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追放から始まる逆転劇  作者: 匿名
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悪魔の提案

「近衛の方がお待ちですよ」


そう言われて亭主に連れてこられたのは玄関。


確かに、玄関には立派な鎧をきた騎士が立っていた。


髪は銀髪で、八頭身。細い切れ目は冷酷そうだという印象を与える。


アダバルトは緊張しているのかぎこちない笑みを浮かべていた。


「一介の商人のわたくしに一体何の御用でしょうか?」


「お前には用はない。用があるのは後ろの連れだ」


俺か?


一体何の用だ?


「まず、一つ確認したい。貴殿が数十人を転移させた魔導士か?」


「あぁ、そうだ」


「…。いや、皇帝陛下が面会を希望しておられる。ついて来てほしい」


「皇帝が…?」


「皇帝陛下のことを皇帝などと…。まぁ、いい。一度だけは見逃そう。ついて来い」


「分かった」


少々めんどくさいが、逆らうとなるともっとめんどくさい。


近衛騎士が玄関を出ると、俺も続く。


「アダバルト、今日は感謝している。俺も国についたし、道中の護衛も終わった。じゃあ、また、どこかで会う機会があったらな」


そう言うと、アダバルトに背を向けて近衛騎士に続く。




じゃあな。…か。


レオと別れを告げた後、アダバルトは急激にさみしさに襲われた。


商談の長になってはや、三十余年。


商人など、常に腹の探り合いを続けている。


あれほど、腹の探り合いもなく普通に話せたのは久しぶりだった。


アダバルトは、レオが去って行った後も玄関でしばらく立ちすくんでいた。




帝宮の兵部ではしきりに軍事訓練が行われている。


それも数万人規模で。


戦争が近づいているのだろう。


俺は近衛騎士と横並びに、その横を通り過ぎる。




それにしても、なぜ俺が皇帝に呼ばれるのだろう。


転移魔法が何とかと言っていたが…。


「なんで俺が呼ばれたんだ?」


素朴な疑問を問いかけると半ば呆れたような声が返ってきた。


「そんなことも分からんのか?数十人規模での転移魔法を使ったからに決まっているだろう」


数十人規模での転移魔法と使ったから…。


あぁ、しまったな。


人間とは脆弱らしいからな。


魔王軍の上位陣は、魔道具を使用すれば数十人規模での転移など簡単にできたのだが。


魔物だとバレれば騒ぎにもなるだろうし…人間のふりをしなければいけないとは不便だな。


一つ、ため息をついて近衛騎士に続いて歩いた。




「竜宮門」と書かれた額を掲げた門を抜けた俺は、近衛騎士に代わり、老いた宦官に案内されて、皇帝の寝所に入った。




「くれぐれも、陛下に無礼の無いようにするのだぞ」


宦官はくどいほどに礼儀作法をつたええてくる。


多分、近衛騎士あいつから「陛下」を付けず読んでたことを聞いてるんだろうな。


「分かっている」


わかっていると言っているのに不安げな表情をする宦官。


「入っても良いぞ」


障子の奥から穏やかな声が聞こえる。


それに反応して、宦官が障子を開けた。




言われていた通り、姿は見ずに、片膝をついて下を見る。


後ろの障子が、今る音がすると、この空間だけが断絶されているようで穏やかだった。


「貴殿が転移魔法の使い手か?」


皇帝の声は、春の原っぱのように穏やかで、慈悲深い。


「面を上げよ」と言われるまでは顔を上げてはいけない。


そう言われていたことを忘れ、思わず顔を上げてしまった。


すると、座っていたのは七、八ほどの子供。


まだ子供、それも人間だというのに、覇気が見える。


魔王のまとっていた覇気と比べればよほど脆弱だ。


だが、優しさが垣間見える。


妙に体に力が入らないというか、ふわふわするというか、奇妙な感覚に襲われ思わず素で答えてしまった。


「あ、あぁ」


「であるか…」


童顔の皇帝が幼いとは思えないような悩みの表情を見せる。


皇帝は、ゆっくりと、ゆったりと話し出した。


「余は、国政をわが物とし、私利私欲のために使う貴族を一掃したいと考えている。だが、余にはそのような力はない。そこで、そなたに協力してほしい」


「…協力?」


何故、自分のような赤の他人が協力してくれと頼まれるのか、皆目見当もつかない。


「そう、協力してほしい。万の軍勢が訓練をしておるのを見たであろう。此度の戦では多大なる死者が出る。それを指導しておるのは戦争で儲けたい貴族と商人」


「商人…」


商人と言われて思い浮かぶのは、一人しかいない。


あいつは…ちがうといいな。




アダバルトのいる宿の前に一人の貴族が立っていた。


切れ目とナポレオン三世みたいな髭が特徴的なルザク子爵だ。


「アダバルトはいるか?」


宿のドアをノックして声を上げるが、宿の亭主は留守なのか返事はない。


しばらく待って、またノックするが、また返事はない。


諦めて、帰ろうとしたとき、階段をバタバタと降りる足音がした。


ルザク子爵がその音に気付いて振り返るとちょうど、そのタイミングでドアが開く。


ドアを開けたアダバルトは、一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐにもみ手をする。


「おや、ルザク子爵でしたか。どうぞ、中へ」




「ルザク子爵、このような場所まで一体何の御用でしょう?」


ルザク子爵が椅子に座ると、アダバルトは向かい側に立った。


その手は商人らしくゴマをすっている。


ルザク子爵は貴族としては下っ端だが、大公家のバンウォン宰相と従妹関係で、話も分かるうえ、商才にたけているアダバルトのビジネスパートナーだ。


「アダバルト、今年はどれぐらい帝国に滞在する気だ?」


「そうですね…。早く着いたので、数か月は滞在しますが、一月下旬には発とうかと考えておりますが」


「一月か…。十分だな。アダバルト、いい儲け話があるのだが」


ルザク子爵が手招きすると、アダバルトが近づく。


ルザク子爵は、周りを見渡し、盗聴している者がいないのをたしかめるとひそひそ声でささやいた。


「アダバルト、これは極秘の話なのだが…戦争が起きるのだ」


「戦争!?」


思わず声を上げてしまったアダバルトは、口に手を当てた。


ルザク子爵が鋭い視線を向けて口の前で人差し指をたてて「シー」のポーズをする。


「す、すみません」


「まぁいい。とりあえず計画を話すぞ。戦争となると、それも冬場。穀物の価格は天を衝く勢いだ。そこで我々貴族は今の内から穀物を買占め、価格をさらに高騰させる。その時、お前は他国で大量に穀物を買うのだ。資金は我々で用意する。価格が限界にまで上りきったらそこが売り時だ。我々が国内で買い占めた穀物とお前が他国で買った穀物を一気に売りつける。すると、逆に国内では穀物の価格が下落する。そうしたら、また購入して、今度は穀物の価格が保たれている他国で販売する。そこで、他国での販売と購入をお前に任せたい。まだ、確定ではないが、手数料として販売時の数パーセントの利益を約束しよう」


話し終えるとルザク子爵が机の上に用意された紅茶のカップを手に取った。


そして、ゆっくりとコップを回して香りを堪能する。


「どうだ?受けるか?」


ルザク子爵の提案はアダバルトにとっては悪魔のささやきのように聞こえた。


背中には大量の冷や汗が流れている。


「単刀直入に聞きますが…どれほどの規模の利益が見込めますか?」


それ次第では、断る。


それ次第では…。


「ロギア金貨で十万枚。お前の利益は、金貨数千枚だな」


ロギア金貨は一枚で約百万円。総額百億円という大金だ。


アダバルトの利益になるのは数億円ということになる。


悪魔が彼にささやきかける。


全身から汗が噴き出る。


戦争…。


アダバルトは、悪魔の手を――。

読んでくれてありがとうございます。

今回は少し長すぎたかな?

投稿は遅かったけど、それだけ話は長いです。

「おもしろいな」「続きが気になるな」と思った方は下にある☆☆☆☆を押して、応援よろしくお願いします。

ブックマーク登録も是非押してね。次話が出た時にすぐわかるよ。

それではまた次回。バイバイ~!

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