聖女フランキッシュとバルマンテ公の協力①
「お話は伺いました、全面的に協力いたします」
とある大庭園。
静謐な白い花弁広がるアスカ教神殿のの中庭にて、白いクロスの引かれたテーブルに俺とフランキッシュが対面していた。
小鳥のさえずりや川のせせらぎに加え、安らぐ香りの透き通ったお茶……飲むと心が洗われるような気分になる。
遺跡のような石造りの幻想的な祭壇、その上に佇む女神像が微笑みを携えながら俺を見下ろしている。
まるで見張られているような気になってしまうのは俺の心に邪念があるからだろうか。何もしていないのに警官とすれ違うとドキドキするあれかな?
そんなどうでもいいことを考えている俺の心を見透かしているかのようにフランキッシュは微笑んでいる。なるほど「女神の再来」とまで言われる理由が再確認できたよ。
(俺より年下のはずなのに溢れる包容力、母性を感じずに入られない……聖女と呼ばれる片鱗をかいま見たぜ)
思わず俺はへりくだって頭を下げていた。
「悪いな、頼ってばっかでさ」
そんな俺をフランキッシュは優しくたしなめた。
「頭を上げて下さいウィル様。あの旅の最中、貴方様には良くしていただきました……このくらいで恩は返しきれないと思っています」
「恩ねぇ……」
正直、四英雄の中で一番手がかからなかったのがこのフランキッシュだ。現アスカ教最高司祭の一人娘で実にわかりやすい「箱入り娘」だった彼女。右も左も世間の「世」の字もわからない……女の子だった。
でも知らないということは教えてあげれば問題ないというわけで……日を追うごとに成長し世間に順応する様は見ていて微笑ましかった。
ただ、生来の優しさ故だろう……交渉事に関しては本当に下手だったり困っている人は見捨てられないタイプで無償で物を提供したり協力を惜しまなかったり、ある時は有り金を全部施そうとしたり……大変だったのはそのくらいかな?
リグリー曰く「ウィルの気を引くためにわざとよ。あざといわぁ……」なんて言っていたが「自分にない物をついつい羨んでしまうのが人間です」と優しく許せる聖人だ。
その証拠に、俺をみる眼はわき水よりも澄んでキラキラしている。曇りなき眼とはこのことなんだろうな。
フランキッシュはその眼差しのまま微笑む。
「お話を伺いますと、何かよからぬ思惑が渦巻いている……そんな気がしてなりません。四英雄を引き合いに出し何かを企てているとしたら人事ではありませんからね」
俺は深く頷いた。
「そうなんだよな、怪盗ロブスが貴族の武器を横流し……そして山賊を退治したのがロブスの手柄になり新聞社は足並みそろえたかのように四英雄を引き合いに出していた……ロブスのせいで不安に陥っている貴族や商人が冒険者に止まらず四英雄に護衛を頼んでくるかもしれない。収拾がつかなくなるぜ」
後半、だんだん独り言みたいになっていく俺を見てフランキッシュは口に手を当て微笑んだ。
「どした?」
「いえ、相変わらずお優しいですね。私たちを貴族や商人の道具にされないよう旅先でも気を使ってらっしゃったのを良く覚えていますので」
俺は照れ隠しのように言い訳をした。
「やっかい事に巻き込まれるのがいやなだけさ。今だってナーガ区……自分のトコに被害が及ばなかったら首なんて絶対に突っ込まなかったよ」
「そうですか?」
そうさと俺は頷く。だんだん言い訳がグチ混じりになっていった。
「それに四英雄が引っ張り出されたら漏れなく調整役で俺も駆り出されるだろ……パウムやグレンがまともに一人で仕事できるとは思えない、想像もつかない、この前も――」
肩を落とし言葉が止まらない俺。聖女の前だからか自分でもビックリするくらい胸の内が紡がれていく。
「――もし俺の取得したスキルが世間にバレでもしたらスローライフからどんどん遠ざかっていってしまう」
そんな不安に押しつぶされそうな俺の手をフランキッシュは優しく握ってきた。
細く柔らかい指先が俺の手の甲を暖かく包む。
「ご安心下さいウィル様はこのフランキッシュが必ずお守りしますから」
その言葉、ものすごい嬉しいんだけど……俺は思わずツッコんでしまった。
「うん、ありがとう。でも一番ヤバイのは君から教わった天啓なんだけどね」
宗教戦争の引き金になりかねない一子相伝の秘術。俺にとっては役には立つけど自分を巻き込みかねない爆弾でもある。
フランキッシュ自身は比較的手の掛からない子に成長したんだけど、渡された爆弾は比較しようがない代物なんですけど。
当のフランキッシュは微笑みを崩すことなく俺に語りかける。
「ウィルさまの御心を救うため、私は天啓を授けました。ただそれだけです」
「根っからの善人なんだからもう……」
俺に誉められ気を良くしたのかフランキッシュは言葉を続ける。
「それにバレたとしても何一つ問題ありません。私とともにアスカ教の中枢に食い込めばいいのですから。あるところに天啓が収まればうるさい連中も何も言わないでしょう。そしてゆくゆくは四英雄を五英雄に、アスカ教を分派し新たにウィル教を設立するその足がかりの一つなのですから――」
「えっと、フランキッシュさん?」
なんかサラリととんでもないことを口にし出した彼女に俺は若干引き始めた。
「……っと、冗談です」聖女の微笑み。
なんだ冗談か。まぁそうだよな、五英雄とかウィル教とかとんでもなさすぎるもん。
※次回は4/17の17時頃投稿します
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