深夜の山賊偵察(デート)①
俺はフードを目深にかぶり小ぶりの散策ナイフを腰に装備し、山賊らしき人間が目撃された場所へと馬を走らせる。
「やれやれ、面倒だな」
時々、今日みたいにトドロキ区長から秘密の任務を依頼されることがありそれをこなしている。もちろん俺のスローライフを脅かす場合に限り……だけれども。
(実際、裏のギルドだのデマがあながち間違っていないから困るんだよな)
区長が手配した大き目の馬にまたがる俺の後ろにはパウムが引っ付いていた。ウキウキしながら。
「いや~深夜のデート楽しみだね」
二人きりになり饒舌になるパウム……デート感覚で山賊の偵察なんて普通出来ないから。
「忘れるなよ、偵察なんだから見つからない事が大前提、暴れたりするなよ」
「ん~別に退治しちゃってもいいじゃない。区長もそれに期待しているだろうし」
「やってもいいぞ、その後四英雄のパウムさんは仕事をしてくれると依頼が殺到するからな」
危ないことを口走るパウムを俺は叱責する。
「四英雄が仕事を受けるなんてなったら、私も私もと依頼が殺到。そして利用する奴がわんさか出てくるぞ」
「まぁウィルと一緒なら……」
「王族や貴族の政治争いに利用されたらどうする。場合によっちゃグレンやリグリーと戦う羽目にもなるんだぜ」
「それは嫌だなぁ」
「だろ」
そうならないように悪意のある依頼とか取捨選択したりコミュ障のパウムの代わりに俺が交渉しなきゃなんないし……
「ウフフ」
こっちが悩んでいるのをよそにパウムは俺の背中に顔を埋め笑っていた。
「何がおかしいんだよ」
「何だかんだで私たちの事を心配しているんだなって」
「最終的に俺がのんびり暮らせなくなるのが嫌なだけだっての」
「ツンデレなウィル大好きだよ」
「……ハイハイ」
本当に俺離れしなくなってしまったな……このままじゃ彼氏もできないだろうに。
「私は当分あの宿屋から離れませんよ~だ」
「だったら今日は何で食堂に降りてきたんだ? やっと引きこもりから卒業する気になったのかとお兄さん嬉しくなったんだけどな」
俺の言葉に何故かパウムはむくれた。
「そりゃ降りてくるに決まっているじゃん! 私の名前が聞こえて何かなと思ったら痴女まがいの行為が白昼堂々と行われていたんだよ!」
「下着で寝っ転がって男部屋に入れるお前の台詞かね?」
「あーいえばこーいう……まったくもう」
「コッチの方がまったくもうだっての……イテテ」
背中をつねるパウムの悪戯に耐えながら俺たちは目的地付近に到着する。小高い丘の上で木々が密集する偵察にはもってこいの位置だ。
「目撃情報はあの辺だって聞いたけど、はてさて……」
馬を適当な木に繋ぎ止め俺は目を凝らし、まずは向かいの山々を眺めてみることにした。
「それっぽい伐採跡があるね」
俺より目がいいパウムはすぐさま人が手を入れた場所に目を付け指をさす。
「どれどれ……ビンゴだ」
月の光に照らされた向かいの山の中腹には洞窟が一つ、そしてそれを取り囲むように丸太で作った塀、さらには櫓が二つ建てられている。
その櫓には弓を構えた男が……胸当てや臑当て、装備品の材質がバラバラなのを見るに誰かから追い剥ぎした装備をそのまま着込んでいるのだろう。山賊のオールシーズン定番コーデだ。
いの一番に見つけたとパウムは鼻を鳴らしてドヤ顔だ。
「えっへっへ。誉めれ誉めれ」
「はいはい……にしても想像以上に堅牢な砦ができてんな」
たいまつを手にした見回りの数から察するに十人……いや二十人はいるだろう。徒党を組んだ山賊にしてはかなりの大所帯だ。
※次回も明後日17時頃投稿します
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