聖女フランキッシュとバルマンテ公の協力②
「冗談でもダメだぜフランキッシュ。君の立場が立場なだけにさ」
そうやって俺は笑顔で彼女を諭した。優しさ故に少しだけ危なっかしいんだよな……微笑みがさっきと微塵も変わっていないのが余計にさ。
「新聞社の所属で何名かアスカ教の敬虔な信者の方がいらっしゃいます。極一部、人心を得るため、対外的な意味合いで宗教を「嗜んでいる」不遜な人間もいらっしゃいますが……」
「不遜ね」
「大半はご自身のジャーナリズム精神に疑問や罪悪感を抱いている方なので、親身になってお話を伺えば懺悔の流れで機密情報の一つや二つ教えていただけるかもしれません」
またさらりととんでもないことを言ってのけるフランキッシュに俺は若干……いや、かなり引いていた。
「あ、そうなの」
「商人も貴族も両極端なお人が多いですね、成功や利益を得ることに罪悪感を覚える方もいれば宗教を交渉事を円滑にするためのステータスの一つにする非常に嘆かわしい人間もいます」
なんつーか買い物もできない箱入り娘から成長したなぁ……倫理的な何かが欠けている気がしなくもないけど。
(だからなおさら、四英雄として私利私欲な仕事を受けて欲しくないな)
フランキッシュはフランキッシュのまま汚れずこのままでいて欲しい、時間が経てば欠けた何かも自然に身につくだろうから……と固く誓う俺だった。
「さぁ、お時間はまだございます。もう少しお話――ゲゲ」
さっきまで微笑みを崩さなかったフランキッシュが露骨に嫌な顔をする。何事かと振り返るとそこには……
「あら、ごきげんよう」
黒い扇子を片手にリグリーが優雅に佇んでいた。静謐な庭園に似合わぬ衣装の色合いも相まって、さながら楽園に降り立った魔女といったところだろうか。
そしてその後ろからは……
「オイーッス! ウィル! フランキッシュぅぅ!」
コレまた静謐な空間に似合わないグレン、それと……
「や」
グレンの後ろからおずおずと手を挙げるパウムの姿があった。彼女は俺を見るや否や背後に回り込んでピッタリと張り付く。
「んがははは! やっぱ俺よりウィルの後ろが合っているなパウムは!」
大笑いするグレンの声に我に返ったフランキッシュはすぐさま微笑みを取り戻し歓迎ムードを纏い直した。
「あら、リグリーさんにグレンさん、そしてパウムさんまで……どうかしましたか?」
「友達としてきちゃダメなのかしら?」
相変わらず若干トゲのある言い回し、その横にいるグレンがまた笑う。
「ダメなわけあるかよ! だって友達だぜ! トモダチ!」
押し掛けてきた人間の台詞じゃないな……でもコレでもまともになったんだ、前だったら絶対に庭園の花を摘んで食えるかどうか確認していたもんな。
「……食えるかチェックしなくていいの?」
「おう、俺も成長したんだ! アレは食えない花だ! だから摘まない!」
(食えたら摘んでたのかよ……まぁ学んだことを忘れないだけマシか)
呆れる俺を見てフランキッシュがリグリーに話しかける。
「急な来訪でウィル様も呆れています。まさか私とウィル様が二人きりで親睦を深めるのが許せないという私怨できたのでしょうか?」
これに対しリグリーは言葉を用意していたのか、にんまり笑ってみせた。
「そんな訳ないじゃない、ウィルが何と親睦を深めようと高嶺の高値な花の私は興味ないわ。新聞の占い欄並に興味ないわよ」
「……えー、あれ面白いのに」
毎日見て一喜一憂しているパウムはちょっとだけご不満だった。
「外にほとんどでない人見知りの癖に運勢も何もないだろお前……ん?」
そこで俺はある違和感に気がついた。パウムが俺たちだけなのに人見知りモードを発動させているからだ。
その答えを言うようにリグリーが話し出す。
「用事があるのは私たちじゃないわ、このお方よ」
「このお方……えぇ!?」
俺はグレンの後ろにいる人物に思わず驚きの声を上げてしまう。
精悍な顔に威厳のある髭を蓄えている。身なりの良い年輩の男性、リグリーが連れてきたので一瞬貴族の誰かかと思ったが貴族というよりも……あぁ!
「あ、あなたはっ! バルマンテ公!?」
「久しいな、ウィル君」
そこでようやく俺は思いだした。
ジョン・バルマンテ公爵。
貿易都市リングラントがある州を束ねる領主……とてつもない権力者であるお父様の跡を継いだ二代目だが、そのことを鼻にかけず実直に州のため、民のために努める傑物だ。野生児グレンの身元引受人を買ってでるほどの器量の持ち主でもある。
※4/17第7部自警団の元気印リネットと区長のトドロキ③
コピペミスの重複部分を修正しました。申し訳ございませんでした
※次回は4/24の17時頃投稿します
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