混乱終結~その後
混乱のおさまった帝都には、無事なにごともなかったかのように朝日が昇る。
帝都のほとんどの国民たちは、昨日の争いに戦々恐々としていたが、やがて日が昇ると昨日の出来事について語った情報版の前に群がった。
これはユリウスの気遣いで、昨日の混乱の一部始終は、瞬く間に帝都どころか帝国全土へと広がった。
ユリウスも、なかなか気がまわるな。
貴族たちの私利私欲のための開戦に腹を立てる姿や、そうだそうだとまくし立てる姿があっても、無事貴族は捕まえられたとなり、目立った混乱も起きている様子はない。
俺は、今は帝宮へと向かっている。
ユリウスからの誘いだ。
魔物ということは、ユリウスとロビンソンしか知らない秘密になっているうえ、バンウォンを捕まえたとあり、登城することに対する目立った反抗はないとユリウスも言っていた。
魔王城にいた頃、奴隷階級から出世してきたシリウスへの態度を思い出すと、そう簡単に身分の壁が乗り越えられるとは思えないが、少し、ユリウスにかじ取りを任せるのもいいかもしれない。
「おい、あんた、この前、ドラゴンの尻尾プレゼントしてやった兄ちゃんじゃねぇか?」
聞き覚えのある声…周りを見回すとはちまきを巻いて肉を片手に手を振るおっさんの姿が目に入った。
確かに、ドラゴンの尻尾をくれたおっさんだ。
前に比べて陽気で、笑顔が見える。
小走りで人込みを抜けておっさんの串焼き肉の露店の前に行くと、「ヨ!」と元気よく串焼き肉を口に突っ込まれもごもごとすることになった。
その串を受け取って、なんとか飲み込むと口を開く。
「金も払ってないのに…モゴッ、えらく、景気がいいな」
「あぁ?だってお前…」
そう言って勿体なぶると俺の耳元へ口を近づけて小声でささやいた。
「バンウォン宰相を逮捕してただろ?」
何故そのことを…。
「見てたのか?」
俺も顔を近づけ小声でささやく。
「あぁ、妻が赤髪の人がすごい戦いをしてたと言いだしたから、俺も出てって陰からこっそりとみてたんだが、あんたスゴイんだな。メイド服の子も相当だったがなぁ、あんたはそれ以上で…。あぁ、俺も冒険者時代の血がたぎるぜ!」
「いや、そんなことは…。それより、俺はこれから用があるんだ。それに、まだ、やらなければいけない大仕事もあるしな」
帝宮へ行くなどと言ったら当分、誉め言葉の嵐で行かせてくれる気がしない。
だまって、いったほうがいいか。
それに、大仕事、戦争を止めることもまだ出来ていない。
「じゃ、また、用が終わったら寄る」
そう言って手を振ると串焼き肉屋のおっちゃんも陽気に手を振り返してくれる。
帝宮の本殿には、上座にユリウス、両脇に立った大臣や有力な貴族の姿があった。
だが、昨日百人近く逮捕したので、かなり空白が目立つ。
(これほどまでに我が国は蝕まれていたとは…)
ユリウスは空白の多さが証明する、自分の不甲斐なさと貴族の腐敗具合にため息をつくと、咳払いをして声色を威厳のあるものに変えた。
「それでは、朝会を始めるぞ」
ユリウスが辺りを見回して宣言すると、大臣たちが一斉に頭を下げる。
「よし、まず、今日は余から話がある。昨日の混乱には、気づいた者も多いと思うのだが…」
そうして、ユリウスは昨日の出来事の一部始終を大臣たちに熱弁する。
朝会とは、名前とはずれているが、毎日行う会議のことだ。
朝に行うので、いつの間にか大臣や貴族の間でそう呼ばれるようになっていて、いつの間にかそれが正式名称に代わっていた。
「…ということがあり、今後私欲のため、戦争を起こし国家を危機に陥らせるような行為は厳重に処す!」
ユリウスの話が終わると、大臣たちは各々、うなづいて納得している様子だった。
その中で、ひときわ身長の高い細身の男が「よろしいでしょうか?」と言った。
「うむ、何か気がかりが?」
「はい。皇帝陛下、軍は既に今日、ネルシス連邦国軍と決戦を行います。もはや、戦争を止めるのは…」
「不可能では?」と言いかけたところでユリウスがその声を遮った。
「レオ、入るのだ」
出番みたいだな。
ユリウスの声がドアの向こうから飛んでくると、老宦官がドアを開ける。
部屋の中央にひかれた絨毯の上を歩いてユリウスの前まで行くと一礼する。
帝宮の本殿には、上座にユリウス、赤い絨毯を挟んで両脇に立った大臣や有力な貴族が集まっていた。
大臣たちの視線が集まる。
この朝会での目的は、俺が悪魔を率いて出陣することを認めてもらうことだ。
詩には現にこのようになることが予想されていたし、可能性はゼロではない。
だが、魔物は敵という固定概念にとらわれた大臣たちは簡単に認めるとは思わない。
だが、認められなければ、ロギア帝国も、ネルシス連邦国も想像を絶する死者が出る。
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