怪盗の思惑③
「ぬ、ぬわぁ! リグリーさん!? リグリーさん!? 四英雄の一人「気高き魔術師」リグリーさんじゃないッスか! 自分ファンっすよ!」
気安く声をかけられたらいつもは憤慨するリグリーだけど、ファンと名乗り「気高き」だの誉め倒されまんざらでもない顔だった。コイツ案外ちょろいんだよな。
ちなみにだけどこの「気高き魔術師」ってのは自分から言い出した二つ名だ。
「よかったなぁ、ずーっと言い続けてようやく浸透したんじゃないか「気高き魔術師」の二つ名」
「うっさいわね……まぁでもファンというなら邪険にできないか」
最初の「何コレ」から一転、リネットに優しく振る舞うリグリー。
が、彼女はこともあろうに彼女を自警団に勧誘する。
「是非ともリグリーさんにも騎士団に入ってもらいたいっすよ! 「鋼鉄の女騎士」パウムに加え
「気高き魔術師」リグリーさんも「ついで」に入団してくれたら自警団はもっと大きくなるっすよ! 自分も見習いの腕章がとれて一気に昇格!? うっはー夢が広がるっす!」
(この端々から漂う「おまけ」感よ……)
分かりやすくリグリーの表情が一転した。うん、俺でも怒るわ。
「ねぇウィル、自警団ってあの旗のところかしら?」
「ん? あぁ」
遠くに見える大きな旗のある建物を指さすリグリー。
そしておもむろに立ち上がるとリネットの肩をむんずと掴んだ。
「お、アレっすか! 自警団に入ってくれんスか!? じゃあ一緒にパウムさんも入団するよう説得を――」
「だまれ小娘」
リグリーは満面の笑みでリネットを扇子で扇ぎお得意の転移魔法をぶちかました……転移魔法をぶちかますって普通おかしいけど、今はこの表現がぴったりだ。
「えぇぇ!? ちょ――」ヒュオ
次の瞬間宿屋内から一瞬で姿を消したリネットは遠くにある自警団の旗にしがみついていた。
「うわぁぁぁぁ! 助けてっすぅぅ!」
遠くからでも良く通るな、あの声。
「昇進したいとか言ってたから物理的に叶えてあげたわ」
ホント、コイツは絶対敵に回しちゃいけないな。
そんな茶番の最中、区長はずーっと新聞と睨めっこしていた。
「各社同時に飛ばし記事を書いたとは考えられねえ、内容も半分でたらめだ。山賊の根城の場所とか山賊が傭兵くずれってのはあっているけどよぉ……ロブスの活躍が気持ち悪いぐらい脚色されているな」
「どの記事もロブスが退治したって持ち上げている……でも山賊に武器を横流ししていた可能性があるのはロブスだよなぁ」
何の符号だ? と、記事を読み合点のいかない俺は首を傾げる。
そして俺の横で記事を読んだリグリーもいきり立っていた……リネットのせいでさっきからスイッチが入りっぱなしだぜ。
「ナニコレ!? どの記事も妙にロブスよりじゃない!? 「時代は四英雄ではなくロブス」とか、微妙に私たちをコケにする記事もあるし!」
「山賊のスポンサー、そして各社同時に出した似通った記事……」
パウムも部屋の隙間から心配そうにこちらを見ていた。
「やっかいなことが起きているのかもしれないな。のんびり宿屋を経営したいのにさ」
俺のボヤキに対し、トドロキ区長は何故かニコニコしていた。
「何だよ」
「やっぱ冒険者ギルドやんねえか? 様になるぜ」
しかめっ面をする俺にリグリーが横から囁いてきた。
「悪くないじゃない、宿屋の主人よりよっぽど似合うと思うわ。私が所属すれば瞬く間に一流冒険者ギルドになれるわよ」
「冗談じゃない、都合よく使われるだけだ……俺も、お前たち四英雄もな」
俺は目頭を押さえ言葉を続ける。
「良くも悪くも独り立ちできていないコイツら四英雄は、ほっといたら変なことに巻き込まれかねない。その都度駆り出されるのは俺だ……大々的に冒険者ギルドなんてやりだしたら体がいくつあっても足りないぜ。それに――」
「それに?」
問い直すリグリーに俺は恥ずかしそうに答えた。
「頑張って世界を救ったお前ら四英雄が政治や争いごとに利用されるのは仲間として気分の良いことじゃないからな」
「そ、そういうこと平気で言えるのは……ムカツクわね」
「平気じゃねぇよ! 言ってて結構恥ずかしいんだぜ! ……さて」
気を取り直すと俺は真剣な顔でトドロキ区長に頼む。
「区長、さっきの件に加え新聞社も洗ってもらえるか?」
しかし区長は容易ではないと表情で示した。
※次回は4/3の17時頃投稿します
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