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トドロキの依頼


「怪盗って知ってるか? 怪盗ロブス」


「あぁ、さっきリネットちゃんが言っていたな。噂の義賊ですよね」



 トドロキ区長は深く頷いた。



「そ、領主バルマンテ公に弓引く貴族や悪事を働き懐を潤す悪徳商人……そいつらの悪さを暴いたり金品を奪いばらまく庶民の味方様だよ」



 どこかトゲのある言い方に俺は引っかかる。



「どうしたんですか? その義賊にエロ本の隠し場所を奥さんにバラされたんですか」


「ばっきゃろい、俺ぐらいになったら堂々と本棚に差し込んでるよ……植物図鑑にカモフラージュしているがな」



(どこが堂々なんだ?)



 パウムと俺は目を合わせて一緒に首を傾げた。たまらなくなったのか区長はあわてて話を本筋に戻す。



「実はな、その義賊のせいで冒険者ギルドや傭兵が人手不足になっちまったんだよ……ほとんどの貴族や商人がこぞって警備員として雇いだしてな、それも大枚はたいて」


「みんな後ろ暗いことやってたんですか?」


「一部はそうかもしれないけどよ、ちょいと事情が違うんだ」



 区長はカウンターに寄りかかると困り顔で実情を吐露する。



「世を正す義賊様が大活躍しているせいで、盗難事故が起こる=ロブスの仕業だ=悪党に違いないって図式が成り立っちまってよ……ちょっとでも騒ぎを起こすわけにはいかない風潮なんだよ」



 そこまで聴いて俺は納得した。信用で商売している貴族や商人は何よりも面子を気にするもんだ。



「商売敵を陥れるために盗みを仕掛ける人間だっているかもしれないですしね……で、それが俺に関係するんですか?」


「するんだよなぁ。貴族や商人連中がこぞって冒険者を雇って、いま行商人の警護が足りなくなってんだ」


「行商人の?」



 パウムの問いにトドロキ区長は大いに頷いた。



「傭兵も商売だ、実入りのいい所で仕事するのは間違いじゃねぇ。でも行商人の警備が薄くなったのを山賊が目を付けやがった」



 困った顔で言葉を続ける。



「ここは貿易都市だ、大小さまざまな行商人が毎日行き来する……金が無く警備を雇えない人もいれば山賊が怖くて無理にでも雇う人もいる、その先にあるのは」


「無理して雇った分商品が値上がりするな、割を食うのは……その日暮らしの多いナーガ区ってことか」



 トドロキ区長は「ご明察」と先生みたいな顔をする。



「山賊退治は誰もいかないの?」



 パウムの問いに先生みたいな顔を継続して区長は答えた。



「さっき言ったとおり冒険者が足りてない、州の警察に頼むにゃ山賊の規模や拠点とか詳しく伝えなきゃいけねぇ……まったくお役所仕事ってヤツは」



 色々あったのか区長もウンザリの顔だった。



「日に日に大きくなっていて正確な規模も掴めねえ、調査の人手も足りてねえ、実害がまだ出ていない以上他の区は動きやしねぇ……そこでだ」



 区長は身を乗り出してまっすぐな目で俺を見てきた。



「そこで……なんだよ?」


「分かってんだろ四英雄の元荷物持ち。斥候まがいのことは何度もやってきたって聞いたぜ」



 確かに四英雄の荷物持ちをしていたときは先行して調べる機会は何度もあった……まぁ単純にコイツらの場合一般人であろうと吹き飛ばしてしまう場合があるから俺が前もって確認しないと大惨事になるからというだけなんだよな。



「そうは言ってもさ」



 渋る俺に区長は手を合わせてお願いしてきた。



「頼むぜ、ナーガ区は他の町に住めないスネに傷持つ連中が多いんだ。ここに居場所が無くなっちまったら途方に暮れちまう。ナーガ区安定のためにお前の力を貸してくれ」



 困り顔の俺の所にパウムが寄り添い耳打ちしてくる。



「……私の居場所でもあるんだよ」


「俺の居場所でもあるんだよ……ったく」



 そこまで言われちゃ受けるしかないじゃないかと俺は頭を掻くしかない。



(のんびりスローライフを送るなら、このくらいはやれってことか)



 まぁ偵察だけならと俺は渋々その依頼を受けることにしたのだった。



「山賊のだいたいの人数だな……言っておくけど調査だけだぜ。だからパウムはお留守番だ」


「え、何でさ」


「今回は偵察。それに四英雄が下手に出張ったら大騒ぎになるかもしれないだろ……自分の凄さをもう少し理解しろ」


「勝手についていくかもしれないよ、いいじゃん深夜のデート」



 デートって……勝手についていくと半ば脅し始めるパウムに俺は折れるしかない。



「今日の仕事終わりに出発するから馬の手配を頼む……二人乗れるくらいの大きい馬を」



 喜ぶパウム。区長は子どもを見るような微笑ましい眼差しで俺たちを見ていたのだった。




 ※次回は明後日17時頃投稿します


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