破棄した。

しかし、男爵令嬢の妃教育は全くうまくいかず、このままでは王妃として立后しても国が成り立たないと考えた重臣たちと前国王は、あろうことか元婚約者だった現クライシス公爵の妹を側妃に召し上げた。


そうして、王妃の業務を全て担っている側妃フェリシアは、毎日のようにマウントをとってくる王妃の元男爵令嬢シェリエールに屈辱を味わされていた。


公爵家は王家を見限っていたが、フェリシアのために辛うじて王家とつながっているに過ぎなかった。


すでに、王妃であるシェリエールには王子が2人いるので後継者問題に問題はない。しかし、現重臣のほとんどは世代交代していたため、国王と王妃に対してあまりいい感情を持っていなかった。



現国王フィルスベリアは一人息子で、流産して授かった子供だったため、それはもう溺愛され甘やかされて育った。

頭は悪くないし、性格的にもまあ普通の人間であった。


しかし、彼の父親である当時の国王は愛妾の子供であった。

血筋的に問題があったのだ。そして何より後見してくれるものなどいなかった。

なぜ彼が国王になれたかというと、正妃も側室たち5人も全員女児しか生まれなかったため。


そのせいもあり、彼は本当に国王の子か疑われることもしばしばあった。


心優しい正妃はそんな彼を憂い、自身の娘を降嫁させたクライシス家に後見を頼んだ。

当時のクライシス公爵家は、王妃と嫁の頼みで国王の後見となった。



その縁故で、クライシス家のフェリシアと国王のたった一人の子であったフィルスベリアが婚約すことになったのだった。



そういう経緯での婚約だったのをフィルスベリアは一方的に婚約破棄し、あまつさえ彼女がファシエールをいじめていると言いがかりをつけ断罪までした。


結局、シェリエールを王妃に据えたものの、王妃として機能しないことがわかり無理やりフェリシアを側室にしたのだった。



現状、フェリシアは国王と距離を取っている。

そんなフェリシアが何故か、何とか実家を説得し、国王の後見を続けてもらっている状態であった。





『ティア?聞こえた?』


「ええ。それで、公爵はなんておっしゃっているの?」


『とりあえずは保留らしいわ。フェリシア様と国王の真意をお知りになりたいみたい。』


「距離を取る・・・」


『何?』


ティアのつぶやきが聞こえなかったカリオペは再度聞き返すが、ティアはそのまま遠話機の通信を切ってしまった。


そのまま、ティアにあてがわれた使用人にしてはまあまあ上等な部屋を飛び出す。





廊下を走りエリザベスの部屋の前で止まりノックする。


「入って」


「失礼いたします」

話し声が聞こえた。

お茶会を邪魔してしまったかもしれない。


扉を開けるとそこには、アローシェン家のエレンがいた。


「ご歓談中申し訳ありません。至急お話がありまして。」

ティアが視線を下にしたまま伝えると、エレンが椅子から立ち上がり近づいてきた。


ティアの周囲をくるくると回りだす。

上から下へと視線をずらし。

なめるように、食い入るように見る。


その姿をエリザベスはくすくす笑っている。

「新しいわたくしの侍女よ。ティアというの。護衛も兼ねているのよ。」


「・・・そうなんですね。とてもきれいな髪だわ。お顔だちも・・・整っていそうなのに、その分厚い眼鏡はもったいないわ」

エレンが腕を組んで呟く。


「エレン。申し訳ないけれど少し席を外すわ。リリ、エレンに新しいお菓子を持ってきて。ティアはついてきなさい。」


そう言ってエリザベスはティアを連れて部屋を出た。



エリザベスの2つ隣の部屋に移動し、どうしたのかティアに聞く。


「どうしたの?今は休憩時間でしょう?」


「・・・ここに、シェヘレザード様がいらっしゃいますよね?」


ティアの言葉にエリザベスの目が動く。

「・・・ベス様・・・わかりやすすぎますよ。まあ、元々公にされていないだけで公然の秘密なのでしょうけど。」


「シェヘレザード様がどうしたの?」


「会いたいんです。」


「ティア。さすがにそれは・・・療養中だし、大公家の別棟だからわたくしでも会えないわ。」


「では、ロシエール商会の商会長が来ているとお伝えください。」


「・・・いいの?」

ティアの言葉に若干顔を青くするエリザベス。


なにせ、ティアは敢て身を隠しているのだ。表立っての商会長はカリオペだが、実際の全ての実権を握っているのはティアだ。


ティアの推理が有っていれば、シェヘレザードはティアに会いたいはずだ。


「・・・お母様に・・・聞いてみるわ」





エリザベスはすぐに聞いてくれた。

そしてすぐに返事が来た。


すぐに会いたいと。







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