怪盗の思惑④
区長は眉根を寄せながら難しい理由を口にする。
「雑誌や新聞社を調べるのは難しいんだよ、一応報道の自由ってのがあるから正当な理由がないと口出しにくいんでな」
「次はナーガ区区長、恐喝で隠ぺいを当社に示唆!? とか書いて金にするんだろうな」
「冗談でもよしてくれ、母ちゃんに怒鳴られるわ」
腹を掻いて困り顔をする区長。リグリーが申し出る。
「レッドウット家の草を放つことも手だけど? 優秀よ彼ら」
一流貴族のお抱え諜報員の事か……金持ちは違うなぁ。
が、俺はその申し出をやんわり断った。
「それはよしとこう。優秀だとしても相手が見えない、もし貴族同士のいざこざに発展したら困るのはリグリーだぜ」
「ふ、ふん。私の家を気遣ってポイントためても何にもならないからねっ」
プイッと向こうを向くリグリー。
そしてトドロキ区長がこっちの顔を覗いてきた。
「ってことはアテがあるのか? 新聞社や雑誌記者ってのは情報はメシの種……なかなか教えちゃくれないぜ」
「あるんだよ、意外に情報の集まる場所が、むしろ向こうから話してくれるようなトコ」
ピンときたのかリグリーが扇子を口に合て微笑んだ。
「あぁ、アスカ教の教会ね……あそこ、何気に後ろめたい連中の心のより所よね」
大陸三大宗教の内の一つ、アスカ教。その信仰は一般の人間に止まらず貴族や商人にも幅広く浸透している。
外聞のためとかゲン担ぎとか、打算で信仰している連中も多く……厄払いに祈祷、祈願、果ては懺悔……実は濃密な情報の行き交う場所らしく普通では入らないネタのオンパレードと聞いたことがある。
「普通じゃ仕入れられない情報でもウィルなら教えてくれるでしょうね。あのフランキッシュなら」
「あぁ、あの子の優しさにつけ込むのは気が引けるけど、ナーガ区や四英雄のためなら引き受けてくれるさ」
リグリーはそんな俺を何故か鼻で笑う。
「んだよ」
「見る目のない商売人ね、フランキッシュってああ見えて……」
彼女はチラリと部屋の隙間からこちらを見ているパウムに目配せした。
「ハラグロ……だよね」
遠く出よく聞こえないがパウムが何か言っているが聞こえない。
「聞こえないぜ、こっち来いっての」
「やぶさかではない」
「何がやぶさかではないだ……で、俺はフランキッシュのところに行くけど、パウムはどうする?」
その言葉の後、パウムはドアの隙間からこっちを力強く見ている。
「この宿屋は私の居場所」
「おう、それで?」
「居場所を守るためなら外出という苦渋の決断もやぶさかではないという事だよ」
「お前、やぶさかの意味わかってんのか? まぁいい……」
その言葉を聞き遂げた俺はにっこり笑う。
「引きこもりのお嬢様も手伝うってさ。善は急げ、行こうぜフランキッシュのところに」
※次回は4/10の17時頃投稿します
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