アダバルトとの別れ
宿のドアをノックする音が聞こえる。
レオの奴が、戻ってきたのか?
確か「また会う機会があったら」と言っていたが…。
「アダバルト、開けてくれ」
アダバルトは、紅茶を飲み干すと、机にかちゃッと音をたてて置いた。
「レオを部屋に案内しろ」
部屋の外で控えている衛兵に命じる。
戦争商売か…。
ルザク子爵が底知れない腹黒い笑みを浮かべて手を差し出してきたことを思いだす。
あの笑みを思い出すと、冷や汗がまた噴き出そうになる。
返答は遅らせたが、いつか返答をしなければいけないと思うと悩ましい。
「アダバルト、そんな顔をしてどうした?」
いつの間にか入ってきていたレオがアダバルトの前の椅子に座る。
いつの間に入ってきたのだろう?
気配もなかったし、ドアが開いた音もしなかった。
「いや、何でもない。それで、お前こそ皇帝陛下に呼ばれてどうしたんだ?」
「別に。俺も何でもない」
「皇帝陛下に呼ばれて何でもないということはないだろう」
こいつは、何かある。
そう商人としての直感が告げていた。
「気にするな。転移魔法のことでいろいろと話してきただけだ」
「そういう、ものか…」
納得は出来ない。
だが、こいつに話す気がないのに話させるのは無理だな。
「何でもない」
そんなものは嘘だ。
本当は皇帝に協力することにした。
何故協力したのか…。
ただ単に、なんとなく気が向いたからだ。
もしかしたら、魔王領を出るという目的を達成した今、無意識に何か一つ目的を持つのもいいと思っていたのかもしれない。
ただ、安請負したのがよくなかったらしく、実は重大なことだった。
「余の、剣として働いて欲しい」
皇帝の剣。
具体的には開戦派の貴族の暗殺をしてほしいということだった。
帝都は、いや、人の国は魔国以上に血なまぐさいのかもしれない。
「アダバルト、荷物を取りに来ただけだ。もう、お前とはお別れだな」
ベットに立てかけてあったカバンを手に取ると、アダバルトに背を向ける。
「じゃあな」
「…待て。謝礼だ」
そう言ってアダバルトが投げた金貨を右手で受け取る。
金貨の一面に掘られた歯車の模様がシャンデリアの光を反射する。
「小さな商団が、こんな大金出していいのか?」
「お前ほどの腕の護衛を雇うならこれぐらいは必要経費だ」
「受け取っておく」
そして、アダバルトに背を向けて部屋を出る。
読んでくれてありがとうございます。
前回が長かったので、今回は少し短めにしました。
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